7月4日、米国は建国250年を迎える。ワシントンでは「America250」の祝祭が続いており、ナショナルモールには巨大観覧車が設置され、全米50州を紹介する博覧会が開催されている。独立宣言が採択されたペンシルベニア州のフィラデルフィアでは大規模な記念フェスティバルが開催され、全米を巡る帆船パレード「Sail250」も各地で歓迎を受けている。

ベッセント財務長官が公開した、トランプ大統領の肖像を入れた250ドル紙幣のイメージ(2026年5月28日)
ベッセント財務長官が公開した、トランプ大統領の肖像を入れた250ドル紙幣のイメージ(2026年5月28日)
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トランプ大統領の支持者の間では、建国250周年を記念してトランプ氏の肖像を描いた「250ドル紙幣」を発行すべきだとの声まであがっている。

だが、その祝祭の陰で、もう一つの歴史が静かに進行している。250年前は米国へのエクソダス(exodus・大脱出)だった。250年後は米国からのエクソダスである。

“ExodUS=アメリカからの脱出”

ウォールストリート・ジャーナル紙によれば、2025年の米国では大恐慌以来初めて国外流出者が流入者を上回った。少なくとも15万~18万人の米国民が海外へ移住したと推定されている。海外在住の米国人は400万~900万人とも言われる。

移住支援業界では、この現象を「ExodUS」と呼び始めている。Exodusではない。ExodUS。「US(United States=合衆国)」からの脱出を意味する造語である。

「Exodus(エクソダス)」とは、もともと聖書の『出エジプト記』を指す言葉だ。モーセに率いられたイスラエルの民が、エジプトの奴隷状態から脱出し、約束の地を目指した物語である。このため米国では、抑圧から自由へ向かう旅路や、新天地への移住を象徴する言葉として広く使われてきた。

そもそも米国という国そのものが、「エクソダス」の思想によって生まれた国だった。

100ドル紙幣に描かれた「建国の父」の一人、ベンジャミン・フランクリン
100ドル紙幣に描かれた「建国の父」の一人、ベンジャミン・フランクリン

17世紀、宗教的迫害から逃れた清教徒たちは、大西洋をモーセが渡った紅海になぞらえ、新大陸を神が与えた「約束の地」と考えた。1776年の独立戦争では、英国王ジョージ3世がファラオになぞらえられた。ベンジャミン・フランクリンは、米国の国璽として「紅海を渡るモーセ」の図柄を提案したほどである。

演説するキング牧師(1963年)
演説するキング牧師(1963年)

そして1960年代、公民権運動の指導者キング牧師は、自らをモーセになぞらえながら「私は約束の地を見た」と演説した。抑圧から脱出し、新しい自由の地へ向かう。それが米国建国以来の物語であり、後にアメリカンドリームと呼ばれる精神的基盤だった。

だからこそ今日起きている現象は象徴的である。いま、人々が目指している約束の地は、ポルトガルであり、スペインであり、イタリアであり、フランスであり、メキシコであり、タイである。彼らが求めているものも共通している。安い住宅。安い医療。安全な街。そして穏やかな生活である。

米国人の国外流出、外国人の米移住意欲の低下

近年の米国では住宅価格の高騰が続いている。ニューヨークやサンフランシスコでは、年収10万ドル(約1500万円)を超えていても、生活は決して楽ではない。

アメリカでは、65歳の夫婦は退職後の医療費として30万ドル(約4500万円)以上を準備する必要があるともいわれる
アメリカでは、65歳の夫婦は退職後の医療費として30万ドル(約4500万円)以上を準備する必要があるともいわれる

特に退職世代にとって問題は深刻だ。FRB(連邦準備制度)の調査によれば、退職世帯の平均支出は月5000ドル(約75万円)前後に達するが、社会保障給付の平均額は約2000ドル(約30万円)に過ぎない。さらに、65歳の夫婦は、退職後の医療費として30万ドル(約4500万円)以上を準備する必要があるとも言われる。

こうした現実を前に、米国人が海外へ目を向けるのは不思議ではない。ギャラップ調査では、「機会があれば海外へ永住したい」と答えた米国人は5人に1人に達している。若年層ではその割合はさらに高く、15歳から44歳の女性では約40%が海外永住を希望している。

米国への移住を希望する外国人は減少
米国への移住を希望する外国人は減少

一方で、世界の人々の「米国へ永住したい」という希望は低下を続けている。かつて世界の成人の4分の1近くが米国への移住を望んでいたが、その割合は現在15%前後まで下がった。つまり、今起きているのは、米国人の国外流出と、外国人の対米移住意欲の低下が同時進行する現象なのである。

250年前は米国へのエクソダスだった。そして250年後の今年、人々は新たな約束の地を求めて米国から旅立ち始めている。ExodusからExodUSへ――。建国250周年の米国を象徴する言葉があるとすれば、それはこの皮肉に満ちた造語なのかもしれない。
(執筆:ジャーナリスト 木村太郎)

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木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。