すると科警研や日本音響研究所の鑑定結果で、「金子の声と断定はできないが酷似している」との結果が出される。
科警研の鑑定官は「一致と断定するには破れた紙の切れ端と切れ端を突き合わせてピタリと一致しなければいけない。『一致』が出るのは極めて難しいものだ」と評価した。
特捜本部は「酷似」でも十分に証拠になり得るとの判断に至ったのである。
オウム信者・金子の声か…
石室や栢木による教団幹部矢野への取り調べの結果、テレビ朝日にかかってきた事件直後の犯行声明ともとれる電話は「教団信者の金子の声である」との供述が得られた。
科警研などで鑑定を行い「金子の声と酷似している」との結果も出されている。
これを受け特捜本部は東京地検公安部と協議し、金子の逮捕について具体的な検討に入った。
「金子の声だ」
教団幹部・矢野による証言に端を発した捜査結果から、長官銃撃事件の特捜本部は、具体的にオウム真理教の関与を強く疑うようになっていったのである。
8月に始まった総合捜査報告書作成
栢木が金子の逮捕状請求のため総合捜査報告書の作成に取りかかったのは、8月に入ってからだった。
その報告書ではまず、長官銃撃事件がオウム真理教による犯行であることを説明しなければならない。

3月20日に地下鉄サリン事件が発生し、22日にオウム関連施設への一斉捜索、そして30日に長官が撃たれた。その後は事件に関与した教団幹部が次々に逮捕される。
実行犯として地下鉄サリン事件をおこした教団の医師・林郁夫が「自分がサリンを撒いた」と自供したのが5月6日だ。

5月15日には、目黒公証役場事務長監禁致死事件や地下鉄サリン事件など教団による様々な凶悪事件に関わっていた井上嘉浩が逮捕される。
井上は後に脱会を宣言し、数々の教団の凶行について自供に至った。

5月16日に警視庁は再び山梨県上九一色村の教団関連施設を捜索し、ついに隠し部屋にこもっていた教祖、麻原彰晃の発見逮捕に至り、教団は壊滅状態に向かっていったのである。