下重:
生意気だったわよね。当時の社会では女性が家族のために尽くすのは当たり前という考え方が主流でしたから、自分のことは後回しにして夫や子どもの世話を焼いていた女性は多数派。

私の母が特別だったわけではないんです。それでも、母には自分自身の人生を歩んでほしかった。なぜなら、私もそうしたかったから。自分の人生の主人公は自分でしかないのです。

母は何も言い返さなかった

秋吉:
下重さんのお説教に、お母さまはどういう反応でしたか。

下重:
とっても悲しそうでした。母は地主の家に生まれて不自由なく育ったから、女性が自立して生きていくイメージなんてもっていなかったんだと思います。私に不自由をさせたくない、という一心だったのではないかしら。

秋吉:
何も言い返さなかったのですね。感情を抑えていらっしゃったのかな。

下重:
母は私の性格を熟知していましたから、反論をしても火に油を注ぐだけだと思っていたはずです。静かに微笑んで、一人で散歩に出かけていきました。そのまま一緒にいたら、私がまたなにか言い始めることがわかっていたんでしょう。1時間くらいしたら帰ってきましたけれど。