秋吉:
ある意味、お母さまのほうが一枚上手だったのかも──。その一方で、下重さんが貫く徹底的な「自分軸」、私は敬服します。

下重:
120パーセント自分のために生きていれば、たとえ気に食わないことが起きたとしても誰のせいにもできないし、言い訳もできない。自ら選択した道である以上、途中で苦しいことがあっても文句はいいません。
すべて自分の責任だと受け入れられる。それから、自分自身が好き勝手に生きていれば、他人の生き方にケチをつけたり、嫉妬したり、嫌がることを押し付けたりしませんよね。
秋吉:
誰かのために生きるということは、相手を思いやる利他主義のようにみえて、多くの場合は違いますね。大概は「感謝されたい」「自分を必要としてもらいたい」って、見返りを求めています。つまり、根っこには利己主義が隠れていることも多い。
下重:
そういうことです。
秋吉:
近頃は「毒親」なんていう言葉も耳にしますよね。自分の子どもを支配下に置いて、傷つけたり、ネグレクトしたりする人たちのことを指すんだそうです。
私、母に「毒気」があったなんて夢にも思わないけれど、自分が叶えられなかった夢を娘の私に託そうとしていたのでは……という意味では、ずっと重荷を背負わされて生きてきたのかもしれない。かたや、下重さんは中学生の時点で「私は私の道を行きます」と宣言していたわけですからね。
下重:
それはお母さまへの思いやりゆえでしょう。何かを押しつけられたわけではありませんから。私自身は自分のことだけを考えて、母に対峙した。結果的にはそれがよかったんだろうと思いますけどね。

秋吉久美子
1954年生まれ。1972年、映画『旅の重さ』でデビュー後、『赤ちょうちん』『異人たちとの夏』『深い河』など出演作多数。早稲田大学政治経済学術院公共経営研究科修了。
下重暁子
1936年生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、NHKにアナウンサーとして入局。民放キャスターを経て文筆業に。著書に『家族という病』『極上の孤独』など多数。