「古き良き日本の景色を守りたい」。その思いから素材の特徴を伝えるため、瓦でつくったイヤリングや御守などを販売する店をオープンさせた女性がいる。本職は屋根の上でにらみをきかせる「鬼瓦」を作る職人、“鬼師”だ。

屋根の上に飾られる「鬼瓦」を製作

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屋根の上に飾られる鬼瓦の製作を専門とする鬼師・長澤玲奈さん(25)。

鬼瓦を作る際は「線を彫る時にはきれいな影ができるように、深さで下から見た時にも顔が怖く見えるように意識している」という。

手がけているのは静岡市内を流れる巴川流域の良質な土を使った「清水瓦」で、明治時代に生産が始まったと言われている。

豪雨で途絶えた伝統産業を守りたい

七夕豪雨の浸水被害(1974年 静岡市)
七夕豪雨の浸水被害(1974年 静岡市)

しかし今から50年前の1974年。

静岡県内全域に甚大な被害をもたらした七夕豪雨。

静岡県内では44人が死亡し、約8万棟が浸水した七夕豪雨だが、特に静岡市の中心部を流れる安倍川流域と巴川流域で浸水被害が深刻で、清水瓦を作るほぼすべての窯元が廃業を余儀なくされ歴史が潰えた。

長澤さんはこの事実を屋根瓦の施工を専門とする父・宗範さんから学生時代に聞いたと振り返る。

鬼師・長澤玲奈さん:
同じ清水に生きていて、自分がその(瓦に関わる)血筋だったのに清水瓦の存在を知らなかった。瓦は同じだと思っていて、清水瓦もそういう状況(災害)で本当になくなってしまったものだったので、広めなければいけないと思ったのが、より活動を熱心にやろうと思ったきっかけ

父の話を聞いて瓦職人の道へ

父・長澤宗範さんと
父・長澤宗範さんと

もともと養護教諭になりたいと思っていた長澤さん。

職人気質で寡黙な父・宗範さんからは仕事の話を聞くことはほとんどなく、家業を継ぐつもりもなかったが、ふとしたときに「俺らの代で瓦は終わり」という話を聞き、さみしさを感じて瓦職人の道を選んだそうだ。

高校卒業後は瓦産業が盛んな愛知県の三河地域の窯元で修行し、生まれ育った地元・清水に戻ってきた。

清水瓦の職人
清水瓦の職人

鬼師・長澤玲奈さん:
当時の職人に話を聞いて回った。みんな「すごく大変だった」と言いながらも笑顔で楽しそうに、「家族でこうやって瓦を持って」「一晩中 窯のそばに親父がいて」「火を見ながらやっていた」「家族や地域のみんなで頑張っていた」と聞いた 

瓦の魅力を伝える専門店オープン

清水瓦で作ったイヤリング
清水瓦で作ったイヤリング

「清水瓦の良さを伝えたい」

その思いで2024年10月にオープンさせたのが、瓦を使った小物の展示や販売を行う専門店だ。

コンセプトは「素材としての瓦の魅力を知ってもらうこと」。

店内には清水瓦を使ったお守りやイヤリングなど約40種類が並んでいる。

長澤さんがオープンした瓦小物専門店
長澤さんがオープンした瓦小物専門店

来店客も「瓦を残したいという気持ちが伝わってきて、(瓦を)新しい形でいろいろな人の生活に馴染むように考えている。応援したいと思う」と好意的に受け止めている。

特に繊細な加工を施したアロマストーンは自慢の逸品だ。

長澤さんによると、瓦が長年使われてきた理由の1つは吸水性の高さで、冬に屋根裏が結露した時には瓦が水を吸い込んで家を腐らせずにしてくれるため、「瓦が呼吸をして湿気を逃がしてくれることを知ってほしくてアロマストーンにした」と開発の経緯を話す。

オリジナル商品を依頼した客と打ち合わせ
オリジナル商品を依頼した客と打ち合わせ

まだ、オープンから日は浅いが、中にはオリジナルの商品の製作を依頼する客もいて、この日は神輿の製作を依頼されサイズなどを打ち合わせていた。

神輿を依頼した客:
絵(デザインイメージ)を描いてくれて、たまたま(神輿が出る)イベントがあるので、それに参加して(デザインなどを)再確認してくれると。そういう職人はいない

父娘で“古き良き日本の景色”を守る

長澤さんがこの道に進むきっかけとなった話をした父・宗範さんは前述の通り屋根瓦を施工する「瓦葺き師」で、鬼師である娘とはジャンルは異なるが、「瓦を広めたい」という志は同じで、大きな期待を寄せている。

父・長澤宗範さん:
娘ながら尊敬する。自分でどうしていきたいのか、ちゃんとビジョンを持ってやっているというところはすごく感心する

鬼師・長澤玲奈さん:
瓦をどんどん広めていきたいという思いがあるので、(静岡市に)駿府城が再建される時には私が鬼瓦を作りたいという思いと、新しく家を建てる人が「瓦がいいよね」と選んで声をかけてくれたらすごくうれしい

古き良き日本の景色を守っていくために。

災害により一度は途絶えた郷土の伝統産業を後世へと残す長澤さんの取り組みは、まだ幕が開いたばかりだ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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