北朝鮮兵のロシア軍への参加、ロシアによる新型ミサイルの使用が報道されている。ウクライナ軍は長距離ミサイルや対人地雷をどう用いて対抗していくのか。「BSフジLIVE プライムニュース」では専門家を迎え、急激にエスカレートするウクライナ情勢を分析した。

国内のみならず国外からも兵士を集めるロシア

竹俣紅キャスター:
11月12日、アメリカ国務省が北朝鮮兵のロシア軍への戦闘参加を確認したと明らかにした。ロシア軍が北朝鮮の兵力を必要とする背景は。

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小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ロシア側の言い分では人の数自体はさほど不足していない。だが訓練能力が高くなく、朝鮮人民軍で訓練を受けた人を1万人単位で集められることは大きい。またロシアは公式の戦争と認めていないため総動員をしておらず、大学で軍事訓練を受けた小隊長・中隊長になるべき人を集められていない。朝鮮人民軍は小隊長も中隊長もつけて送ってくるはず。

合六強 二松学舎大学国際政治経済学部准教授:
アメリカのトランプ次期大統領が停戦に前向きな姿勢である以上、今後の停戦交渉の可能性は覚悟すべき。交渉開始前に領土を拡張したいロシアには当然人も必要になる。対してウクライナは人手不足が非常に深刻。武器を送っても人がいなければ情勢が変わらないことをアメリカも問題視している。アンバランスな形になる可能性がある。

反町理キャスター:
ロシアは、1500万円までの借金は棒引きにするので兵隊にならないかというオファーをしている。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
これまで兵隊を集めてきた条件はロシアの田舎の人たちにとって月収の10倍程度。今回はさらにだいぶ良く、地方都市なら十分マンションを買えるぐらい。つまり都市部のマンションを買うことが視野に入る階層の人も集めているのでは。また従来は囚人を動員してきたが、最近は起訴段階で軍隊に誘われるという。なりふり構わずやっている。

反町理キャスター:
ウクライナが越境・侵攻したロシア領クルスク周辺に、北朝鮮部隊が入っていると見られる。戦闘への影響は。

髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
冬が近づき泥濘地で装甲車両が走行できなくなると歩兵主体の戦闘になる。「暴風軍団」と言われる北朝鮮の第11軍団は14個の旅団ほぼ全てが歩兵主体。クルスクに展開するロシア軍とは編成装備的にマッチしやすいだろう。この戦場では現在、重い機械化部隊のウクライナと軽い歩兵主体のロシアが戦っていることになる。

長距離ミサイルと地雷の使用はウクライナを後押しするか

竹俣紅キャスター:
11月17日、バイデン大統領が射程約300kmのアメリカ製の長距離地対地ミサイル「ATACMS」を、ロシア領内への攻撃に使用することを許可したと、米主要メディアが報じた。

合六強 二松学舎大学国際政治経済学部准教授:
バイデン政権内では意見が割れていたが、北朝鮮兵の派兵というロシア側の重大なエスカレーションに何もしないわけにはいかない。同じく長射程ミサイルの解禁問題に直面していたイギリスやフランスからの説得もあった。またトランプ就任前に解除しておくのは重要。

髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
245の重要施設が射程に入っている。物を運ぶ上で300kmの距離があると中間貯蔵庫を置かねばならず、その貯蔵庫や兵站拠点を叩けば大きな効果がある。ただATACMSの残りの弾数は50発程度か。数を勘案すれば戦局を大きく変化させはしないだろう。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
弾薬庫などを継続的に叩く意味では50発でもありがたいとは思う。停戦の可能性を考え、それまでにめちゃくちゃな負け方をしないための火力という考え方はある。また、残弾がなくてもまだあると見せるだけでロシア軍は射程内に重要なものを置けなくなり非効率になる。

竹俣紅キャスター:
米オースティン国防長官は、ウクライナへの対人地雷の供与を許可したと明らかにした。爆発のタイミングが制御可能で、電池で稼働し最長2週間で電池切れになるもの。バイデン政権の思惑は。

合六強 二松学舎大学国際政治経済学部准教授:
軍事的には、東部で歩兵での攻勢が増え押されている中で、従来の対戦車地雷だけでなく対人地雷が必要になっていること。政治的にはトランプ政権成立までにできるだけ早く支援すること。

反町理キャスター:
この地雷「ADAM」はどのようなものか。

髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
155ミリの榴弾砲の中に36個の地雷が入っており、弾が割れて散布地雷として地表面に落ちる。落ちたらワイヤーが伸び、力がかかると爆発物が跳ね上がり地上1〜2メートルの間ぐらいで爆発する。10メートルほどの範囲に数百の破片が飛ぶ。歩兵が森林地帯などに潜伏しながら夜間に侵入してくることは防ぎにくいが、この散布地雷を事前に仕込んでおき一発でも被害が出ると歩兵が入りにくくなる。ウクライナ軍の焦点は今の接触線(戦線)を1月20日のトランプ就任までどう守るか。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
今、ロシア軍は1日に1500人の兵隊が死んでいると言われる。この人命軽視を考えると、ADAMがあるから攻めないとはならないと思う。ただ現実に損害が増えれば可能行動は狭まる。またトランプ就任で停戦の圧力がかかれば、一方的に占領されているのではなくわずかでもウクライナもロシア領を占領しているかどうかが交渉では重要となる。

トランプ就任を前に日本がウクライナから学ぶべきこと

竹俣紅キャスター:
ロシアが最新の中距離弾道ミサイル「オレシュニク」を発射。ウクライナ軍の当初の発表ではICBM(大陸間弾道ミサイル)とされたが、プーチン大統領は自ら新型のIRBM(中距離弾道ミサイル)だと述べた。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
ヨーロッパを脅す意図があるのでは。ヨーロッパとロシア間の核戦争はあり得るかも、ヨーロッパは核兵器の数も少なくロシアのような早期警戒システムもない、何よりアメリカが守ってくれないかも、と。皆さんのせいでかつての中距離ミサイル危機と同じ状況に戻ってしまったと言いたいのだと思う。

合六強 二松学舎大学国際政治経済学部准教授:
思い出すのは旧ソ連による1970年代のIRBM「SS-20」配備。重要なのは軍事的ではなく政治的な意味合い、米欧を切り離す「デカップリング」だった。アメリカには届かないがヨーロッパの全大都市は射程に入る。今回政治的な意味でのターゲットがあるなら、エスカレーションを恐れまだミサイルを出していないドイツだと思う。さらにトランプがウクライナやヨーロッパから撤退する傾向なら、ヨーロッパには一緒にウクライナを見捨てるか一致団結してさらに踏み込んだ支援をするかの分岐点となる。だからロシアはミサイルで脅したいのでは。

髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
実はこのミサイル・ギャップが世界で最も深刻なのは東アジア。中国が持つ短距離・中距離弾道ミサイルの総数と日米が持つ数を比べると、少なく見積もって1000対0、多く見積もれば2800対0。アメリカが配備していないから。弾は台湾と日本に落ちてくる一方、アメリカ本土には届かない。東アジアでも同様の状況で日米のデカップリングが起きつつあると思う。我々は真剣に認識すべき。

竹俣紅キャスター:
ウクライナとロシアの戦争のエスカレーションは今後どこまで進む可能性があるか。

髙田克樹 元陸上総隊司令官 元陸将:
小泉先生がよくおっしゃる水平方向と垂直方向のエスカレーションを考えると、ロシアの垂直方向は核のカードしか残っていない。一方で水平方向では北朝鮮の参戦など同志国が集まってくれることがある。ウクライナ側の垂直方向では、米軍の新型ミサイル等が来れば全く違ったステージになる。中国やロシアの核に対し日米の通常戦力がどう抑止できるかという点で、この2カ月をよく見ておかないといけない。

反町理キャスター:
プーチン大統領とドイツのショルツ首相の電話会談があった。ウクライナのゼレンスキー大統領は「電話協議は対露融和論を強めるパンドラの箱を開けた、これはプーチン大統領が長い間望んでいたことだ」と批判。

合六強 二松学舎大学国際政治経済学部准教授:
誰かが電話をかければ電話をかけるハードルが低くなる恐れをゼレンスキーは示していると思う。ただショルツが電話したのは、トランプがプーチンと話すと言っている中でヨーロッパでの出来事について米露が頭越しに話すことが問題だから。これ自体はよく理解できる。問題はショルツがヨーロッパの周辺諸国と歩調を合わせなかったこと、そしてショルツ政権がまもなく終わりそうなこと。

反町理キャスター:
オレシュニクは当然アジアに配備される可能性もある。髙田さんの話にあった中国、また北朝鮮も含めれば、日本はものすごい数の核搭載可能なミサイルに囲まれる。トランプ次期大統領がアメリカファーストのポリシーに徹底的に固執して、アメリカに届かないのだからいいと言うかも。日本はその状況でどうすればいいか。

小泉悠 東京大学先端科学技術研究センター准教授:
その状況はずっと前から。だからといって直ちに日本国が滅びていないのは、一つはアメリカの拡大抑止を何が何でも引っ張り込んでいるから。トランプ政権だからと諦めないで引き続き努力すべき。その意味でウクライナに見習うべき部分はある。ウクライナがATACMSで弾薬庫を叩くように攻撃力の源になる部分だけでも叩く能力を持つなど、考えることは多くある。
(「BSフジLIVEプライムニュース」11月25日放送より)