新型コロナウイルスの影響で、多くの学校では夏休みを短縮し、一部の大学などでは「オンライン授業」を導入するなど様々な対応に迫られている。

こうした中、100%オンライン授業だけで卒業できるビジネス・ブレークスルー大学(以下BBT大学)では、オンラインで参加する学生が操る分身ロボットと、リアルに参加する生身の学生が1つの教室で勉強する「アバター授業」を開始し、その模様を動画で公開した。

東京・千代田区にあるBBT大学は、私立や国立ではなく、株式会社ビジネス・ブレークスルーが運営する大学。

実は千代田区は、2003年に株式会社が大学や専門職大学院の設置主体になれる「キャリア教育推進特区」に認定されており、これを受けて2005年4月にBBT大学院大学を開校、2010年に経営学部を設置し、BBT大学となった。
一般的な通信制大学とは違い、講義・グループワーク・試験も100%オンラインで受ける事が可能で、通学することなく経営学の学士の資格を得ることができるという。そのため現在では卒業生あわせ、世界110ヶ国に居住する学生がビジネスを学んでいるそうだ。

出典:ビジネス・ブレークスルー大学(以下全て)
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オンライン参加者が交代で「アバターロボット」に

そして、気になる「アバター授業」の内容だが、動画で紹介されたのは7月26日に経営学部グローバル経営学科 学科長の谷中修吾教授のもと、千代田区の校舎で行われたもの。

教室には谷中教授をはじめ9名の学生と3名のスタッフが集まり、そこにオンラインで69名の学生と、学習をサポートする3名のラーニングアドバイザーが参加し、さらに「newme(ニューミー)」というavatarin株式会社が開発したコミュニケーションアバターロボットが3台用意された。

普及型コミュニケーションアバター「newme(ニューミー)」

このロボットは操縦者の顔などを表示する画面と、自由に移動できる4つの車輪を備えており、教室内を自由に移動できる。授業ではさらにロボットの存在感を高めるため、腕状の棒と「ハリー・ポッター」の衣装を着せるという独特な工夫を施した。アバターロボットの操作は一般的なPCが1台あれば可能で、実際にマレーシア在住の学生がノートパソコンで参加している画像も公開されている。

物理的に実体のあるアバターロボットのため、リモート環境でパソコンから操作する人は“自らの分身”として現場に介入することが可能で、現場にいる人にとっては相手がそこに実在しているかのように感じられることが大きな特徴だという。

マレーシアからアバター参加した学生の操作環境

授業内容は「マーケティング基礎」で、新しいカフェを立ち上げるためのグループワークが始まると、まずラーニングアドバイザーがロボットを操縦し、学生の席を回りながら討議する論点についてアドバイス。

続いて、各グループで論点がまとまると、オンラインで参加している6名の学生が順次ロボットに乗り換え、教室の学生や谷中教授と一緒にグループディスカッションを行い、大いに盛り上がったという。
 

この授業の参加者からは下のような感想が寄せられた。
・ラーニングアドバイザー:「自分が行きたい場所に行けることや、アバターで人との距離を感じられることなどが良いと思った」
・リアル参加した学生:「(アバターの参加者が)まるでそこに存在しているよう。親近感を持てた」
・アバター参加した学生:「離れたところで意思通りに動くことが非常に不思議な感覚でした」

 

確かにアバターロボットが動くことによって、離れたところにいる人をよりリアルに感じられそうだが、授業としてはどのようなメリットをもたらすのだろうか?
谷中修吾教授に聞いてみた。
 

アバターが「現場に介入できる」ことで議論の質を上げる

――「アバター授業」のメリット・デメリットは?

最大のメリットは「現場に介入できる」ということです。アバターロボットという物理的な身体を持って現場に登場することで、会場を自由に動き回ったり、生身の人間に接触したりすることができます。そのため、一般的なビデオ会議と違って、物理的に「相手とつながっている」「一緒に現実をつくっている」という感覚が生まれます。

特に、対面で討議するグループワークでは、その場の雰囲気や相手の挙動からヒントを得て、ユニークなアイデアが生まれることも数多くあります。生身の学生とアバターの学生がともに実体を伴って討議することで、メンバー全員が一体感を持つために自然とディスカッションが盛り上がり、良質なアウトプットを生み出すことができるのです。

逆に、敢えて現場に介入する必要がない場面においては、一般的なビデオ会議のほうが良いでしょう。アバター授業は、グループワークにおいて対話の利便性を高めるために導入しているのではなく、グループワークにおいてチームビルディングを実現することで議論の質を上げるために導入しており、現場に介入するという価値を強く意識して設計しています。
 

――そもそも「アバター授業」導入の狙いは?

対面の討議が有効な「グループワーク」において、コロナ禍で現場に参加できないグループメンバーが、自らの分身となるアバターロボットで現場に参加できる機会をつくりたいと考えたことが着想のきっかけです。

BBT大学では、リアルとオンラインを交錯させる新しい教育のあり方を体現するために、avatarin社の協力を得て「教育デザイン・ラボ」を立ち上げ、アバターロボットをビジネス教育に導入するプロジェクトを進めています。
 

今後は「触覚」の転送が可能に⁉

――「アバター授業」の未来は?

avatarin社のアバターロボットの開発はどんどんアップデートされているため、アバターに「手」がついて、触覚の転送が可能になってくると見込まれます。したがって、現場に介入できることが大きな価値となる授業には、アバターの導入ニーズがますます高まると思います。

また、自らの分身となるアバターを現場に設置すれば、国内外を問わずフィールドが広がります。危険が伴う現場にもアバターで突入して調査を行うことも可能になりますし、海外の現場をアバターで歩いて文化体験することも可能になるでしょう。簡易的な触覚が増設されると、リモートワークへの応用は格段に広がるはずです。東京でタクシーに乗ったら、運転手がアバターで、そこに憑依している生身の運転手は実は海外にいるということも、近い将来にあり得るかもしれません。
 

アバター授業を解説するBBT大学経営学部グローバル経営学科長の谷中修吾教授

谷中教授はこのロボットを使った「アバター卒業式」を今年3月に開いたことでも話題になっていた。
コロナ禍で一気に普及したオンライン会議については、様々なメリット・デメリットが語られているが、こうした試みを経て、より質の高いものになっていくのではないだろうか。
 

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