「やっと前を向いて歩いていたのに」

能登半島地震からわずか9カ月で再び襲った豪雨災害に、住民はこうつぶやいた。

大きな被害を受けた輪島市ではいま「雪が降る前には水害以前に戻りたい」という思いで復旧作業が続いている。豪雨災害から1カ月たった住民の思いを聞いた。

輪島で倒壊した建物の撤去はこれからだ
輪島で倒壊した建物の撤去はこれからだ
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収穫以上にいまやるべきことがある

「田んぼの半分は収穫ができていませんが、それ以上にいまやるべきことがあります」

豪雨により甚大な被害を受けた輪島市町野町で、復旧に向けたボランティア活動をとりまとめる山下祐介さん。能登半島地震の後、山下さんたちは「町野復興プロジェクト実行委員会」を立ち上げ、住民の有志と町を盛り上げるために活動をしていた。

そのさなかにこの町を襲った豪雨災害で、山下さんらは被災直後からボランティアセンターを開設している。

山下さんご夫妻。町野町のボランティアセンターにて
山下さんご夫妻。町野町のボランティアセンターにて

ボランティアセンターは被災した中学校の体育館を利用している。いま土日だと80人程度、平日は40人程度のボランティアが全国からやってくるという。ともに活動をする山下さんの妻、桂子さんはこう語る。

「遠いところは北海道や九州からも。以前災害を経験された方もボランティアに入って頂いています。基本的には泥のかき出し作業が多いです」

1時間でも泥をかき出してもらえたら

山下さんの家では祐介さんが収穫した米を米粉にして、桂子さんがベーグルをつくり販売していたが震災後営業ができない状態だった。そしてやっと再開の見通しがたった矢先に、水害が襲った。

「いまは雪が降る前に何とかしたいという思いでやっています」という桂子さん。そのために1人でも多くのボランティアに参加してほしいと訴える。

「人手が足りないので、1時間でも来て泥をかき出してもらえたら助かります。スコップなどの用具やマスクなどはこちらにありますので気軽に来てください」

渡部さん(中央)ら新公益連盟のメンバーは泥の書き出し作業を行った
渡部さん(中央)ら新公益連盟のメンバーは泥の書き出し作業を行った

取材した当日は全国約180のNPOやNGO団体が加盟する新公益連盟のメンバー約40人が、このボランティアセンターを訪れ、泥かき等の作業を行った。

新公益連盟の共同代表の渡部カンコロンゴ清花さんはこう語る。

「今回、地域創生や教育など、普段は様々な社会課題領域の最前線にいる団体のリーダーが集まりました。そのリーダーたちがここで考えたことを持ち帰り、現場の支援や専門領域の政策提言に活かすなど、何倍にも広げていければと願っています」

どこまで頑張り続けたらいいのか

「いま頑張ろうっていう言葉は、使わないように決めています。皆、震災直後からずっと頑張ってきたんです。この先どこまで頑張り続けたらいいのか、終わりが見えないんです」

そう語るのは震災をきっかけに輪島で結成され、地域の母親を中心に様々な活動を行ってきた「わじまミラクルず」発起人の岡垣未来さんだ。

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岡垣さん(右)と池端さん。mebukiにて
岡垣さん(右)と池端さん。mebukiにて

岡垣さんは豪雨災害の後「これまで自分たちがやってきたことが、すべて逆にご迷惑になったんじゃないか」と考えたという。

「震災の被災者の方々にお渡しした物資が全部ゴミとして処分しないといけなくなって、逆に負担をかけてしまったんじゃないかと。せっかく次のステップにいけると考えていたのに、全部がゼロからのスタートになったのかなと思いました」

仮倉庫でいいからあればと思います

いま輪島の市街地では週に2回、民間団体による物資の配布が行われている。しかし水害で被災した住民は物資を取りに来る余裕がない。そこで岡垣さんは自分たちが物資を受け取り届けに行く活動を始めるつもりだ。

「『いまはできることをひたすらやろう』。これを今後の活動テーマにしようと思っています」

水害の復旧作業は続いている
水害の復旧作業は続いている

いま被災した住民が必要なのは、物資を置ける倉庫だと岡垣さんは言う。

「震災で建物が公費解体となっても、家財道具などを置ける倉庫がないことが問題点としてあがっています。水害の中で助かった荷物も、住まいを修繕させるのに一時的に預けられる場所がない。これから冬に向けて物資を集めたい。仮倉庫でいいからあればと思います」

一生懸命だった人ほどダメージ大きい

「震災後希望を持って一生懸命奮い立たせてやってきた人ほど、ダメージが大きかったと思います。震災の時よりも(心の)傷は深いですね」

輪島出身の一つ星フレンチシェフ、池端隼也さん。地域の仲間のシェフたちと居酒屋『mebuki-芽吹-』をオープンした直後に、豪雨が輪島を襲った。

「仲間の車が7台くらい水害に遭いました。復興に向けて頑張ろうという街の空気が一瞬にして変わってしまいました」

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さらに池端さんが感じるのは住民の経済格差の拡大だ。

「震災のときは皆、被災状況が一緒でした。水も電気もない生活で、皆で頑張ろうって励まし合って生活してきました。しかし今回は水害に遭った人とそうでない人の差が大きすぎて、経済格差は確実に起こっています」

観光が成り立つかが生き残りに重要

輪島市では震災後、観光を復活させようと金沢から観光バスを入れるなど観光客の招致活動に取り組んできた。しかし水害後「人がピタッととまってしまった」と池端さんは言う。

「mebukiで11月にイベントを行って、1人6000円コースを提供します。地域では参加できない方のほうが多いのですが、街の雰囲気を上げるためでもあるので地域の方にはワインを無償提供します。僕ら飲食店がやることは普通に食事をしてもらうということですが、食の楽しみも兼ね備えた料理を本当はしたいですよね」

ボランティアでも観光でも「とにかく人に来てほしい」
ボランティアでも観光でも「とにかく人に来てほしい」

輪島をはじめ能登の人々の願いは「とにかく人に来てほしい」(池端さん)だ。

「これから観光が成り立つか否かが、能登が生き残っていくために重要です。輪島、能登が一次産業含め能登の資源を活かした観光都市になることを願っています」

ボランティアでも観光でもいい。道路もほぼ修復が終わりつつある。今年まだ訪れたことのない読者はぜひ足を運んでほしい。

(執筆:フジテレビ報道局解説委員 鈴木款)

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。