能登半島地震から半年が過ぎ、甚大な被害を受けた輪島市ではいま少しずつ復興に向けた取り組みが行われている。日常に大切な「食」を通して輪島を元気にしようと活動しているフレンチシェフとパン屋さんのオーナーを取材した。
フレンチの再建より地域に根ざした居酒屋を
輪島出身のフレンチシェフ池端隼也さん。池端さんは2014年、輪島市でフレンチレストラン「ラトリエ・ドゥ・ノト」をオープンし、3年前ミシュランガイドで1つ星を獲得した。
「フランスに5年修行に行って帰ったときに、輪島がフランスの3ツ星レストランのある地方にもポテンシャルで負けていないと思いお店を開業しました。去年はお客さんの2割が海外から、7割が県外からでした」

しかし地震で店舗は倒壊。池端さんは避難所で、店舗を失った他の飲食店の料理人らとともに炊き出しチーム「輪島セントラルキッチン」を結成。被災者向けにピーク時は一日1800食つくったという。その後被災者が避難所から仮設住宅に移り始めて炊き出しは減少したことで、池端さんらは「次のフェーズ」に取り掛かった。
「フランス料理は、ある程度幸せが整った上であるものと思うので、自分のお店の再建より皆で地域に根ざしたお店を皆で復活させようと。そこで足りない資金はクラウドファンディングで調達して、地域を元気にする居酒屋『mebuki-芽吹-』をオープンすることにしました」
「迷いがあるのがわかるので自分たちの力で」
池端さんが「mebuki-芽吹-」を居酒屋にするのは理由がある。
「皆がばっと来てワイワイやって元気になるような店があるといいなと思ったからです。やっぱり食ってすごい楽しみじゃないですか。震災前から思っていたのは、飲食店がたくさんある街って元気だなと。食で地域の熱量を高めていければと思います」

輪島では倒壊した建物や家屋が半年たってもほとんど手つかずのままだ。この状況をみて池端さんは「迷いがあると思います」という。
「国に勢いがある時だったら、間違いなく『すぐに直そう』となりますよ。でも輪島でもほとんど人がいない集落への道路を整備するのはどうかという話もありますし、決められた軸が無いまま時間だけが過ぎているという感じですね。お金の問題で迷っているのもわかるので、寂しい気持ちになります。だから国や行政に頼らず、自分たちの力でと僕は思うのです」
震災後池端さんは気持ちが落ち込んだ時期もあったという。
「4月中旬くらいにぱっと現実を見た時に、『毎日必死にやってきて、全然進んでない』と気づいてSNSも見られないし、人に会いたくない状態になりました。ただ全国の料理人の仲間やお客様が助けてくれて回復しましたね。実は自分の料理がすごく変わりました。これまでは自分のエゴというかずっと料理を追求していたんですが、いまはお客さんの顔が浮かぶ感じになりましたね」
パン屋「くまのおうち」がネット通販を開始
輪島市でパン屋「くまのおうち」を経営するのは古川まゆみさんだ。郊外の店舗は大きな被災を免れたが、発災当日から多くの人々が食べ物を求めてやってきたという。
「(1月)3日から営業する予定で在庫や冷凍のものはあったので、とりあえず配って。水がまだ出ていなかったのですが、7日から通常営業を始めました。今は食べ物も不自由なく入るようになって良かったと思いますが、すごく苦労している方はまだたくさんいるので、私たちができることは何かなと考えながらお店をやっています。両親は珠洲の出身ですごく心配していて、まだ支援が行き届いていないようなので私も珠洲に行こうと思っています」

地震以降輪島では転出に歯止めがかからないのを、古川さんも客の減少から感じている。
「お客さんが少なくなって、人口が減ったのが身に染みてわかります。従業員の雇用を守るために移動販売やネット通販を始めました。先日(7月)(被害の大きかった)町野町に行ったんですけど、そのまま手つかずの状態で諦めすら見えました。それでも住んでいる人もいるし、行動している人はいますから。とにかく輪島が元に戻るまでできることをできる限りやろうと思います」
輪島を元気にするために「食」を考える
輪島を訪れる人はまだ少ない。池端さんはとにかく訪れてほしいという。
「飲食業をやっていて分かるのは、地元は経済的にまだ苦しい。だから外から観光客に来てほしいのですが、宿泊施設が足りないので、ぜひお昼でいいので食事に来てほしいです。何かモラルに反すると思われているなら、こちらがいいと言っているのですから」

輪島のまちを元気にするために、私たちも「食」から考えてみよう。
【執筆:フジテレビ解説委員 鈴木款】