米国のCBSテレビのインタビューで、カマラ・ハリス副大統領が意味不明なことを言った部分が分かりやすい発言に差し替えられて放送され、トランプ陣営から選挙干渉と批判を招いている。

CBSがハリス氏の発言を“差し替え”

ハリス副大統領は、CBSテレビとビデオ収録で単独インタビューを行い、ビル・ウィタカー記者の質問を受けた。この映像は、まず6日夜の報道番組「フェイス・ザ・ネーション」で放映されたが、米国の対イスラエル政策をめぐる副大統領の発言が意味不明だという指摘が相次いだ。

その部分を邦訳すると次の通りだ。私の思惟に影響されないように、翻訳はAIのチャットGPTを使った。

ウィタカー記者:
アメリカはネタニヤフ首相に対して何の影響力も持たないのですか?

ハリス氏:
私たちがイスラエルに提供した援助は、イスラエルがイスラエル人やイスラエルの国民を攻撃しようとした200発の弾道ミサイルに対抗して自国を防衛することを可能にしました。そして、ハマスやヒズボラ、そしてイランがもたらす脅威を考えると、こうした攻撃に対してイスラエルが自国を防衛できるようにすることが、私たちの責任であることは間違いありません。
今、私たちがイスラエルの指導者たちと行っている外交的な取り組みは、私たちの原則を明確にするための継続的な追求です。これには人道的援助の必要性、戦争を終わらせる必要性、人質解放と停戦をもたらすための合意が含まれます。そして、私たちはイスラエルや地域、アラブ指導者たちに対する圧力をかけ続けていくつもりです。

ウィタカー記者:
しかし、ネタニヤフ首相は聞き入れていないようですね。

ハリス氏:
ええ、ビル、私たちが行ってきた取り組みは、この地域でイスラエルによるいくつかの動きにつながりました。それらは、私たちの地域で必要なことに対する提唱を含む、多くの要因によって引き起こされた、またはその結果として生じたものです。

このやりとりが放映されると、X(旧ツイッター)などSNSに投稿が殺到した。

「誰か、頼むからこの彼女の発言を翻訳してくれないか」
「彼女は英語を喋っていたが、それでも通訳してもらわないと分からない」
「カマラの答えは“言葉のサラダ”ばかりだ」

言葉のサラダ(word salad)とは「文法的には正しくても意味が支離滅裂な文章」のことを言う。直裁に言えば「言語明晰意味不明」ということで、かねてハリス副大統領はこの「言葉のサラダ」の使い手として知られていた。

ところが翌7日、このインタビューがCBSの別の報道番組「60ミニッツ」で再び放映されると「サラダ」の部分が全く異なったやり取りと差し替えられていた。

ウィタカー記者:
アメリカはネタニヤフ首相に対して影響力がないのでしょうか?

ハリス氏:
私たちがイスラエルの指導者と行っている外交的な取り組みは、私たちの原則を明確にするための継続的な活動です。

ウィタカー記者:
しかし、ネタニヤフ首相は聞き入れていないようですね。

ハリス氏:
この戦争を終わらせる必要性について、アメリカが立場を明確にするために、私たちは追求を止めるつもりはありません。

映像の背景やウィタカー記者の質問も全く同じで、副大統領の喋りだけが入れ替わっていたのだ。

電撃メディア作戦の一環で受けたインタビューでの“編集”が問題視されることに…
電撃メディア作戦の一環で受けたインタビューでの“編集”が問題視されることに…
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「カマラ・ハリスの『60ミニッツ』での発言に大幅な変更が発覚。CBSのジャーナリズムが問われる」(「ザ・ウエスタン・ジャーナル」9日)

「恥ずべきCBSは、カマラ・ハリスが同じ質問に異なった回答をするのを放送した」
(「ブライトバート」10日)

これを問題視したのは保守系のマスコミだけではなかった。英国の権威紙も参加した。

「CBSがハリスの“言葉のサラダ”を編集したことは、トランプにメディア叩きの口実を与えた」(「タイムズ」電子版・9日)

「フェイクニュース!」トランプ氏も猛反発

そのトランプ前大統領は当然黙ってはいなかった。自ら経営するSNS「トゥルース・ソーシャル」にこう投稿した。

「私は初めて見たが、『60ミニッツ』のプロデューサーたちは、事実上支離滅裂な嘘つきカマラの答えを、何度も何度も、なかには一つの文章や考えの中に4回も切り貼りした。これはまた、重大な選挙資金違反かもしれない。これは60ミニッツの評判に取り返しのつかない汚点を残すことになる。こんなことは 『ニュース』では聞いたことがない。まさにフェイクニュースの定義だ!国民に対して大々的かつ即刻謝罪しなければならない!これは明白な事件であり、今日から調査されなければならない!」

副大統領のコメントを入れ替えた理由や方法は、CBSがこれを書いている時点では何もコメントを発表していないので明らかではない。

大統領選挙も終盤に入って、ハリス陣営は好意的なマスコミへ連続して出演する「電撃メディア作戦」を始め、CBSテレビのインタビューもその一環だった。

ここへきて「失速気味」とも言われる体制を立て直すためだったと言われるが、心ならずも副大統領の「言葉のサラダ」を改めて披露することになり、逆効果を招いてしまったようだ。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。