北陸新幹線の福井県内開業から約半年、新幹線が走る光景が日常になりつつある中、新しい形のまちづくりが進んでいる。キーワードは「小さな再開発」。まちづくりのキーパーソンにこの新たな仕掛けについて取材した。

“目新しさ”で駅周辺の人出は3割増

福井市中心市街地の活性化に取り組む第三セクター「まちづくり福井」の松尾大輔社長は、新幹線開業後の街の変化について「明らかに人が増えている。土日はもちろん、平日昼間の人通りも増えていると感じる。県外客のみならず県内の人の往来も増えているので、まちづくりの観点からもかなりいい傾向にある」と分析する。

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「非常に良いスタート」という松尾社長の評価を裏付けるように、県観光連盟がKDDIの位置情報ビッグデータをもとに分析した福井駅周辺の人出は、新幹線開業後は前年から約3割増加した。

施設別にみると、福井駅直結の商業施設「くるふ福井駅」が開業から毎月100万人前後を集客している。

福井駅直結の商業施設「くるふ福井駅」の集客は、毎月100万人前後
福井駅直結の商業施設「くるふ福井駅」の集客は、毎月100万人前後

また駅前の新たなランドマーク「フクマチブロック」にあるレストラン兼ミュージックホール「ULO」や飲食フロア「ミニエ」は、地元客を中心に平日でもにぎわい、新幹線開業に伴いオープンした駅前の新スポットは軒並み好調を見せている。

この入り込み数増加について、松尾社長は「大規模な再開発で誕生した福井駅前の“目新しさ”が好調の要因」とし、今後もこのにぎわいを持続させるためには“地元客のリピート”がポイントになるとみている。

さらに「県外客目線のメニューを作り、店作りをしている店舗がかなり増えている。今後の継続的な利用を考えると、地元の人向けのメニューや店作りも考えていかないといけない」と続けて言う。

小さな投資で普段使いできる店へ

まちづくり福井では、地元客を呼び込む新たな一手として、福井駅西口から徒歩3分ほどのところにある「新栄商店街」で、「小さな再開発」と銘打って区画のリノベーション事業を始めた。

個性的な雑貨屋やカフェ、本屋などが長屋形式の建物の中に軒を連ね、昭和レトロの雰囲気が漂う新栄商店街。駅周辺で再開発が進む中、地権者が多く合意形成が難しいことなどを理由に、ここだけが“古き良き商店街”のまま残ってきた。

今回の「小さな再開発」では、まず隣り合った3つの建物を改修し、長屋の雰囲気を残したままカフェやギャラリー、シェアオフィスなど7店舗ほどが入居する複合施設「コノジナガヤ」を2025年春にオープンする。建物の運営はまちづくり福井が担う。

松尾社長は「大きな再開発では大きなコストをかけるため、大きな回収をしないといけない。そうなると観光客をどれだけ集めるかということで“外のお客さん目線”になる。まちづくりの観点では、地元の人が日常使いできる場所が絶対に必要」と考えている。つまり、大きな投資を回収するために福井の街が観光客向けにシフトしすぎることを懸念しているのだ。

整備への投資が小さいと賃料が安くても運営でき、手頃な価格帯で商売が可能に(右)
整備への投資が小さいと賃料が安くても運営でき、手頃な価格帯で商売が可能に(右)

一般的に、建設に巨額の投資をした施設は投資分を回収しようと、運営側はテナントの賃料を高い水準に設定する。そうなると、入居している店は高いテナント料でも利益を出すために、集客が期待できそうな豪華なメニューや高価格帯のサービスに偏りがちだ。
インバウンドなどお金を多く使う観光客には魅力的な施設になるものの、地元客には普段使いしにくい施設になってしまう。

一方で「小さな再開発」では、比較的少額の投資で整備でき、安いテナント料でも運営が可能となる。店舗側も日常使いしやすい価格帯での商売が可能になるというわけだ。

まちづくり福井が今回のリノベーションにかける金額は1億4000万円で、再開発ビル「フクマチブロック」の総事業費449億円の約320分の1で済む。運営側はテナント料を抑えることができ、出店する店側も地元客が繰り返し通いやすい手ごろな価格帯のメニューやサービスを取り揃えやすくなる。

数軒の合意で再開発 地区の課題解消

加えて今回のリノベーション事業は、多くの地権者がいるが故になかなか再開発が進まなかったこの地区の特徴を、うまく取り込めるという。

「新栄商店街」は地権者が多いため合意形成が難しく、再開発が進まなかった
「新栄商店街」は地権者が多いため合意形成が難しく、再開発が進まなかった

松尾社長は「今まで再開発がされずに残った点を逆に利用して、小さいエリアごとにリノベーションしながら、より次の世代に残していける場所にしていく」と話す。

“隣り合った数軒の合意”という低いハードルで進めることのできる「小さな再開発」。松尾社長は、今回のリノベーション事業をモデルとして民間レベルで第二、第三の「小さな再開発」が続くことを期待している。

福井駅周辺では今後、他の商店街やアリーナの建設などさらなる大規模な再開発も控えている。街の経済規模が大きくなれば、当然それを維持するための経済活動が求められる。

新幹線が運んできた現在のにぎわいを持続させるため、今こそ地元に根差したまちづくりが求められそうだ。

(福井テレビ)

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