自宅の近くでカメムシを見ることが増えた。なんだかカメムシの“くさいにおい”もする…。こうした状況に心当たりはないだろうか。
「昨日見たのが1匹で、今日は数が増えたならピンチかもしれません」と話すのは、昆虫の生態に詳しい、南九州大学の新谷喜紀さんだ。
カメムシは秋になると、冬を越せそうな場所や餌がありそうな場所を求め、それまで暮らしていた野山から飛んで移動することがある。人間の家の周辺は過ごしやすいこともあり、翌年の春まで居ついてしまうこともあるというのだ。
苦手な人にとっては“非常事態”だろう。そこで自宅に寄せ付けないコツ、室内で出くわしたときの対処法を新谷さんに教えてもらった。
フェロモンで仲間を呼ぶことがある
カメムシは体の中に、刺激性の成分が含まれる液体を持っている。そして身を守りたいときや仲間とコミュニケーションするとき、脚の付け根にある「臭腺」から放出するという。

これが“くさいにおい”の正体なのだが、カメムシの一部はこのにおいがフェロモンとなって、仲間を呼ぶことがある。そのため、見つけたら早めの対策がポイントになる。
「刺激性の成分は、少量でも仲間と情報交換をするのに十分ですが、身の危険を感じたときは大量に出します。目的によって使い分けているんですね」(以下、新谷さん)
集まりやすいのはベランダと玄関
そんなカメムシは、家だと「ベランダ」と「玄関」で見かけやすいとのこと。昼間は日当たりがよくて暖かく、夜はライトの明かりが漏れるので飛んできやすいのだ。
自宅に集まるのを避けたいなら、まずはスプレータイプの「カメムシ用の忌避剤」をベランダの窓や玄関の外側から噴射してみるといい。これだけである程度は対策できるという。

そして、ベランダに干す洗濯物にも注目だ。ホワイトやベージュなど“白系統の色”は、太陽光を反射しやすいので、カメムシが寄ってきやすいという。白系統の衣類を取り込む際は、カメムシがついていないか、チェックすることをお勧めする。

また、カメムシに限らず、昆虫は紫外線が多く含まれる光に集まる習性があるという。蛍光灯には集まりやすいので、ライトを設置しているなら、紫外線の量が少ないLEDタイプに変えるのもアリとのことだ。
室内で出くわしたら刺激しないで
ベランダや玄関の対策をしても、カメムシが室内にやってくる可能性はゼロでない。「もし出くわしたら、むやみに触らないほうが良いです」と、新谷さんは言う。
「カメムシは物理的な刺激を感じるとくさいにおいを出しやすいです。ティッシュの上からつかんだり、割りばしなどで捕まえたりするのは、あまりお勧めできません」

最悪の場合、悪臭を撒き散らしながら「ブ~ン」と飛んでしまうことも…。掃除機で吸いこむと処理はできるが、内側でにおいを出してしまうこともあるという。カメムシ用の殺虫剤を使うのはアリだが、コストがかかるほか、小さな子供やペットがいると使いにくいかもしれない。
ペットボトルで作れる捕獲器
そこで新谷さんが提案するのが、ペットボトルで作れる“捕獲器”を用意しておくこと。直接触れなくてもカメムシを捕獲しやすいので「虫が苦手な人にお勧め」だという。

【ペットボトル捕獲器の作り方と使い方】
1.ふたをとった空のペットボトル容器を用意し、上部3分の1ほどで水平にカットする。※サイズは500mL~1Lがお勧め
2.飲み口が下に向くようにして差し込み、テープなどで固定すると、捕獲器の完成。
3.壁や天井に張り付いたカメムシを、捕獲器の口部分で覆うと捕まえられる。カメムシが床にいる場合は進行方向に捕獲器を用意し、後ろからそっと触って追い込む。

「この捕獲器は形が漏斗(ろうと)状なので、入ると出てこられないんです。複数匹を捕獲することもできます。捕獲後にどうするかは自由です。そのままでも死にますが、私は可哀想に思うので、少し離れた自然に逃がしています」

最後に想像したくないが、カメムシの“くさい液体”が手についたらどうすればいいのか。新谷さんによれば、カメムシが分泌した液体が皮膚に付着すると、オレンジ色の痕が2~3日は残る。その場合はオリーブオイルでもみ込んでから石鹸で洗うと、においが落ちやすいとのことだった。
「これからの季節は成虫のカメムシが増えて、街にも降りてくる可能性があります。自宅の近くで増えているかもしれないと思ったなら、対策を考えてもいいかもしれません」
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新谷喜紀(しんたに・よしのり)
博士(農学)。東京大学卒業、東京大学大学院修了。昆虫学関連の研究員を経て、現在は南九州大学環境園芸学部の教授を務める。主な研究テーマは「昆虫の環境への適応」で、農業害虫の生態などを研究している。昆虫を再現した折り紙が趣味で、2024年に京都で開催された「国際昆虫学会議(ICE2024)」で展示され、反響を呼んだ。
イラスト=さいとうひさし