ブーンという羽音に“くさいにおい”が特徴の「カメムシ」。苦手な人も多いと思うが、近年は見かける機会が増えた気がしないだろうか。

昆虫の生態に詳しい、南九州大学の教授・新谷喜紀さんによると、秋はカメムシたちが野山から“移動”をする季節。人里や街に向かって、大量に飛んでくることもあるという。

思い浮かべるとゾッとするが、なぜこうした行動をするのだろう。カメムシの生態や秋こそ気を付けたい背景を、新谷さんに聞いた。

秋によく見る3種類のカメムシ

カメムシは日本に1000種類以上生息するが、秋に家の近くでよく見るのは次の3種類だ。

(左から)ツヤアオカメムシ、クサギカメムシ、チャバネアオカメムシ(提供:新谷さん)
(左から)ツヤアオカメムシ、クサギカメムシ、チャバネアオカメムシ(提供:新谷さん)
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・ツヤアオカメムシ
体長は成虫で約1.5cm。鮮やかな緑色をしている。名前の通り「ツヤツヤ」した光沢がある。
・クサギカメムシ
体長は成虫で約1.5cm。暗褐色と黄褐色のまだら模様をしている。
・チャバネアオカメムシ
体長は成虫で約1cm。緑の体に茶色い羽があり、体全体が褐色になることもある。

果樹カメムシ類の警報・注意報の発表状況(農林水産省「病害虫発生予察情報」より 2024年9月20日時点)
果樹カメムシ類の警報・注意報の発表状況(農林水産省「病害虫発生予察情報」より 2024年9月20日時点)

これらのカメムシは果樹や果物を荒らすことから「果樹カメムシ類」と呼ばれ、多くの発生が予想されると都道府県が「警報・注意報」を発表する。2024年は9月20日時点で、38都府県が警報・注意報を出していて、回数は61回にものぼる。これは過去10年間で最も多い数字だ。

「近年は発生状況が高止まりの傾向です。ツヤアオカメムシ、クサギカメムシ、チャバネアオカメムシは家の近くに飛んできて、屋内に入ってくることもあります」(以下、新谷さん)

目撃が増えた「2つの背景」

いったいなぜ、カメムシの目撃が相次いでいるのだろうか。それには「2つの背景」が考えられると、新谷さんは話す。ひとつは「餌が豊富にあること」だ。

カメムシの幼虫は野山で卵からかえると、スギやヒノキの実(球果)を食べて成虫に育つ。この餌が以前よりも多くなっているという。

カメムシは木の実などを餌とする(画像はイメージ)
カメムシは木の実などを餌とする(画像はイメージ)

「スギやヒノキは木材の原料になることから、戦後は林業政策として大量に植林されるようになりました。植えた木は35年~40年ほどで成熟して伐採されるのですが、近年は諸々の事情で伐採されないことがあり、カメムシの餌になる実をつける木が多くなったといいます」

もうひとつは「温暖化」だ。カメムシは冬に休眠(越冬)することで、翌年の春~初夏にかけて繁殖の準備が進む。一定数は冬を越せずに死んでいると考えられるが、近年は暖冬傾向にあり、繁殖に至る個体数が以前よりも増えているそうだ。

冬の準備をしようと家に集まる

そんなカメムシたちは、秋になると人間の身近な場所にやってくる。新谷さんによると、ツヤアオカメムシ、クサギカメムシ、チャバネアオカメムシの寿命は、越冬した場合は約1年。5~7月ごろに卵として生まれ、冬を越して翌年の同じ時期に一生を終える。このサイクルで、世代交代しながら生きているという。

初夏~夏:冬を越した成虫が、野山の樹木などに産卵する。その後に卵からかえった幼虫が、野山の餌を食べて成長する
:成虫となった個体が餌を求めたり、冬を越せたりする場所を探して移動する
:じっとして物陰などで過ごす(越冬場所は種類によって異なる)
:眠りから覚め、再び餌を食べるようになる

冬の準備をするため、家の周辺にもやってくる(画像はイメージ)
冬の準備をするため、家の周辺にもやってくる(画像はイメージ)

そう、秋はカメムシたちが冬の準備をする季節なのだ。冬を越せるよう、果樹園や畑など餌がたくさんありそうな場所を求めて移動する。さらにカメムシは、夜は光に集まる習性があり、昼間は暖かくて日当たりが良い環境を好む。そのため時折、人が住む家の周辺にもやってくるという。

においで仲間が集まってくる

ここでやっかいなのが、くさいにおいだ。カメムシは身の危険を感じるとにおいを出すのは有名だが、普段から“人間がわからない程度のにおい”を出し、仲間のカメムシとコミュニケーションをとっている。

カメムシが集まる可能性も…(提供:新谷さん)
カメムシが集まる可能性も…(提供:新谷さん)

そのため、一匹に“住み心地の良い場所”と思われると「ここはいいぞ!」と知られ、仲間のカメムシが集まることがあるのだ。そして翌年の春まで、集団で居つくこともあるという。

「昆虫は冬場に周囲の温度が1~2℃でも上がると、生存率が急激に高まることがあります。カメムシも集団を作って体を寄せ合うことで、冬場の生存率を高めようとしているんですね」

カメムシたちも必死に生きているのかもしれないが、家では出会いたくないと考える人も多いのではないだろうか。そこで後編では、自宅にカメムシを寄せ付けないポイント、出くわしてしまった場合の対処法をお伝えする。

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新谷喜紀さん
新谷喜紀さん

新谷喜紀(しんたに・よしのり)
博士(農学)。東京大学卒業、東京大学大学院修了。昆虫学関連の研究員を経て、現在は南九州大学環境園芸学部の教授を務める。主な研究テーマは「昆虫の環境への適応」で、農業害虫の生態などを研究している。昆虫を再現した折り紙が趣味で、2024年に京都で開催された「国際昆虫学会議(ICE2024)」で展示され、反響を呼んだ。

イラスト=さいとうひさし

プライムオンライン特集班
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