全国から注目を集める1人乗り用の超小型電気自動車(EV)。初期の開発メンバー全員がユーチューバーという異色の新興メーカーだ。8月23日に一般販売予約を開始し、2025年9月の量産が現実味を帯びてきた。
“チョイ乗り”に最適な1人乗りEV
「ハイエースに乗ってしまうという…コンパクトさが売りなんで」
この記事の画像(13枚)バックドアを開けた状態で、車の後部からゆっくりと乗り込む一台の車。なんと、そのまますっぽりと“車が車の中に”収まってしまった。
この車は、東広島市のスタートアップ企業「KGモーターズ」が、2025年9月の量産・販売を目指し開発を進める1人乗り用の超小型EV「mibot(ミボット)」。KGモーターズの楠一成社長は「東京に持っていくときに車体が守られていたほうがいいと思って、ハイエースに乗るんじゃないかなと荷台の寸法を調べたら乗るということがわかって」と軽快に話す。車で運べるほど小型なこのEVが、今、注目を集めている。
7月、広島市西区の商業施設で「ミボット」の展示会が開かれた。車体は前後対称のデザインで、かわいらしい見た目。展示会を訪れた人からは「こういう車がもっともっと増えて普及したら、かわいいですし楽しい街になるんじゃないかと思います」と好感を得ている。
展示会では“1人乗り”という考え方にも関心が集まった。KGモーターズの横山文洋さんは「原付ミニカーという規格が法令上1人しか乗れないんですよ。2人になると軽自動車扱いになってしまうので。移動がより最適化されるのでは」と、移動の多様性を強調する。
国土交通省の調査によると、車で移動する人の約7割が使用距離10キロ未満の「1人乗り・チョイ乗り」の傾向が高いことが示された。「ミボット」は法律上、原付ミニカー規格に分類されるため、車検と車庫証明が不要で軽自動車よりも維持コストがかからない点が強み。最高時速60キロ、販売価格1台100万円を見込んでいる。
展示会に手応えを感じながらも、横山さんは「実際に乗ったときにどうかという懸念は、やはり展示の段階では払拭できない。安全性を動画で発表していくことで、できれば多く人の不安を解消して『新興メーカーがつくっているけど、ここまでやるなら安心して乗れる』というところに持っていきたい」と話す。
開発段階をYouTubeで披露
KGモーターズの開発拠点は東広島市志和町にある。
元々、自動車部品の販売会社を経営していた楠社長とマスコット犬・ボスを含むメンバーが、2021年11月から定期的にYouTubeで活動を発信してきた。呉市出身の楠社長は、開発のきっかけについて「細い道をおばちゃんが車のミラーをたたんでタイヤを半分を落としながら走っているのを見て、もう明らかに車が大きすぎると漠然と考えていた」と言う。
初期メンバーの全員がSNSでつながった車づくりの素人でありユーチューバー。開発段階から衝突実験の様子まで惜しげもなく披露する斬新さがうけ、チャンネル登録者数は約20万人いる。
広島市内の展示会を終えた後も、量産・販売に向け日夜、車体の微調整が続いていた。楠社長は「非常にありがたいことに良い反応をいただいているので、これからは見栄えをブラッシュアップしつつ特に中身をブラッシュアップしていければと思います」と意気込む。
その挑戦を支えるのは、SNSなどでKGモーターズの存在を知った車づくりのプロたち。氏本卓志さんは定年まで車部品の設計開発を手がけた後、超小型EVのプロジェクトに加わった。「量産に向けてはまだまだ課題がいっぱいある。でも世の中に届けようとする目標を持っているから、一体感が生まれるんじゃないかと思うんですけどね」と理解を示す心強い助っ人だ。
自分たちを信頼してもらおうと、YouTubeでは「ミボット」の性能をありのまま発信している。超小型EVのパワーを実証するため、急な坂道をスイスイ上る動画も。
「この坂はなかなか難しいんじゃない?」
「上るじゃん!」
成功も失敗も見せることで応援してくれる人たちを増やしてきた。
ネットから予想を超える注文数
活動はYouTubeにとどまらない。8月8日、東京へ出向き、メディア関係者を対象に初めての発表会を開いた。
「エアコンなど日常生活の中で最低限必要な機能だけを入れていこうと…」など、コンセプトを説明。量産・販売を約1年後に控え、先行予約の開始が迫っていた。
そして迎えた、予約開始の8月23日。KGモーターズの事務所にはメンバーが集まっている。その一人、松井康真さんはスマホを片手に「たまたまテレビを見た人がシェアして、それがSNSで朝から大バズリしていて」と興奮した様子。なんと予約当日に「ミボット」が全国放送で紹介され、プロジェクト発足以来、最も高い注目度に…。
夜9時前、横山さんがカウントダウンに入った。
「5、4、3、2、1…21時になりました!」
予約開始と同時にネット上から予想を超える注文が舞い込んできた。
「今の時点の予約は146件」という奥野慎一郎さんの報告で、全員がほっと胸をなでおろす。横山さんは「ひと安心。まだまだこれからですけど、本当にひと安心。みんな、よく頑張ったよ」とメンバーに声をかけた。
その後、予約開始からわずか3日で300台を突破。“1人乗り超小型EV”のニーズが予約数として証明できたことで、夢だった量産・販売が現実味を帯びてきた。楠社長は「需要があるというか、ほしいと思ってくれている人が間違いなくいるという実感がこの数日でより強くなりました。信頼にこたえていけるか、というところになってくると思います」と今後の課題に目を向けている。
(テレビ新広島)