異常気象がもたらす大雨で土砂災害のリスクが高まる中、広島県内では危険な場所に住む人を50年後におおむねゼロにする「逆線引き」が進んでいる。段階的に安全な地域へ誘導し、家などを新築させない目的もある。
市街化区域のレッドゾーン1万カ所
迷走を続け全国各地に様々な影響をもたらした台風10号。
この記事の画像(9枚)広島県内に大きな人的被害はなかったものの、県東部の神石高原町では8月31日未明、斜面から最大2メートルの石が複数道路上に落ち、通行止めになった。県は台風による雨の影響とみて調べている。落石があった現場付近では台風10号の影響で8月29日の午前2時から31日の午前2時までの48時間に115.5ミリの雨が降っていた。
一方、愛知県で家族5人が土砂崩れで生き埋めになるなど、今回の台風は改めて土砂災害の恐ろしさを痛感させた。
いつどこで災害が起きてもおかしくない状況の中、これまでの土砂災害の教訓を生かし命を守るために進められているのが「逆線引き」だ。
一般的に“街”として道路や公園などが整備され人が建物を建てて住む区域は「市街化区域」、農地や緑地の保全が優先される区域は「市街化調整区域」と呼ばれている。
県内には、市街化区域内に災害リスクの高いレッドゾーン(土砂災害特別警戒区域)が約1万カ所ある。その場所に住む人たちを安全な地域へ誘導するため、県や市町は数十年かけて市街化区域の土地を市街化調整区域に編入する「逆線引き」を始めている。
広島市都市計画課の前川豊課長は「建物が立っていないところや開発計画がないところを対象に、先行的な取り組みを行っています。特に大きな反対意見は出ていないのでご理解をいただいている」と認識している。
今年500カ所、20年で完了目指す
市街化地域に潜むレッドゾーン約1万カ所のうち県内の約500カ所で2024年度中の編入を目指し、「逆線引き」の手続きが進められている。
そのうち広島市内で編入の対象となっているのは約230カ所。広島市東区の対象箇所に行ってみると、果樹園のような場所に低い木が並んでいた。
また、広島市安佐南区では住宅地の最も山側にあたる場所が対象箇所になっている。今は畑として利用されているが、土地の一部が逆線引きの指定区域になったことに対し、所有者は「命あってのこと」と理解を示していた。
前川課長は「対象は土砂災害特別警戒区域。その周囲にはイエローゾーン(土砂災害警戒区域)が広がっていることが多く、災害が発生する可能性がある場所です。そういったところには危険性があるんだと認識していただく必要があると思っています」と、レッドゾーン周辺の住民にも危機意識を促した。
逆線引き対象箇所の近くに住む人は「以前は最近のような大雨ではなかったと思う。だから考え方が全然違う。危ないところは前もって知らせて、できるだけ家を建てないようにするほうがいいと思います」と話す。
県は、残りのレッドゾーンについてもおおむね20年後には「逆線引き」を完了させ、50年後には居住者がおおむねいない状況を目指している。
レッドゾーンに住む人に安全な地域へ移ってもらうため、市街化を抑制する「逆線引き」。市街化調整区域に編入されると原則として“新たな建築”はできなくなるが、現在、住んでいる人が強制的に移らなければいけないという取り組みではない。住んでいる場所の危険性を認識してもらい、建て替え・リフォームのタイミングや、親から子へ世代交代のタイミングで安全な場所への移転を考えてほしいということだ。
(テレビ新広島)