西日本豪雨から4年が経ち、災害の風化に警鐘を鳴らす映画「とべない風船」が2022年12月に先行公開される。公開を前に、主演を務めた東出昌大さんと宮川博至監督が被災地を訪れ、被災者の思いに触れた。

家族を失った漁師を演じる東出さん「被災者を傷つけてしまうかも

2021年、広島で撮影された映画「とべない風船」。豪雨災害で家族を失った悲痛な過去を持つ漁師の主人公・村田憲二を東出昌大さんが演じ、人生に迷った元教師の小島凛子を三浦透子さんが演じた。家族や地域の人に支えられ、人生を前向きにやり直していく人間ドラマが描かれている。

呉市蒲刈町で撮影された映画「とべない風船」のワンシーン
呉市蒲刈町で撮影された映画「とべない風船」のワンシーン
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映画の制作が最終段階に入ったことから、7月26日、広島市中区の八丁座で試写会が行われ、監督を務めた広島市出身の宮川博至さんと東出さんの2人が映画にかける思いを語った。

7月26日に広島市内の映画館で行われた試写会
7月26日に広島市内の映画館で行われた試写会

宮川博至 監督:
映画は残っていくものだと思いますので、これが西日本豪雨災害を風化させない一つのきっかけになればと思っております

東出昌大さん:
災害を思い出させてしまう諸刃の剣と言いますか、映画が被災者を傷つけてしまう可能性もあると思っています

映画完成前に呉市安浦町を訪れ、被災者の声に耳を傾ける

映画が訴えるのは災害の風化に警鐘を鳴らすこと。しかし、映画を観ることで悲惨な記憶が蘇るのではないか…。宮川監督と東出さんは映画の完成前に被災者の思いを再確認しようと、西日本豪雨の被災地、呉市安浦町の市原地区を訪れた。

2018年7月の西日本豪雨。市原地区では土石流が集落を襲い、3人が犠牲となった。

あれから4年が経った今も復旧工事が行われている。2人は、市原地区自治会長の中村正美さんと木坂めぐみさんの案内で被災地を見てまわり、災害時の様子をうなずきながら聞いていた。

被災者・木坂さんの話に耳を傾け、被災地をめぐる東出さん
被災者・木坂さんの話に耳を傾け、被災地をめぐる東出さん

木坂めぐみさん:
家が倒れていて、その中に人がいると思うと膝がガクガクしました

市原地区 自治会長・中村正美さん:
災害の時にみんなの心が一つになりました。この人を助けよう、あの人を治療しようと、本当に一つになれましたね

災害から立ち上がろうと住民たちの絆が強まる一方で、災害前に市原地区に暮らしていた24世帯・約60人のうち半数はこの地を離れていった。

市原地区 自治会長・中村正美さん:
こんな危ない所には住めないと出た人もいる。かといって、それを否定できない。それぞれの思いや家族構成がある。出て行った人が悪いとか残った人がいいとか、そういう次元じゃない。災害というのはそんな簡単なものじゃない

中村さんの話を親身に聞く宮川監督と東出さん
中村さんの話を親身に聞く宮川監督と東出さん

豪雨から1年後、市原地区に残った中村さんたちは土石流が襲った現場の近くに「復興を願う桜」を植えた。中村さんは「この桜がずっと永遠に咲き続けるようにという思いで植えました。災害がない前提の“永遠”。24世帯だったので24本まで桜を増やしていきます」と話す。

中村さんたちが植えた「復興を願う桜」
中村さんたちが植えた「復興を願う桜」

桜を植えた翌年の春に小さな花が咲いた。中村さんの地域への思いは、しっかりと息づいている。2人は「桜の姿に、前を向いて歩む被災者の姿が重なって見える」と言う。

東出昌大さん:
桜がどんどん育つといいですね。木が大きくなって、みんなで花見をして…

宮川博至 監督:
西日本豪雨のような災害が起こらないようにという思いが桜に込められているのは、すごく素敵だなと思います。災害は嫌ですね

「ほんの数分で被災者に…」映画のテーマに被災者の思い重ねる

次に、2人は西日本豪雨災害を乗り越えて再建した店を訪ねた。市原地区から4キロ離れた所にある創業92年の仕出し屋「上田本店」。今では地域の人々の希望になっている。

西日本豪雨災害を乗り越えて再建した仕出し屋「上田本店」
西日本豪雨災害を乗り越えて再建した仕出し屋「上田本店」

親子で店を営む上田美穂子さんと息子の孝勢さんに話を聞いた。

上田本店・上田美穂子さん:
向こうの方から車が流されてきて、家の前の駐車場まで来たんです。びっくりしました

上田本店で撮影された豪雨災害の様子
上田本店で撮影された豪雨災害の様子

東出さんは「ほんの数分で、日常から一転して被災者になるという感じですか…」と考え込むようにうつむいた。災害時、氾濫した水が押し寄せ店は浸水。しかし、上田さん親子は同じ被災者である地域の人のために営業を再開しようと決意する。

「被災後、買い物に行きにくい高齢者をよく見かけたので、総菜などの店頭販売を始めました」と、息子の孝勢さんが店を再建した当時の様子を話してくれた。

被災後、地域の高齢者のために総菜や野菜を店頭販売
被災後、地域の高齢者のために総菜や野菜を店頭販売

上田さん親子が災害後も店を続ける理由…。それは、この地で地域の人々に支えられてきた恩返しだという。そして、災害に負けない自慢の味を詰めた仕出し料理で2人をもてなした。

東出さんと宮川監督に自慢の仕出し料理をふるまう上田さん
東出さんと宮川監督に自慢の仕出し料理をふるまう上田さん

「うん、うまい」と思わず笑顔になる東出さん。この味をかみしめながら、被災者の思いと映画を重ね合わせる。

仕出し料理の刺身を頬張る東出さん
仕出し料理の刺身を頬張る東出さん

宮川博至 監督:
地域の方同士が、つながりをすごく大切にしていらっしゃるのを身に染みて感じました。映画の中でも地域の話があるけど、皆さんはきちんと行動に移されていて、すごく素敵だなと思いました

東出昌大さん:
誰かのために店を続けるとか、桜の木を植える…。被災後、人が人を思う気持ちを拝見して、尊いなと思いました

2人は、前を向いて歩む被災者の思いに触れることで映画のテーマを再確認した。

映画「とべない風船」は、2022年12月に広島市の八丁座などで先行公開後、全国公開される。

(テレビ新広島)

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