自民党総裁選挙をめぐり、河野太郎デジタル相が出馬表明会見で打ち出した“裏金議員の不記載額返還”案が波紋を広げている。
派閥の政治資金パーティー事件に端を発する国民の自民党への不信感を払拭するための提案だったが、安倍派の議員らから反発が広がった一方、「当然だ」と称賛する声も出ている。
裏金議員について次期総選挙で公認しない可能性を排除しなかったことも受け、不記載議員=裏金議員への対応が、この総裁選でにわかに争点化してきている。
河野氏発言の真意は「けじめをつけての前進」
河野氏は26日に開いた総裁選出馬会見で、「政治に対する信頼の回復が急務だ」と述べ、「今回の不記載問題、ルールがあるにもかかわらず、そのルールを守ることができなかった。真相究明もすることができず、書類を訂正することで捜査当局的には終わったのかもしれない。しかし国民の皆様の目から見て、それでけじめがついたと言えるのか。私はけじめをつけて、前へ進もうということを常々申し上げてきた。この不記載になってしまった金額を返還することでけじめとして前へ進んでいきたい」と強調した。
この記事の画像(9枚)その上で、「返還の仕方をどうするかは技術的なことだから、そうしようと決めれば党の方でやり方を考えることになる。不記載と同額を返還している議員がいることも聞いているので、やり方はあるんだろうと思う。そこで一旦けじめがつけば、あとは自由民主党の候補として、国民の審判を総選挙で仰ぐということになるのではないか」と述べ、不記載額の返還を自民党公認の条件にする、逆に言えば返還さえすれば自民党の公認候補とする案を打ち出した。
この方針に自民党内がざわつく中、河野氏は同日夜にBSフジ「プライムニュース」に出演し、「党でもこうした議論があったが、残念ながらそうはならなかった。私はけじめはきちっとつけた方がいいと思うので、少なくともこれはやった方がいい」と真意を語った。
さらに、不記載額を返還しない人は次の選挙で公認しないのかと問われると「この問題は不記載にしろと言われて不記載にせざるをえなかった議員が多く、いろんなケースがある。一概にどうするか決めつけるのは早いかなと思う。細かなケースは議論すればいいと思う。大きなルールを決めて進もうということで、多くの人がけじめをつけられるならピシッとやればいい」と説明した。
河野氏案に飛び交った賛否両論
いわゆる裏金議員が、返金という形でけじめを付けるというこの案に、自民党内は大きく反応し、賛否両論が飛び出した。
河野氏のライバルとなる小泉進次郎氏を支持する若手の一人は、「返金させるのはいいことだ」と河野案に賛同する考えを示し、ある党幹部も「裏金があることを国民は怒っているのだから、返すことでケジメをつけるのは正しい」と理解を示した。
自身にも不記載があった安倍派の柴山元文科相は、自身は不記載分の全額をそのまま保管し、どう処理するか決めあぐねていたとした上で、「河野さんの言うように、一定の方針に従って処理をするという方向を示してもらえれば、それは大変ありがたいのかなと思う。裏金という形で非難されることからすれば、それを返却などの手続きでしっかりと清算していくと示していただけるのは一つの考え方だ」と歓迎する姿勢を示した。
一方、不記載のあった安倍派議員らが出馬表明会見に同席し話題となった小林鷹之前経済安保相の陣営からは「党規委員会で決めたことをひっくり返すってことでしょう?ありえないよね」「政治資金規正法も通して、岸田さんが出ないことで一度ケジメがついたはずと思ったけど、また蒸し返されるとなると難しい」などと河野案への苦言が相次いだ。
また、安倍派の中堅議員は「あの人の言うことは信頼できない!」と河野氏を一刀両断した。
そうした中、カメラの前で河野氏の案に猛反発してみせたのが、安倍派の最高顧問を務めた衛藤征士郎・元衆院副議長だった。
衛藤氏は、不記載になった金は、正規に購入してもらったパーティー券の代金であり、収支報告書に記載していれば問題のなかった金だと強調した上で、次のように河野氏を批判した。
衛藤征士郎・元衆院副議長:
我々としては理解できない。発言というのはよく検証する必要があると思うし、河野さんから説明もしてもらわないと。あまりにも唐突な発言だ。
しかしこの衛藤氏の発言に対しても、自民党内では批判の声が相次いだ。他派閥のある幹部は「河野の判断は真っ当だ。それを理解しない方がおかしいんだよ」と切り捨てた。
河野氏の陣営の一人は「安倍派議員からするとそういう意見もあるだろうね。でも、中には、もう返したという人もいれば、返してスッキリしたいという人もいるんだよ」と衛藤氏を突き放し、「国民は処分でこれ(政治資金事件)が終わったと思っていない。ポイントはそこだ」と、河野案に自信を示した。
翌日に実現した河野―衛藤会談「この資金は裏金じゃない」との反論に河野氏は…
このような状況の中、衛藤氏と河野氏が翌27日に会談した。この席で衛藤氏は、不記載となった派閥からの還付金は個人が汗をかいて集めた資金だと強調した上で、「返還しろと言ってもどこに返還するのか。民間の個人の資金に返すことになるのか」と疑問を指摘し、「派閥の政治資金の動向についてよく調査して、検証して、検討の上に発言してください」と苦言を呈した。
衛藤氏によると、こうした苦言に対し河野氏は「うーん」と悩み、黙っていたという。
会談後、衛藤氏は記者団に対し「はっきり言ってこの資金は裏金じゃない。皆さん政治活動資金に充当している。その金は課税対象にはならない。それを裏金なんて決めつけることについてはおかしい」と主張し、「国民がどう理解するか、どう評価するか結果に出ると思う。今度の総裁選の結果を見るしかないんじゃないか。河野さんは堂々と発言したらいい。それを国民が判断する」と述べた。
野党の反応も「賛同」と「冷淡」に二分
一方、野党側の反応も河野案に賛同する意見と、冷淡に見る意見に分かれた。
河野案を批判したのが国民民主党の玉木代表だ。
玉木氏は「河野大臣に限らないが、何か提案があるならなぜ政治資金規正法の党内議論の時に言わなかったのか。今になってあれもすべきだ、これもすべきだと皆さん言うが、早くやってよという感じだ」と指摘した。
さらに「まずやるんだったら再調査だ。その上でもし必要であれば法改正を改めてやるということをしないと、何か金を返して終わりみたいな、万引きして盗んだものを店に返したから無罪放免という話でもない。法令違反を犯したようないわゆる裏金議員のような方は公認しないということぐらい徹底しないと変わったとはみなされない」と、自民党はさらに厳しい対応をとるべきだと主張した。
一方、立憲民主党の泉代表は「河野さんの発言は当然だと考える」と一定程度評価する意向を示した。
その上で「ぜひ河野さんには、具体的に誰がいくらなのか一覧を出していただきたい」と述べ、「他の自民党の総裁候補がこのことについてどう考えているか、そこも問われるんじゃないか。特に改革をするように見受けられている小泉さんだとか、小林さんにしても裏金議員たちが応援をするのかどうか、そしてこの裏金議員たちのその裏金をどう扱っていくのかというところが当然問われる」と強調した。
問われる河野氏以外の候補の主張
では、泉代表が指摘した、自民党総裁選の河野氏以外の候補者の対応はどのようなものになるのだろうか。
石破元幹事長は「返還するっていうのはどこに返還するんですか?私は河野さんのいろんなやりとりを全部見たわけではないが、誰に返還するというのがないので、そこがわからないといい加減なことを言ってはいけない」と、と突っ込んだ論評を避けた。
一方、石破氏自身が出馬会見で含みを持たせた、いわゆる裏金議員を次の選挙で公認しない可能性については、党の選挙対策委員会で議論して決めることだと強調しつつ、「公認権を総裁が持っているので、自由民主党総裁として国民の皆様方にどういうような判断をしたか、どういう見識を持っているかということで、(裏金の)対象の議員のみならず、自民党すべての議員において、総裁が責任を持って公認を決めた所以を説明する責任は持っている」と述べた。
小林鷹之前経済安保相は28日、「ちょっと私自身は(河野)大臣がどのような形でおっしゃったのか詳細がわからないけれど、いずれにしてもどういう根拠に基づいていかなる形でどこに返還されるのかを私自身よく存じ上げないのでそれ以上コメントすることは控えたい」と述べた。
また、出馬会見に安倍派の議員が同席したことに対する一部からの批判については「私自身、チャレンジャーという立場で、今回も脱派閥選挙というふうに申し上げている。旧派閥の枠にこだわらず、1人でも多くの議員また党員の方に自分の存在と考え方を知っていただいて、支援を依頼していくというその姿勢に全く変わりはない」と語った。
そして茂木幹事長は「一般論だが、収支報告書の不記載収入について、寄付や国庫納付などの対応を求める声があることは承知している。国会議員による寄付は、国庫も含めて公選法で制限されてきたが、ことし6月の規正法改正により、収支報告書の不記載収入を国庫に納付できる特例が新設をされた。ただ過去に遡及することはなかなか難しいわけで、立法趣旨も踏まえたうえでどのような対応ができるか。検討していくことが必要だ」と述べた。
今後出馬表明する候補者の主張が総裁選に大きく影響か
この問題については、来週以降出馬表明する見通しの茂木氏、林官房長官、高市経済安保相も、どのような対応をとるか迫られるだろうし、9月6日に出馬表明することになった小泉進次郎氏も、刷新を期待される中で裏金議員についてどんなけじめをつけるかが問われることになりそうだ。
そして、その対応の違いは、党員票・議員票それぞれの動向に複雑な影響を与えるとみられる。
ある自民党幹部は、総裁選で改めて直面する政治と金の問題について「裏金のケジメの付け方、旧文通費、政策活動費」の3つを挙げ、特に政策活動費のさらなる改革の難しさに言及した。
総裁候補の主張によっては、通常国会で改正したばかりの政治資金規正法を、新総裁・新首相のもとでさらに改正する必要が出てくる可能性もある。
不記載のあった議員のけじめと、政治資金規正法改正で不十分とされた点のさらなる改革についてどう対応するかは、総裁選の行方を大きく左右する争点として浮上したことは間違いない。
(フジテレビ政治部)