「トラックマン」や「ラプソード」などの計測機器はNPBのすべての球団で導入しているから、投手はこれまでも、日常的に自身の投球の回転数や回転軸、変化量などのデータを目にしていた。
しかし多くの投手は投げ終わってから数字を見るだけで、ダルビッシュのように1球1球チェックする投手は、ほとんどいなかった。
選手たちはダルビッシュの姿勢を見て、データへの認識を改めようとし始めていた。
影響を受けた佐々木朗希にも変化
翌日、千葉ロッテの佐々木朗希がブルペンに入った。佐々木も「トラックマン」を設置しているレーンに向かい1球1球、確認することを希望した。
恐らくはダルビッシュが前日そうしていたのを見ていたからだろう。そして、以後、侍ジャパンのほぼすべての投手が1球1球データを見るようになるのだ。
佐々木は投げ終わると、ダルビッシュにトラッキングデータを見せて、アドバイスを貰った。
このシーンはWBC侍ジャパンのドキュメント映画『憧れを超えた侍たち 世界一への記録』にも出てくる。映画にあるように、佐々木はこのときに、スライダーの投げ方についてもダルビッシュから教わったのだ。
1球ごとに「トラックマン」のデータをチェックする習慣は、NPB球団に戻ってからも各投手は続けるのではないか。WBCのキャンプから投手の意識変革が起こる可能性もあるだろう。
そしてそれ以上に、投手が他の投手の投球データに注目するようになったことが大きい。
スターを前に気後れした宇田川だが…
あるストッパーは他球団のストッパーの投球を、自分の目とトラッキングデータで1球1球確認しながら見ていた。そういう形で投手たちが「他の投手」にも関心を持つようになったのだ。
この宮崎キャンプには前年まで育成選手だったオリックスの宇田川優希が参加していた。宇田川は大スターぞろいの中で気後れしていたが、ダルビッシュ有がアテンドしてチームに溶け込むようになった。
実は宇田川はキャンプイン当初は調子がよくなく、それは「トラックマン」のデータにも表れていた。しかしフォークだけは「とんでもなかった」。