岡山・西粟倉村では、村の自然資源を活用して水力やバイオマス発電を行い、太陽光発電も加えた再生エネルギー自給100%を目指している。専門家は、自然との調和が持続可能なエネルギーの鍵だと指摘している。

電力100%自給を目指す西粟倉村の挑戦

村で使う電気の自給自足への挑戦に迫った。

大きな丸太が機械に吸い込まれて粉砕される
大きな丸太が機械に吸い込まれて粉砕される
この記事の画像(14枚)

熟練の職人が操る重機で運ばれる巨大な丸太が、次々と機械に吸い込まれ、瞬く間に細かく粉砕されていく。

水しぶきを上げて高速回転するタービン
水しぶきを上げて高速回転するタービン

さらに、水しぶきを上げて高速回転するタービン。この源となっているのは、山あいを流れる清らかな小川だ。

この自然の恵みを未来の子供たちへつなぐため、小さな村が目指す、人と地球に優しい、ある取り組みを取材した。

鳥取との県境に位置する西粟倉村
鳥取との県境に位置する西粟倉村

岡山県の北東部、鳥取との県境に位置する西粟倉村(にしあわくらそん)。
辺り一帯を豊かな森林に囲まれたこの村で、今進められているのが、再生可能エネルギーを使った電力の100%自給だ。

化石燃料に頼らず、再生可能エネルギーを活用し、村で使う電力を100%自給することを目指している。

自然の恵みをみんなで分かち合う“上質な田舎づくり”を目指している西粟倉村は、エネルギーの自給自足を実現するために、まず周囲の山々から湧き出す豊富な水に目を付けた。

巨大パイプの先のタービンで水から発電する
巨大パイプの先のタービンで水から発電する

小川の上流に設置された取水施設から、下流にある小さな発電所に水が送られる。中には水が通る巨大なパイプがあり、この小さな窓を除いてみると、中では勢いよくタービンが回り電気を生み出している。

その後、水は再び元の川へ戻され、この過程でCO2は一切排出していない。

間伐された森林
間伐された森林

そして、村の面積の9割以上を占めるのが森林で、育てられた木の中には、間伐で切り捨てられたり、品質が低く買い手が付かないものもあるが、これを集めて有効活用している。

まずは巨大な重機を使って、木材を丸太の状態から細かく粉砕しチップ状に変え、できた大量のチップを別の施設に運び込み、熱エネルギーとして利用。この施設でお湯を沸かし、村の温浴施設などへと送り届ける。

バイオマス発電を行う施設
バイオマス発電を行う施設

さらに隣の施設ではチップを使ったバイオマス発電も行われており、このバイオマスと水力による発電で、村の6割の電力を賄っている。

そして、次に目を付けたのが太陽だった。村では2023年3月、民間企業などと共同出資し、地域の新たな電力会社「西粟倉百年の森林でんき」を設立。既存の発電設備の運営や保守の他、新たに太陽光パネルを設置し、電力の100%自給を目指しているが、そこにはこんなこだわりがあった。

西粟倉村百年の森林でんき・寺尾武蔵代表取締役:
とにかく自然を壊さず調和の取れた、人も自然も幸せにできるようなパネルを置けたらと考えています。

公共施設の屋根に設置された太陽光パネル
公共施設の屋根に設置された太陽光パネル

村の宝である自然を最大限に生かしつつも、決して自然は壊さないため、村にある太陽光パネルは個人が設置したもの以外は、全て公共施設の屋根などに設置している。

今後、順次パネルの設置を進め、2年後には、再生可能エネルギーによる電力の100%自給を目指している。

西粟倉村百年の森林でんき・寺尾武蔵代表取締役:
人の生活と自然と共存する形で、折り合いをつけながらやっていく。正しく仕事をしてお金を稼いで、そこで雇用を生みながら、経済を循環させる。経営の基盤、それをちゃんと確保しながら、太陽光パネルを増やしていく。国とか世界の課題を解決する方に向かっていくというのは、やるべきかなと思ってます。

山間の小さな村が目指すエネルギーの自給自足。その思いは豊かな自然と共に50年後、100年後へと受け継がれていく。

地域経済を守るエネルギー地産地消は重要

「Live News α」では、コミュニティデザイナーで、studio-L代表の山崎亮さんに話を聞いた。

堤礼実キャスター:
小さな村の大きな試み、どうご覧になりますか。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
地域の中で何度もお金を回すことが出来るか、地域の外へお金を支払ってしまうか、地域の経済を考えるとき、そこが大切になります。

野菜などの地産地消はよく知られるようになりましたが、エネルギーも地産地消になれば、地域のお金を外に流さずに済みます。化石燃料に頼る発電方法では、お金は地域の外どころか、海外に出ていってしまう。

西粟倉村では、地域にあって流れ行くものから、エネルギーを作り出そうとしています。

堤キャスター:
地域にあるもの、再生可能なもの。これを上手く活用していくことは大切なことですよね。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
今回のケースでいうと、その一つが水力。森が育んだ水が動力となって、電力を生み出します。それと、森が育んだ木材の端材や間伐材を使って、熱エネルギーを生み出しています。

さらに、太陽光発電ですが、これについては、その設置場所などについてよく考える必要があります。

水・木・太陽の調和ではじめて成り立つ

堤キャスター:
それは、どういうことでしょうか。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
水と木材を育む森を破壊して、太陽光パネルを設置すると、逆にバランスが崩れて、再生可能ではなくなります。水と木と太陽、お互いのバランスを取ることで、はじめて持続可能なエネルギーとなります。

今、多くの地域で再生可能なエネルギーを生み出す試みが行なわれていますが、そのバランスが保たれているのか、常に振り返る必要があると思います。

堤キャスター:
今回の小さな村の挑戦から、多くのことが学べそうですね。

コミュニティデザイナー・山崎亮さん:
地方で過疎や縮小という言葉が使われ出すと、「もうだめだ、息子や娘は都会へ出ろ」という雰囲気になってしまいがちです。

そうではなく、人は減っても充実した暮らしというのは確かにあります。今回の小さな村の試みは、それを証明しているように思います。

堤キャスター:
資源には限りがあります。持続可能なものに、切り替えを進めて、どう暮らしを充実させ、未来につなげていくのか。今回の試みには、沢山のヒントがあるように思いました。
(「Live News α」8月15日放送分より)