愛媛県の松山城城山で発生した大規模な土砂崩れから8月12日で1カ月が経過した。親子3人の尊い命が失われ、多くの家屋が被害を受けた。今なお避難生活を続ける住民がいる中、復旧と再発防止に向けた取り組みが進められている。
被災地の現状と、そこに暮らす人々の思いを追った。

突如として襲った土砂の脅威

2024年7月12日午前4時前、松山城城山の北側で大規模な土砂崩れが発生した。
ふもとの家に住んでいた3人が命を落としたほか、近くの家やマンションにも土砂が押し寄せ、大きな被害をもたらした。

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マンションの住民が「やばいよ、崩れとるもん、家が」と発した言葉が、その瞬間の恐怖を物語っている。

松山市は一時、緑町を含む清水地区の1万3226世帯、2万2062人に警戒レベルが最も高いレベル5の「緊急安全確保」を発令した。

続く避難生活 水の大切さを実感

発生から5日後の7月16日、ほとんどの場所で「緊急安全確保」は解除されたが、一部の住民は家に帰れなかったり、マンションの部屋には帰ったものの断水が続いたりと、不便な状態が続いた。

あるマンションでは、壊れていた貯水タンクが8月に復旧して、ようやく水が使えるようになった。

このマンションの10階に住む矢田共行さんは、「水の運搬はしんどかった。4キロぐらい痩せたもんね。もう大汗よ。水があんなに苦慮するとは思わんかったね」と苦労を振り返った。

二次災害への不安 台風シーズン前に

徐々に元の生活が戻りつつある一方で、住民たちの心に重くのしかかるのが二次災害への不安だ。

矢田さんは、「第二次の災害も待っとるけんね。これから台風時期に入ってくるからね、雨が降るとちょっと恐ろしいものがあるね。二次災害を止めるっていうのは今の状態では無理やけん。それが本当にできるまで言うたら何年かかるか」と語った。

マンションの3階以下の部屋の一部は、部屋に大木が突き刺さるなど大きな被害で、避難指示が継続中。住民はホテルで避難生活を続けている。

営業再開の壁 経済的支援の不足

道路を挟んだ向かい側で日本料理店を営む竹田利宣さん(65)は、今も帰宅できていない。
竹田さんは「私が朝、避難で出る時にはもう既にくるぶしくらいまでは泥が来ていた」と語った。

店舗は大量の泥水に襲われ、高さ25cmまで泥水がたまったそうだ。痕跡は、いまだにくっきりと残っている。

竹田さんは「『ドカーン』『ドーン』という音がして行ってみると、冷蔵庫がカウンターの端の方まで1メートルくらい、ぐわっとずれてきたんです」と、未明に起こったことを話してくれた。

壁を突き破って入ってきた泥水で、店内は調理器具などが散乱した。

竹田さんは「これはもう店は使えないわと思いました。もう泥水を止めようもないですもんね」と当時を振り返る。

7月23日、松山市の復旧作業で店内の泥水はようやく撤去されたが、排水溝はまだ泥が詰まったままだ。

排水溝にはいまだ泥が詰まったまま…
排水溝にはいまだ泥が詰まったまま…

竹田さんは「この泥をまずのけてパイプの中を掃除しないと、とても流れていかないです」と語る。

松山市では、8月9日に土砂災害で被害を受けた世帯に対し、全壊した住宅に20万円、半壊に14万円、それ以外の被害住宅には7万円、長期的な断水などの被害に遭った世帯にも5万円の見舞金を給付する補正予算が成立した。

しかし、店舗の被害に対する経済的支援は、ほとんどないという。

竹田さんは「店に対して支援金がほとんどないというのはね、ちょっと店の再建はできないですよね」と、その苦境を語った。

32年にわたりここで営業する竹田さんの店には多くの常連客がいて、再開を望む声も寄せられているが、今後の台風シーズンや来年の梅雨などを考えると不安がぬぐえないという。

「前の倒壊した家がなくなって、土砂が直接流れてくることになるわけですから」と不安を口にする竹田さん。安全が確認できない限り、この場所で営業を再開するのは難しいと話す。

竹田さんは「松山市が補償だとか災害の原因を追究すると言いながら、一度も話を直接聞いたことない」と、松山市から被害に遭われた方々に直接説明の機会を設けてほしい思いをあらわにした。

地域の住民らは、8月中旬にも松山市の説明責任を問う公開質問状を松山市に提出する予定だ。

原因究明と再発防止へ 専門家ら検証

愛媛県は国や松山市、愛媛大学の専門家を集めた技術検討委員会を立ち上げ、原因究明と再発防止策の検討を進めている。

7月29日には、崩落の上部にあたる緊急車両用道路の工事現場などを視察。天守付近に降った雨水がどのように斜面に流れ込み城山の谷筋に集まっていったかなどを確認していた。

松山市の担当者は「工事で表面水が落ちていくことに対して、下の崖に影響を与えてはいけないので、こちら側の横断側溝を通じて流す対策はしておりました」と話す。

愛媛大学工学部の森脇亮教授は、「緊急輸送道路の擁壁が傾いてひびが起きたり、変状が起きたりということ自体は、擁壁を支持している地盤が少しずつ緩んだり、ずれたりの『崩れる前兆現象』になっていたんだろう」と分析する。

大量に降った雨の「水の流れ」や、事前に起きていたひび割れや傾きなどの「道路の異変」に注目。委員会は、2024年内を目標に原因と再発防止策を取りまとめる方針だ。

矢田さんは「我々はとにかく松山市・愛媛県の行政にお願いして、一日も早く元の生活に戻れるようにお願いしたいね」と語った。

多くの人の生活を一変させた土砂災害から1カ月。松山城の営業再開など、状況は少しずつ前に進む一方で、今も家に帰ることのできない人がいる現実がある。
住民が安心して暮らせるよう、原因解明と二次災害への対策が急がれている。

(テレビ愛媛)

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