8月8日に宮崎県を襲った最大震度6弱の地震。日向灘では約30年周期でM7クラスの地震が発生しているが、今回「割れ残り」が生じている可能性が浮上した。専門家は1996年のように2度目の地震発生や、今回以上の津波発生の恐れも指摘する。初めての「南海トラフ巨大地震臨時情報」も発表される中、私たちはどう生活していけばよいのか。
メカニズムは東日本大震災と同じ
Q.今回の地震はどんなメカニズムで発生した地震?
この記事の画像(9枚)山下裕亮助教:
地震のメカニズム的には「プレート境界地震」というもので、南海トラフ地震や東日本大震災と基本的には同じ。宮崎県が乗っている大陸のプレートの下にフィリピン海プレートが沈み込んでいて、その境界の一部分で大陸プレートが跳ね返るという現象が起こって今回の地震となった。
Q.ずれの規模感はどのくらい?
山下裕亮助教:
今回、M7を少し超えるぐらいだったが、他機関の解析結果では最大で2mから4mぐらいずれたという結果が出ている。
Q.今回は緊急地震速報が鳴る前に揺れたが…
山下裕亮助教:
緊急地震速報は地震を観測しないと発表されない。宮崎県の沿岸より沖合には観測点がないので、基本的には間に合わないことの方が多い。特に日向灘で起こる地震は間に合わない。先に強い揺れが来ることの方が多く、これはもう限界だと思っていただきたい。
「南海トラフ臨時情報」とは?
Q.初めて発表された「南海トラフ地震臨時情報」とは?
山下裕亮助教:
南海トラフ地震臨時情報は、M6.8以上の地震が発生する、もしくは通常と異なる「ゆっくりすべり」などの現象が発生した場合に発表される情報。今回の場合はM6.8以上の地震に該当し、初めて発表された。想定震源域内のどこかでM6.8以上の地震が起こると自動的に発表される。今回はギリギリだが範囲に入っていたので、まず「臨時情報(調査中)」が発表された。
そのあとに発表されるのは「巨大地震警戒」「巨大地震注意」「調査終了」3つのパターンに分かれる。このうち今回は「巨大地震注意」が発表された。
山下裕亮助教:
大きく分けると「巨大地震警戒」の場合はM8以上が想定される場合。「巨大地震注意」の場合はM7以上8未満。「巨大地震警戒」の場合は、もう南海トラフ地震が半分起こってしまっている状態。「半割れ」と呼ばれるが、東側もしくは西側で南海トラフ地震が起こった場合に、その後引き続いて起こる後発地震に気をつけましょう、というのが「巨大地震警戒」という情報。
この場合は半分で地震が起こって、さらにその半分で地震が極めて起こりやすくなっている。過去の事例で「32時間後」や「2年後」などの幅はあるが、とにかく次がもう起こるよ、皆さん特に警戒してください、という情報になるのが「巨大地震警戒」。
宮崎では揺れを感じていなくても、この情報が出る可能性がある。遠く離れている所だと、全然地震のことを知らないのに突然この情報が出るということがありうる。今回は日向灘で地震が起こったので皆さん揺れを感じてからこの情報が出たが、いつもそうではないということも覚えておいていただきたい。
「一部割れ」が巨大地震につながる確率は?
山下裕亮助教:
今回のケースは「一部割れ」という状況になっていて、この場合は、その後引き続いて巨大地震が起こるケースは「稀」だ。世界中の地震の統計を取った結果、頻度で言うと数百回に1回。基本的にはほぼ何も起こらない。でも万が一起こったらすごいことになってしまうので、念のため気をつけて、という情報。
Q.平常時よりは相対的に高まっている?
山下裕亮助教:
「巨大地震注意」の場合、地震学的には2倍3倍と上がっているが、「巨大地震警戒」の場合は100倍とか1000倍とかになる。今回はそこまで上がっていない。南海トラフ巨大地震が起きる可能性は、確率でいうと低い。極めて低い。
私たちの取るべき行動は?
Q.巨大地震注意の場合、私達はどうすればよい?
山下裕亮助教:
基本的には皆さんに「何か絶対これをしなさい」ということはない。旅行に行くなとか、そういうことを強いる情報ではない。基本的にお願いしたいことは、平常時より巨大地震が起こる可能性が少しだけ高くなっている状況なので、万が一のことを考えて、巨大地震が起こったときにすぐに避難できるよう、準備や備えを再確認してほしい、ということ。
Q.地震発生以降、小さい揺れが続き、10日までに16回発生している。なぜ続く?
山下裕亮助教:
大きい地震が一度発生し、断層がずれると、周辺にしわ寄せが生じる。そのしわ寄せを解消していこうとして、またさらに地震が起こる。このため、しばらく地震は続く。必ず続く。体に感じない地震を含めると、実はもう600回ぐらい発生している。
それだけ普段より地震がものすごく多くなっているので、体に感じる地震も必然的に増えてしまっているというふうに考えていただければいい。落ち着くまでには、まだ時間がかかる。
日向灘地震は約30年間隔でM7クラスが
Q.日向灘では過去にも繰り返し地震が起こっている。一定の周期はある?
山下裕亮助教:
日向灘は広いが、宮崎市の沖合だけに限定すると、この100年間で1931年にM7.1、1961年に7.0、1996年は10月と12月の2回でM6.9とM6.7。これは2つを足すと、だいたいM7.0ぐらい。そして今回2024年のM7.1。
並べて見てみると、30年、35年、今回28年。大体30年間隔ぐらいで繰り返してきているものが、今回発生したというふうに今考えている。
M7クラスの地震が繰り返し発生している場所なので、今回の地震もそういう意味ではある程度予測されていた地震ではあった。何か突然、変なことが日向灘で起こったわけではない。
Q.1996年には2回発生した。今回はこの1回で終わり?
山下裕亮助教:
非常に難しいところ。そこまではっきりと申し上げることができないが、今の段階でやっと解析が出そろってきた。それによると今回の地震は、この1996年12月の地震の震源の近くで起こった。今回の地震でプレート境界が滑ったところが、震源よりも南側に広がっているということがある程度わかってきた。
これで、1回で終了と思いがちだが、実は1996年10月、別の場所でも過去に1回地震が起こっている。今回、ここも一緒に滑ってほしかった。しかし、多分残っている。まだ動いていない「割れ残り」が生じている可能性が高いと考えている。
「割れ残り」で再び同規模地震、警報級津波の可能性も
Q.割れ残りがあると、今後どんなことが?
山下裕亮助教:
仮に「割れ残り」があって、今後地震が発生する可能性があるとすれば、規模的には今回と同程度ぐらいになる可能性がある。そうなると、やはり強く揺れるし津波もやってくる。今回と同じようなことが繰り返される可能性が今後もしばらく続くというふうに考えられる。
今回の地震よりも震源域は少し距離が離れるので、揺れの強さ自体は今回とそんなに変わらないと思うが、津波に関しては、東側に行けば行くほど断層の深さが浅くなる。浅いところで地震が起こると持ち上げる水の量が多くなるため、実は津波は高くなる。
今回は50センチ、津波注意報のレベルで済んだが、場合によっては1m以上、津波警報レベルの津波がやってくる可能性も否定できない。もし起こったときには津波への警戒が必要。ただ、いつ起こるかはわからない。こればかりは残念ながら誰もわからない。変な噂などに惑わされないようにしていただきたい。
必要な心構えは?
Q.私たちにはどんな心構えが大切になる?
山下裕亮助教:
能登半島地震が正月にあった。自分が不慣れなところに行くときは事前にリスクを調べることをこの機会に習慣づけていただきたい。安全を確保するために、しっかり、どこに避難したらいいかとか、準備を進めていただきたい。
Q.最後に伝えたいことは?
山下裕亮助教:
皆さんの足元にある日向灘の地震というのは、残念ながらまだ終わっておらず、落ち着くまでまだしばらくかかる。南海トラフ地震も大事だが、まずは日向灘の地震のことに注意を払っていただいて、安全に過ごしていただきたい。
(山下裕亮助教)京都大学防災研究所宮崎観測所。観測地震学が専門。日向灘の地震などを研究している。
(テレビ宮崎)