新元号発表の前日に・・・
歴史的な新元号の発表を翌日に控えた3月31日、安倍首相は東京・上野にある東京国立博物館を訪れました。ここで開催中の特別展「両陛下と文化交流―日本美を伝えるー」を鑑賞するためです。
この記事の画像(8枚)およそ30分間にわたりじっくりと作品を鑑賞した安倍首相は「日本の美術、文化の美しさ、そしてその奥深さ、改めて感銘を受けながら再認識をした」と感想を述べました。そして最後には、新元号発表に向け「様々な方々からご意見を伺いながら決定していきたい」と語りました。
また、安倍首相は東京国立博物館を訪れる直前には、行きつけの美容院で散髪を済ませていました。ちなみに30年前に新元号「平成」を発表した当時の小渕官房長官は、当日あわてて理容室に行き、髪を整えたものの、急いでいたこともあり少し髪が立っていたといいます。安倍首相は万全の態勢で身なりを整え、天皇に思いを馳せながら、歴史的な新元号の発表に向け気持ちを高めたのかもしれません。
発表当日の朝・・・異様な首相官邸の雰囲気の中・・・
ついに迎えた元号決定当日の4月1日。この日は私たち総理番記者をはじめとする政治部の記者にとっても、特別な一日となりました。
朝から首相官邸のエントランスは異様な雰囲気に包まれました。開門すると同時に、続々と記者やカメラマンが集まり、あっという間に官邸は人で埋め尽くされました。
そして午前9時すぎ、ついに安倍首相が現れました。その顔は緊張しているように見えました。総理番記者から今の気持ちを尋ねられると「希望に満ち溢れた新しい時代につながるような新元号を決定したい」と答え、いつものようにエレベーターへと乗り込んでいきました。
新元号「令和」を自らの会見でアピール
日本中が注目する中、ついにその瞬間が訪れました。予定より10分ほど遅れて始まった菅官房長官の会見で新元号「令和」が書かれた額が掲げられました。それに続いて正午すぎに行われたのが、安倍首相の会見でした。
実は今回、「令和」の発表時において何といっても気になったのは、安倍首相自らが積極的にアピールした点です。「平成」の時は、元号発表を行った当時の小渕官房長官が「平成おじさん」と言われたように、官房長官が盛んにメディアに取り上げられました。
しかし、昭和天皇の崩御により国民が喪に服している中での発表と違い、今回は退位を前にして事前に新元号を公表するため国民全体に新元号を歓迎するムードが広がる中での発表ということで、安倍首相自ら積極的にアピールすることを選びました。
その安倍首相の会見に向け、菅長官の会見終了後の会見室では、背景のカーテンが普段の官房長官会見での水色から赤に変えられました。赤のカーテンは、これまで特別な時の総理大臣の会見で使われてきましたが、第2次安倍政権ではほとんど使われてきませんでした。今回は、安倍首相による新元号に関する談話発表という特別な瞬間を、とっておきのカーテンで演出した形です。
令和に込めた思いを力説…「一億総活躍」「世界に一つだけの花」も
安倍首相はこの会見で「令和」に込めた思いを語りました。「令和」は日本最古の歌集・万葉集からの引用であると説明し、「厳しい寒さの後に春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように、一人一人の日本人が明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる日本でありたい」と述べました。
さらに、安倍首相は、質問に答える形で、新時代の日本のあるべき姿について語り、安倍政権の看板政策である「一億総活躍社会」や、SMAPの名曲「世界に一つだけの花」にも触れて、新たな元号をアピールしました。
「次の世代、次代を担う若者たちが、それぞれの夢や希望に向かって頑張っていける社会、一億総活躍社会をつくり上げることができれば、日本の未来は明るいと確信しています」
「平成の時代のヒット曲に「世界に一つだけの花」という歌がありましたが、次の時代を担う若者たちが、明日への希望とともにそれぞれの花を大きく咲かせることができる。そのような若者たちにとって希望に満ちあふれた日本を国民の皆様と共につくり上げていきたいと思っています」
実は、安倍首相が「世界に一つだけの花」に触れたのは100%アドリブではありませんでした。事前に会見での発言内容について側近らと打ち合わせする中で、「世界に一つだけの花」の話が出ていて、それを実際の会見でも繰り出したということです。誰もが知る平成の代表曲を使うことで、元号を最大限アピールする狙いが見て取れます。
自ら会見を行った理由を説明 野党からは批判も
また会見では、平成の時と違い、首相自らが談話を読み上げる会見を行った理由についても質問が出て、安倍首相は次のように説明しました。
「(平成決定の)当時は総理大臣が会見を行うということは極めてまれでありましたが、平成の30年を経て、総理大臣が直接発信する機会も増大しました。私自身、何らかの出来事があると、官邸に入る際などに記者の皆さんから声がかかり、マイクを向けられることもあります。そうした時代にあって、平成のときと同様に、総理大臣談話を発表するのであれば、私自らが会見を開いて、国民の皆様に直接申し上げるべきだと考えた次第であります」
この言葉にもにじんでいますが、自ら会見を開いた背景には、有識者や衆参正副議長などの意見は聞きつつも、最終的には自らの判断で新元号を「令和」に決めただけに自ら説明したいという安倍首相の自負も感じられました。
こうした安倍首相の動きには野党から「しゃしゃり出すぎじゃないか」(立憲・辻元国対委員長)、「個人のアピールの場と勘違いしているのではないか」(社民・又市党首)といった声が上がったのも事実です。
批判もある中で、安倍首相が今後、「令和」の時代をどのようにかじ取りし、いかに国民にとってよき時代にしていくのが、改めてその真価が問われます。
(フジテレビ政治部 総理番記者 梅田雄一郎)