女子パークでニッポンの「表彰台独占もあり得る」進化を続ける天才スケート少女たちの強さにあるのは“無限に重ねた自分超え”
8月6日に行われるパリオリンピック、スケートボード女子パーク種目。
スケートボードは街中の階段や手すりなどの障害物を模したストリートと、お椀型のコースを合わせた形状のセクションで技を競うパークに分かれている。
先日行われたストリートで女子は吉沢恋(よしざわ・ここ14)が金メダル、赤間凛音(あかま・りず15)が銀メダルとワンツーフィニッシュ。男子は堀米雄斗がまさに堀米劇場とも呼べる大逆転劇でオリンピック連覇を果たし、日本中が感動と歓喜に包まれた。
そして8月6日からはパーク種目が行われ、こちらも日本勢によるメダルが期待されている。
パークで活躍が期待される日本勢と海外勢の選手を紹介。“ニッポン表彰台独占の可能性が限りなく高い”理由も見えて、競技をもっと楽しく見ることができる。
世界ランキング上位につけるのは日本&日本にルーツを持つスター達
去年2月から始まった、パリオリンピックスケートボード、パークの予選大会は今年の6月まで行われた。
最終的な世界ランキングの順位は以下の通り。
1位:開心那(15)
2位:アリサ・トルー(14)
3位:四十住さくら(22)
4位:スカイ・ブラウン(16)
5位:草木ひなの
1位は東京オリンピック銀メダリストの開。
2位がオーストラリア代表のアリサ・トルーで、3位は東京オリンピック金メダリストの四十住。
4位に東京オリンピック銅メダリストのイギリス代表スカイ・ブラウン、5位に草木ひなの、と続く。
この記事の画像(7枚)当然この5人がスキルも、自身の持ち技をノーミスで滑りきることができれば、表彰台入りする可能性が限りなく高い顔ぶれになるが、ここに意外な事実がある。
アリサもスカイも母親が日本人ということだ。
つまり、2人とも日本にかなり近しいルーツを持っている。
まずは日本にルーツを持つ、天才スケーター、アリサからフィーチャーしていく。
現時点でトランジション最強!アリサ・トルー
開は唯一、グラインドなどのリップトリックに特化したスタイルだが、女子パークでは、東京オリンピックの少し前辺りから、空中で1回転半回る技540(ファイブフォーティ)などのトリックを中心とした、空中戦が強い選手がコンテストの表彰台を占めてきている。
空中戦が激化する中、オーストラリアのアリサは、バート(スノーボードのハーフパイプのような種目)で2023年6月に、女性初の空中で2回転まわる大技、720(セブントゥエンティ)を成功させた。
さらに5月には本人のインスタグラムにて、空中で2回転半まわる900(ナインハンドレット)を成功させた映像を公開した。
6月の大会「トニーホーク・バートアラート」ではスイッチマックツイストという、とてつもない大技で、さらに女性スケーター初記録を更新する。
この技は普段の利き足とは逆のスタンスで飛び上がり、空中で縦軸に540度回転する技で、野球で言えば普段の打ち方とは逆にバットを持ち、ホームランを打つようなもの。
まさに現時点ではトランジション(パーク種目ようなセクションのこと)最強女子なのである。
アリサは、女性スケーターの限界を日々更新し続けている。パリオリンピックではどんな記録更新を見せてくれるのか楽しみだ。
スケボー界のカリスマ!スカイ・ブラウン
アリサに続く、もう一人の女性スケーターは、当時13歳で東京オリンピックに出場し、銅メダルを獲得したイギリスのスカイ・ブラウン。
この時の記録は、イギリス最年少オリンピックメダリストとなった。
彼女のスケートの特徴は、大技の540を行う際、大半のスケーターがお腹側(バックサイド)に1回転半回るが、それとは逆方向の背中側(フロントサイド)に空中で1回転半まわる、ロデオ540を得意としている。
この他にも空中で板を縦に1回転させるキックフリップインディなどがある。
パリオリンピックでも、持ち技をすべて決めきることができれば、表彰台入りは間違いない選手の一人だ。
しかしスカイの注目ポイントはトリックだけではない。彼女のスケートの一番素晴らしい点は、精神力にある。
東京オリンピックの前年に頭蓋骨と手首を骨折する大ケガを負うが、東京オリンピックの舞台では決勝に進出。決勝のランでは四十住や開といった、オリンピック予選を一緒に戦ってきた仲間が1本目のランからフルメイク(ミスなく滑りきること)のランを見せる中、スカイは2本目までキックフリップインディを外してしまう。
残された最後のランとなった3本目では、常人には想像もつかないプレッシャーをはねのけてキックフリップインディを決め、最後にはフロントサイドの540をメイクし、見事に銅メダルを獲得している。
スカイにとっては、今回のパリオリンピックも万全とは言えない。
パリに向け、ライバルたちが新技を磨く中、彼女は4月上旬に右膝の靭帯損傷のケガを負ってしまう。
6月のパリオリンピック最終予選大会では見事に準優勝を果たしているが、ケガをしている期間はオリンピックに向けた技の練習もままならなかったであろう。
一見不利な状況のように見えるが、それでも東京オリンピックの時のように強靭な精神力と、彼女の強い気持ちでパリでも最高のスケートを見せてくれることを期待したい。
そんな彼女のスケートには見るものを惹きつける魅力があり、カリスマ性がある。
ちなみにサーフィンでもパリオリンピック出場を目指していたが、代表選考に落選。
残念ながら二刀流出場の夢は今回は叶わなかったが、どんなことにも挑戦を続けるという彼女の姿勢が、世界中の女子を勇気づける存在になっていることは確かだ。
ニッポン強さの秘密
あくまでVANSパークシリーズやX Games、東京オリンピック予選大会シリーズから東京オリンピック、パリオリンピック予選シリーズなどを見てきたライターの意見になってしまうが、女子パーク日本勢が強い理由は、体格は大きくないが、俊敏性が高く、器用で努力家な点にある。
サッカーを見るとわかりやすいが、海外で活躍する日本人選手の大半は、体格は外国人選手に比べて大きくはないが、高い俊敏性と技術を活かして活躍している。
そうした日本人選手の特徴を踏まえた上で、まず言いたいことが「正直、パーク種目のコースはバカでかい」ことだ。
しかし男子選手たちはそのでかいセクションを活かして、グングン滑り、ブンブン飛び、クルクル回転し、高いスケートスキルを遺憾無く発揮する。
当然、男子に比べると女子はフィジカル的には劣るため、パーク種目の大きさのトランジションでは、エアトリックの540やフリップトリックをいかにコースに対応してメイクできるかが重要になってくる。
そこで、男子のようなフィジカルがない上で、体格も大きくなってくるとエアトリック、特にスピントリックを行うのに不利になってくるが、海外から見たら体格が大きくなく、重心が低く、高い俊敏性を兼ね備えていると、パーク種目のコースにおいては540など回転数の多いスピントリックには有利に働く。
だがそれも現段階の話であり、今後陸上競技でも活躍できるような高いフィジカルを持ち、子供の頃からスケートに打ち込み、日々スキルを磨くようなスケーターが現れれば、また女子パークの世界も変わってくるかもしれない。
もちろん日本勢の強さの秘訣は体格だけでなく、トリックとひたすら向き合い、ひたむきに努力し続ける性格から生まれる、高い技術がある。
そして無限に重ねた練習から生まれる自信と、練習を重ね続け昨日までの自分を越え続けてきたことで得た強い精神力は、スケートボードのとりわけ強いプレッシャーがかかるコンテストでは何よりも強みになる。
昔はスケートボードのトリックを見るには海外の雑誌やビデオテープしかなかったが、今はSNSの普及でいつでもどこでも世界最高難度のスケートトリックを見られるようになった。
これにより、練習できる場所(スケートパーク)さえあればトリックの習得が可能になったことと、スケートボードが本来持っている“楽しむ気持ち”と、日本人の持つ努力家な性格が掛け合わさり、努力を楽しみながら成長するという、スケートボードの持つ競技性が日本人の性格にマッチしているのだろう。
(文:小嶋勝美/スケートボード放送作家)
ニッポン52年ぶり表彰台独占なるか
スケートボード女子パーク 予選・決勝
8月6日(火)よる7時からフジテレビ系にて放送