【女子パーク】開心那・四十住さくら・草木ひなの、“マスター”“策士”“鬼姫”三者三様スタイルと3枠争いで育まれた思いを表彰台へ繋げ
現在開催中のパリオリンピック。
スケートボードは日本勢が大活躍。男子ストリートは堀米雄斗(25)が土壇場の大逆転で金メダルを獲得し、オリンピック連覇を果たす。
一時は自力出場が消滅し、オリンピックへの出場自体が危ぶまれた堀米だったがオリンピック選考最終予選で優勝し、運も味方につけて日本代表に滑り込んでの金メダルはまさにパリの奇跡だ。
女子ストリートでは吉沢恋(よしざわ・ここ14)が金メダル、赤間凛音(あかま・りず15)が銀メダルと、オリンピック初出場の2人がワンツーフィニッシュを飾る快挙。
パリでも見せる涙と笑顔のたたえ合い
今回のパリオリンピックでも、そして東京オリンピックでも、選手同士の“たたえ合いの姿”が多くの感動を呼んでいる。
そんなシーンに、東京オリンピックの女子パークで胸を打った、たたえ合いを思い出す人もいるだろう。
当時、金メダル最有力候補とも言われた岡本碧優(おかもと・みすぐ)が全てのラン(試技)を失敗してしまい、泣き崩れてしまう。
すると、健闘をたたえた各国のライバル達が彼女を担ぎ上げ、岡本の涙を笑顔に変えた感動の一幕はフェアプレー賞を受賞した。
パリではどんな名シーンが生まれるかにも注目だ。
そんな世界中の胸を熱くさせる女子パークが、8月6日に行われる。
今回は夏のパリをさらにアツくさせる、開心那(15)、四十住さくら(22)、草木ひなの(16)の女子パーク日本代表3人の強さの秘密のさらに裏側に迫る。
音にも注目!ノーズグラインドマスター・開心那
現在世界ランキング1位、そして東京オリンピック銀メダリストの開心那(ひらき・ここな)。
彼女を一躍有名にしたのが、「トラック」と呼ばれる車軸の先端だけでコースの縁を滑る技、ノーズグラインドだ。
東京オリンピックの時はこの技を見せる女子選手はおらず、まさに彼女のシグネチャートリックだった。
この記事の画像(8枚)最近では海外選手でもノーズグラインドを見せるスケーターは増えたが、それでも開の完成度、スタイルに勝るスケーターは一人もいない。
開のノーズグラインドは見た目だけでなく、音でも他を圧倒する。
グラインドでコースの縁を滑る際に聞こえる「ゴリゴリゴリ」というトラックが削れる音は誰よりも長く、全てが完璧な完成度を誇っている。
そこまでのノーズグラインドを見せる女子選手は大げさでなく開以外には、今現在いないのだ。
さらに特筆すべきは彼女の高いメイク(技の成功)率。
パリオリンピックの予選ツアーでは安定感のある滑りで、全6戦中全てで決勝に進出。
そのうち5戦で表彰台入り(優勝1回、準優勝3回、3位1回)しており、とにかく見ていて高難度のトリックもミスをする気がしないオーラのようなものを身にまとっている。
とはいえ、彼女はパリオリンピック予選ツアー大会ではいわゆる“新技”は見せていない。パリオリンピックではどんな“新技”を披露してくるのかにも注目だ。
作戦勝負で再び満開に!四十住さくら
2人目は世界ランキング3位、東京オリンピック金メダリストの四十住さくら(よそずみ・さくら)。
スケボー強豪国の日本は、1カ国3人までパリオリンピック出場枠を争う戦いが、パリオリンピック予選の最後まで続いた。
そんな中、今年6月にブダペストで行われたオリンピック予選の最終戦で四十住は、まさかの準決勝敗退を喫し、パリへの黄色信号がともってしまう。
しかし、それを救ったのが彼女の親友、イギリスのスカイ・ブラウンだった。
ブダペスト大会で決勝に進んだスカイはSNSで「ファイナルはさくらのために」とアップすると、最終ランで表彰台入りを確定させる滑りを見せ、その瞬間オリンピックポイントの差で四十住のパリ代表入りが内定した。
他にも去年5月に負った右膝の後十字靭帯の断裂からの復活など、数々のドラマの末にパリオリンピック代表入りを果たしている。
東京オリンピックの時は、空中でグラブをして1回転半まわる大技バックサイド540と、この時に初披露となったオーリー540(グラブをしないで1回転半回る技)という2種類の540を決勝の大舞台で初メイクし、見事に金メダルを獲得。
これらの大技を本番の決勝でいきなり披露し、審査員の度肝を抜いたのは彼女の作戦力とそれを実行できる精神力の賜物と言っていいだろう。
加えて、インタビューでもたびたび「予選や準決勝ではちょうどいい順番で決勝を滑るために調整して滑る」といった旨の話もしており、策士な面も見せる。
彼女にとって新技は、オリンピックに勝つための作戦の一つだ。
22歳ながら出場スケーターの中では2番目に年長者(最年長は23歳、ブラジルのドラ・バレラ)であるベテランは、パリの舞台でどんな“作戦”を披露してくるのか。
爆発力は未知数の鬼姫・草木ひなの
開、四十住と違い、初のオリンピック出場となる、草木ひなの。
彼女がスケートボードを始めたのは2016年11月。そこからわずか4年ほどで日本選手権を制すると、大会3連覇を達成。
すでにパリオリンピック予選ツアー出場権を持っていた開、四十住は出場していなかったとはいえ、3連覇は驚異的だ。
そんな彼女の強さの源は、世界最高峰のエアの高さだ。
本人公認の異名“鬼姫”が見せる“鬼攻めのスケート”が爆発した時、満面の笑顔の鬼姫が表彰台に立っているだろう。
日本の強さの秘密の裏側にあるもの
女子パークの日本での歴史は長いとは言えないが、コンテストシーンで見れば日本は強豪国だ。
オリンピックでは1カ国3人までの出場枠があるため、女子パークだけでなくストリート種目でも世界ランキング上位につけていながら、オリンピックに出場できず涙を流した日本人スケーターが数多くいる。
パリオリンピックへの出場を目指して、高い目標を持った仲間たちと日々、切磋琢磨して予選ツアー大会を戦い抜き、常に己を進化させてきたスケーター達。
日本代表としてパリの地に立つ者たちは、日本代表に落選していった仲間たちの思いも乗せてデッキに乗っているのだろう。
今のパリオリンピック日本代表の強さの秘密の裏には、そんな多くの仲間たちと3枠を争う中で、支え合い、競い合い、励まし合って育んできた強い思いもあるのではないか。
女子パークが開催される8月6日、全てのスケーターたちの努力が形になる。
パリ、コンコルド広場の表彰台には誰が立っていてもおかしくない、日本のスケートシーンならではの歴史と思いがある。
(文:小嶋勝美/スケートボード放送作家)
ニッポン52年ぶり表彰台独占なるか
スケートボード女子パーク 予選・決勝
8月6日(火)よる7時からフジテレビ系にて放送