「総理になったらやりたいことがある」自らこう語るなど、9月の自民党総裁選出馬の可能性がとりざたされている茂木敏充幹事長(68)が、28日から7泊8日の日程で東南アジアのインドネシア・シンガポール・タイ・フィリピンの4カ国を訪問する。

28日からインドネシア・シンガポール・タイ・フィリピンの4カ国を訪問する茂木氏
28日からインドネシア・シンガポール・タイ・フィリピンの4カ国を訪問する茂木氏
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外相や経済再生相としてTPP=環太平洋経済連携協定の交渉や日米貿易交渉のとりまとめで実績を挙げた茂木氏としては、今回の外遊を通じて改めて外交手腕をアピールすることで、ポスト岸田としての存在感を示す狙いもあるのではと指摘されている。

自民党総裁選への出馬を視野に、水面下で慎重に準備を進めている茂木氏だが、総裁選出馬への思いを明かした相手がいる。その人物とは自身の後ろ盾でもある麻生副総裁だ。

総裁選に「挑戦したい」打ち明けた相手は・・・

「ここのところずっと(平成研究会・茂木派は)総裁候補を出していないので、挑戦したいんです」

茂木氏にとって個人的にも親しい麻生氏の存在はとりわけ大きい
茂木氏にとって個人的にも親しい麻生氏の存在はとりわけ大きい

岸田首相がG7サミット出席のため、イタリアを訪問中の6月14日、都内の和食店。ワゴンの上から好きな食材と調理を選ぶスタイルのこの店で、茂木氏は麻生氏と向き合い、生姜焼きを食べながら胸中を明かした。

茂木氏にとって、党内で唯一残っている派閥・麻生派を率い、個人的にも親しい麻生氏の存在はとりわけ大きい。岸田首相、麻生氏、茂木氏の3人で政権の運営する形は、茂木氏の好きな古代ローマの政治になぞらえ「三頭政治」と呼ばれたが、茂木氏にとって麻生氏からの支援は、総裁選に出馬する上でも重要な要素となっている。しかし麻生氏は現時点で茂木氏に総裁選で支援するような言質は与えていないとされ、周囲にも茂木氏の出馬を後押しする姿勢は見せていない。

ドラマ・ラーメン大好き茂木氏の素顔

岸田首相や麻生氏と違い世襲議員ではない茂木氏だが、その経歴は華々しい。東大卒業後、米国ハーバード大学院を修了。世界最大級の外資系コンサルティングファームを経て、1993年に日本新党から出馬し政界入りした。その後、自民党に籍を移すと、政務調査会長や選挙対策委員長といった党の要職、外相、経産相、経済再生相等の閣僚を歴任した。そして2021年には党ナンバー2の「幹事長」にのぼりつめた。

トランプ前大統領「タフネゴシエイター」と言われていた茂木氏
トランプ前大統領「タフネゴシエイター」と言われていた茂木氏

茂木氏の頭の良さは高く評価されているほか、「フォトグラフィックメモリー」という映像記憶能力を持ち、トランプ前大統領に「タフネゴシエイター」と言わせしめたエピソードは外交力を裏付けるものとされている。

茂木氏の素顔はというと、趣味はゴルフやドラマ鑑賞で、昼食はラーメンや牛丼、カレーも好む。

そんな茂木氏にも「隙」はある。朝が弱いのは小学校時代からで、深夜番組『11PM』に夢中になり遅刻することも多々あった。党役員人事の直前には、携帯電話を池に水没させ、慌てて携帯会社に駆け込んだ。忘れ物が多い一面もある。

官茂木氏と接する際の細かな注意点をまとめた「茂木マニュアル」も話題に
官茂木氏と接する際の細かな注意点をまとめた「茂木マニュアル」も話題に

また、「こだわりが多く人間性に難あり(ベテラン議員)」との評も聞かれ、官僚が作成した茂木氏と接する際の細かな注意点をまとめた「茂木マニュアル」も話題となった。

出る?出ない?首相周辺は警戒「総裁選に出るなら辞表を」

その茂木氏だが、6月末に通常国会が閉幕して以降、ある変化が生じている。岸田首相を支えるナンバー2として自身の政策発信などは抑制してきた面もあったが、6月末以降、メディア露出の機会が増えているのだ。その際には「総理になったらやりたい政策」として、「副業の全面解禁」や、「新NISAのバージョンアップ」等を次々と打ち出している。

次期総裁への意欲がにじむ茂木氏に「辞表を突き出すべきだ」と首相周辺は警戒
次期総裁への意欲がにじむ茂木氏に「辞表を突き出すべきだ」と首相周辺は警戒

こうした次期総裁への意欲がにじむような茂木氏の姿勢に、岸田首相の周辺は「腹が立つ」と警戒感を強めた上で、「幹事長なのだから、岸田が出るなら(茂木氏は)出ずに支えきったほうが(首相の)順番は回ってくる。総裁選に出るなら、総理に辞表を突き出すべきだ。辞めないならこちらから辞めてもらう」と語った。

「チーム茂木」からの期待と不安

実際、茂木氏が総裁選に出馬するにあたっては、岸田首相を支えるべき幹事長という立場がネックになっている。

谷垣総裁を支えていた石原伸晃氏が出馬した際「平成の明智光秀」と批判される
谷垣総裁を支えていた石原伸晃氏が出馬した際「平成の明智光秀」と批判される

2012年の総裁選では、当時の谷垣総裁を幹事長として支えていた石原伸晃氏が出馬した際、麻生氏が戦国時代に織田信長を裏切って自害に追い込んだ明智光秀になぞらえ、石原氏を「平成の明智光秀」と批判し、それをきっかけに石原氏は失速し首相の座を逃した。

「明智光秀にはならない」と語る茂木氏
「明智光秀にはならない」と語る茂木氏

今回茂木氏は、「明智光秀にはならない」と語っていて、岸田首相の引き際をじっと待っているように映る。ただ、ある茂木氏周辺は「岸田首相が出ても、茂木氏は出馬するのではないか」とも語っている。

悠長にチャンスを待っている余裕は必ずしもない状況の茂木氏
悠長にチャンスを待っている余裕は必ずしもない状況の茂木氏

実は茂木氏にとって、悠長にチャンスを待っている余裕は必ずしもない状況と言える。茂木氏は、現在68歳。党内には次の首相に「刷新感」や「世代交代」を求める声があがっていて、グループ内からは、「今回挑まなければ、次は70代。世代交代の波にのまれてしまう」(ベテラン議員)との声が上がっているためだ。一方で、茂木派のある若手は「『地元の有権者からは若いリーダーがいい』と言われている」と茂木氏擁立への不安をこぼすなど、悩んでいる議員もいる。

次の自民党総裁の世論調査で石破元幹事長らに大きく水をあけられている茂木氏
次の自民党総裁の世論調査で石破元幹事長らに大きく水をあけられている茂木氏

また、次の首相あるいは次の自民党総裁に誰が相応しいかを尋ねた各世論調査結果では、茂木氏は1%前後にとどまり、石破元幹事長らに大きく水をあけられている。さらに、解散を決定した茂木派内も脱会者が相次ぐなど一枚岩ではなく、他派閥への支持の広がりも見通せない状況で、ポスト岸田の本命というには現時点では遠い状況だ。

茂木氏は「古い常識、時代遅れの制度を壊さないと新しいものは生まれない。チャレンジしなければ新しい時代は来ない」語っている。

世代交代ではなくとも政治家としての力で、新しさや刷新感を打ち出し、トップを掴むことはできるのか。茂木氏が描く日本の未来像に共感する議員・党員の輪が広がるのかどうかに注目が集まっている。

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政治部
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