美味で希少なため”幻のウニ”と呼ばれる天然の「赤ウニ」が近年、激減している。このため海士たちが赤ウニの養殖を始めた。天然物に近いウニの味を目指すため荒波にさらされる玄界灘の外海で養殖に挑戦している。
「甘みがあって奥行きがある」
佐賀・唐津市京町の日本料理店「日本料理かわしま」。この時期の人気メニューの1つが地元で獲れた天然の「赤ウニ」を使ったコース料理だ。
この記事の画像(15枚)バフンウニとムラサキウニしか食べたことがないという北海道出身の客は「めちゃくちゃ甘くておいしい。味が濃い」と舌鼓を打つ。
店主の川島広史さんは、「唐津の赤ウニはすごくうまみと甘みがあって奥行きがある。だから1度食べるとこの赤ウニを使わずにいられない」と食材としての魅力を説明する。
「一度食べると忘れられない」
赤ウニは主に佐賀や長崎の海に生息していて、唐津では6月から9月頃に水揚げされる。
ほとんどが地元で消費され、首都圏までなかなか流通しないことから幻のウニと呼ばれていて、食通のあいだでは「一度食べたら忘れられない」と絶大な人気を誇る。
2023年には、板ウニの状態で約8千枚出荷された。
“天然”の赤ウニが激減
しかし、近年は“天然”の赤ウニが激減しているという。
屋形石漁業協同組合・紅ウニ部会の坂本弘会長は、「天然の赤ウニが、年々、中の身入りが悪くなって、正直なところ天然の赤ウニがもういない。今年はほとんど天然が獲れない状態になってしまった」と厳しい漁の現状を語る。
地元の海士たちが養殖に挑戦
そこで立ち上がったのが、唐津市屋形石の海士たち。8人の海士グループ「紅ウニ部会」が2022年に「赤ウニ」の養殖を始めたのだ。
屋形石漁業協同組合 紅ウニ部会 坂本弘会長:
これじゃだめだということで、養殖してなんとか幻の赤ウニ漁を続けられたらいいんじゃないかと思ってやっています
赤ウニの稚貝を約1年半かけて大きくし、2024年の夏、初の出荷時期を迎えた。
一方で、来季の9月頃に出荷できるように稚貝の育成も始めている。
稚貝をカゴに分けて入れ、海の中へつけておく。そして、餌をやって大きくなるまで育てる。定置網漁の網を利用して海中に約500個のカゴを吊るし、カゴの中で赤ウニを育てる計画だ。
赤ウニが小さいうちはアスパラガスの茎を餌として与える。そして大きくなれば海藻を餌にするという。
収入不安定のため“半農半漁”
この辺りの海士たちは”半農半漁”で、午前中に農業をして、午後から海に潜るという。天気によっては漁に出ることができず、収入が安定しているとは言えないためだ。
アスパラガスを作っている人から廃棄する茎をもらい、赤ウニの餌として活用している。
外海の荒波で天然に近い品質に
波が荒い場所で育ったウニは身が引き締まり、天然のウニに近い品質のものができるという。
「玄界灘では、ものすごく“しける”時があるが、内海よりも外海の荒波で育てる方が良い品物ができると思って試行錯誤しながら頑張っている」と坂本さんは赤ウニ養殖にかける思いを語った。
そして迎えた出荷の時期。出荷に値する出来かどうか、養殖で育てた赤ウニを坂本さんら海士たちが試食した。
養殖の赤ウニは、雑味もなく出来は上々のようだ。「この味なら出荷できる」と海士グループのメンバーは笑顔を見せた。
日本一の「赤ウニ」目指して
日本一の赤ウニを育てようと、日々奮闘する8人の海士たち。そのおいしさを多くの人に知ってほしいと話す。
屋形石漁業協同組合 紅ウニ部会 坂本弘会長:
全国的に有名になって、おいしい赤ウニが食べられることを、この小さな漁村から発信したい
(サガテレビ)