7月、パリ五輪で注目される二人の金メダル候補が、千葉県で一緒に練習を行った。

スケートボード女子パークで東京五輪・金メダリストとなった四十住さくらと銅メダリストで父がイギリス人、母が日本人のスカイブラウンだ。

四十住さくらは2021年の東京五輪で新競技となったスケートボード女子パークで、初代の金メダリストとなり、スカイブラウンは英国史上、最年少のメダリストとなった。

東京五輪・女子パーク表彰台(写真:ゲッティ)
東京五輪・女子パーク表彰台(写真:ゲッティ)
この記事の画像(9枚)

隣同士で表彰台に立ったこの2人は、四十住さくらが6歳年上のお姉さん。しかも小さいころから一緒に練習をして、ともに世界の舞台で戦って来たライバルであり親友でもある。

今回も二人揃ってパリの舞台へ。ライバルを超えた二人の絆を追った。

原点は手作りの練習場

四十住さくらは現在22歳、彼女のルーツは和歌山の田舎の自宅にある。家族の一員、リスザルのうめ吉と、ヤギのやっくんがいる自然豊かな環境だ。

2019年の取材で当時17歳の彼女の部屋を訪ねると、部屋には数え切れないほどのメダルやトロフィーがあり、すでに日本指折りの選手だった。

四十住の部屋にはメダルやトロフィーがずらり
四十住の部屋にはメダルやトロフィーがずらり

部屋の案内をしながら当時の生活を教えてくれた。

さくら:
ほんとに家に帰ってきて、寝て学校行って、練習して寝るだけの部屋ですね。

自宅の前にあったのは手作りの練習場。最初は細いコンクリートでつるしたロープにつかまり坂を下る練習を行ったという。ここが彼女の原点だった。

さくら:
始めた時に日本一になることが夢だったから、練習したら勝てると思っていたので毎日練習を頑張りました。

やがて東京五輪が迫り「夢は日本一から世界一」になった。

もっと練習がしたくて母親の運転で、毎日片道2時間かけて和歌山から神戸の練習場へ。ガソリン代がひと月で17万円かかったこともあった。5時間滑り続けて終わるのは、夜10時。自分と同じ境遇の選手がいる。それがその頃の心の支えだった。

そんな生活を続ける中、直面したのがコロナ禍だ 。

練習場の確保が難しくなった2020年秋、酒造メーカーなど地元の協力でプライベート練習場“さくらパーク”が誕生した。

ここで磨いた大技が、空中で横1回転半(540度)するトリック“540”。東京五輪では金メダルを決める決定打になった。

親友スカイブラウンとの出会い

2人の出会いは、さくら・13歳、スカイ・7歳の時のこと。神戸の練習場で技の対決を通じてお互いに惹かれて大親友になり、同じ境遇と知って友情はさらに深まった。

スカイブラウンは、宮崎県で育ち、さくらと同じく父親の手作りの庭の練習場で技を磨いてきた。さらに2人は地方で育ったという共通点がある。

出会いは、さくら・13歳、スカイ・7歳の頃
出会いは、さくら・13歳、スカイ・7歳の頃

スカイブラウンは、東京五輪を経て急成長をし、世界選手権やパリ五輪の代表選考大会で連勝しイギリス代表としてパリ五輪の切符を先に手中に収めた。

二人はお互いの存在をこう語る。

さくら:
お互いリスペクトしているからこそ、どっちが勝っても負けても喜べる。

スカイブラウン:
一番さくらとスカイはライバルだからもっとうまくなる。

固い友情で結ばれた二人
固い友情で結ばれた二人

さらにお互いの技については

スカイブラウン:
(私は)さくらがやっていることができない。

さくら:
さくらもスカイがやっていること全然できない。

スカイブラウン:
やっていること全然違うもんね。

さくら:
だから仲いいのかもね。同い年の感覚でいます。あと年も離れているのもいいかもね。

スカイブラウン:
全部いい。

パリへの道のりで大きな試練

だが2人にとってパリへの道のりは簡単なものではなかった。時には赤信号がともったこともあった。

四十住さくらは、2023年5月に練習中に転倒し、右膝の靱帯を断裂。精密検査で全治3カ月、後十字靱帯の部分断裂と判明した。パリ五輪への代表選考レースが進む中での出来事だった。

右膝の靱帯を断裂、全治3カ月
右膝の靱帯を断裂、全治3カ月

さくら:
受け止めるのは本当に時間がかかった。こんなに長く滑れないのは初めて。ネガティブとポジティブが回る。オリンピックに間に合わなかったらどうなるのかなとか、技とかちゃんと戻るのかなとか考えます。

代表選考レースに間に合わせることが最大の課題となった。

一方スカイにも2024年4月に試練が起きた。同じく着地での転倒で右膝の靱帯を損傷し、リハビリの日々に。

スカイブラウンも膝の靱帯を損傷
スカイブラウンも膝の靱帯を損傷

2人はメッセージを送り合い、互いを励ましあった。

ライバルを超えた絆

2023年10月、四十住さくらは選考レースに復帰した。ローマ大会で8位に入って代表争いにとどまり勝負は最後の一戦。

選考レース復帰戦で8位に(写真・ゲッティ)
選考レース復帰戦で8位に(写真・ゲッティ)

ブダペストでのパリ五輪予選シリーズ最終戦。

待っていたのは予想外の事態だった。上々の滑りを見せたが1本目81.88、2本目82.17、3本目82.09と得点が伸びず、まさかの準決勝敗退。四十住さくらがパリに行けるかどうかは、くしくも決勝3本目でのスカイブラウンの順位次第となった。

条件はスカイが2位以内に入ることだった。

決勝当日、スカイが自身のSNSで「ファイナルさくらのために頑張る」とつづった。

それを見たさくらは、大会会場へ向かいスカイを見守った。スカイは、会心の滑りで見事2位に入り、四十住さくらは代表の切符を手にした。

最終ブダペスト大会(写真・ゲッティ)
最終ブダペスト大会(写真・ゲッティ)

こうしてパリは2人の舞台となった。レース直後、その想いを聞くと。

さくら:
ケガとかもあって本当に戻って来れるか不安だったし、パリも行けるかっていうのは、最後までわからなくてすごく不安だったけど、この悔しさはパリで勝つための悔しさだと思って、もう一回頑張ります。

スカイブラウン:
さくらとまた一緒に戦えるのがすごく特別で感極まりました。

この五輪予選シリーズ最終戦を終え日本に戻った二人は、仲良くより添いながらこの時の心境を話してくれた。

さくら:
スカイはどんな順位でもオリンピックに行けるのに、さくらの順位をあげるために攻めないといけないから、一回目もこけてケガをしているし、人のために頑張ってくれてることが泣けました。

スカイブラウン:
最終戦で滑ったとき、さくらのためしか考えてなかったから、さくらのパワーが入った。

さくら:
しかも得点が出たとき、自分の順位よりも「さくらー」って言っていたのが感動した。

スカイブラウン:
またオリンピックに行けて一緒の思い出ができるのがうれしかった。

パリ五輪本番の舞台についても聞いてみた。

スカイブラウン:絶対に楽しむ。Enjoy every moment (一瞬一瞬を楽しむ)

さくら:
お互いベストを尽くして、もう一回2人で同じ表彰台に乗りたい。同じ点数にして金メダル2個もらいたいね。

「さくら」と「スカイ」満開の“桜”をパリの“空”に。

スケートボード女子パークは日本時間で8月6日(火)に予選ラウンド。7日(水)に決勝ラウンドが、パリ・コンコルド広場の特設アリーナ・アーバンパークで開催される。

『すぽると!』
7月27日(土)24時35分 
7月28日(日)23時15分
フジテレビ系列で放送中