米中対立で日本も対中輸出規制
米中の間で先端半導体をめぐる覇権競争がエスカレートする中、日本が事実上の対中半導体輸出規制を開始してから今月で1年となる。
日本は昨年7月、14ナノメートル幅以下の先端半導体に必要な製造装置、繊細な回路パターンを基板に記録する露光装置、洗浄・検査に用いる装備など23品目を輸出管理の規制対象に新たに加えた。
この記事の画像(7枚)それから1年が経過するが、これまでの米中それぞれの対日姿勢はどうなっているだろうか。
対日不満を強める中国
まず、昨年7月の事実上の対中輸出規制は、中国側の対日不満を強めている。
日本が輸出規制を開始したとほぼ同時に、中国は半導体の製造に必要な希少金属ガリウム、ゲルマニウム関連の輸出規制を強化し、それらを諸外国に輸出する業者は事前に許可を求め当局に申請することが義務付けられ、違反した場合には罰則が科される。
中国は世界のガリウム生産の約9割、ゲルマニウムの約7割を占め、日本はそれらの多くを中国からの輸入に依存している。
これに関連し、中国共産党系の機関紙「環球時報」は昨年7月、米国とその同盟国は中国による主要材料の輸出制限に込められた警告を十分に認識せよと題する社説を発表したが、日本は事実上、この同盟国に該当している。
また、中国は昨年8月、福島第一原発の処理水放出に伴い、日本産水産物の輸入を全面的に停止した。この措置について、中国側は衛生上の理由に言及しているが、国際原子力機関IAEAなどは安全性に問題なしとしており、事実上、日本による23品目の対中輸出規制に対する対抗措置と捉えられる。
日本の水産加工会社には売り上げの多くを中国に依存してきた企業も少なくなく、今回の輸入停止によってインドネシアやベトナムなど第3国にシフトし、リスク分散化に努める動きが広がっている。
それ以降、中国は大きな経済的威圧を示していないが、先端半導体をめぐる覇権競争がエスカレートする中、中国は日本が米国と共同歩調を取るかどうか、その点を注視している。日中の安定的な貿易関係を望むものの、今後も日本が米国と足並みを揃える措置を講じれば、中国側も貿易面で対日圧力を掛けざるを得ないといった状況だろう。
一方、日本が注意してその動向を追っていくべきは中国だけではない。
対中包囲網を画策するアメリカ
バイデン政権は2022年10月、中国による先端半導体の軍事転用を防止するべく、スーパーコンピューターやAIに使う先端半導体の製造装置などで中国向けの輸出規制を開始した。しかし、それのみでは中国による先端半導体そのものの獲得、製造に必要な必需品や技術の流出を防止できないと判断し、昨年1月、先端半導体の製造装置で高い技術力を誇る日本とオランダに対して足並みを揃えるよう要請した。
上述のように、これによって日本は23品目を輸出管理の規制対象に加えたのだが、米国は今日でも日本やオランダの対中輸出規制は十分ではないと不満を募らせている。
バイデン政権は4月、オランダ政府に対して同国の半導体製造装置大手ASMLによる中国での一部サービスを停止するよう求め、韓国やドイツなどの友好国にも半導体分野での対中輸出規制を加わるよう呼び掛けており、対中輸出規制の包囲網構築を狙っている。
今後、米国が半導体覇権競争をどのように進めていこうとしているかは、全体的な視点から探ればすぐに答えが分かる。
バイデン政権は5月、中国から輸入する180億ドル相当の中国製品に対する関税を引き上げる方針を発表したが、それらは関税が100%となる電気自動車を筆頭に、非先端の半導体、太陽電池や鉄鋼、アルミニウム、注射器や手術用ゴム手袋など医療製品など多岐に渡っている。
要は、先端半導体もその1つであり、米国には先端テクノロジー分野を中心とする中国の成長を防止する、もっと言えば、米国の優位性を保つ、米主導の国際秩序を維持するという政治的思惑が働いている。
要は、米国にとって米中貿易摩擦は貿易摩擦ではなく、貿易摩擦のお面を被った政治紛争なのである。
先端半導体をめぐる覇権競争において、米国は今後も安全保障上の理由を日本に対して強調するなどし、対中輸出規制での協力を呼び掛けてくるだろう。協力というよりは圧力といった方が適しているかも知れないが、米国の保護主義的、攻撃的な中国への姿勢はいっそう強まり、日本としては米中の狭間で難しい立場にある。
【執筆:株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO 和田大樹】