福岡県民に馴染みのある『資さんうどん』で使われている丼や湯飲みを作り続けてきた福岡・東峰村の小野窯元。
2023年7月の大雨で工房が土砂崩れで埋もれてしまった。大雨被害から1年。工房再建のスタートラインにたった小野窯元を取材した。

『資さんうどん』の丼を作る小野窯元

福岡・東峰村の小石原焼窯元・小野窯元の小野政司さん(61)が、販売店舗で見せてくれたのは、“資”の字が記されている丼。

この記事の画像(12枚)

北九州市民をはじめ、福岡県民にはなじみのある『資さんうどん』の丼だ。自身の代表的な仕事の1つで、小野窯元では、25年ほど前から資さんうどんの丼や皿、湯飲みなどを作ってきた。

この“資”の字は、小野さんの妻の妙子さんが一つ一つ手書きしたもの。「資さんうどんファンの方もたくさん来ていただいて、『あぁ手書きなんですね』ってびっくりされたり、『あれで食べるとやっぱりおいしいよ』ってことを言っていただける」と妻の妙子さんは話す。

しかし、「今は資さんに納められる状態でもないし、作れる状態でもない」と肩を落として小野さんは話す。

土砂崩れで工房や調合ノートが埋もれる

小野さんは、販売店舗から4kmほど離れた長い総2階建ての工房に案内してくれた。そこには、赤茶けた泥の山があった。

2023年7月、九州北部に甚大な被害をもたらした大雨。福岡県内では5人が死亡した。小野さんの工房は、裏山が約100メートルに渡って崩れ全壊。土砂が流れ込み、窯や60年以上受け継がれてきた釉薬の調合ノートなど、陶器を作るために必要なものが全て失われてしまったのだ。

「正直なところ絶句ですね。何も言葉はなかった。現実問題として「再建できるのかなぁ」というのが頭をよぎりましたね」と小野さんは1年前を振り返る。

工房の再建には莫大な資金がかかる。災害後に創設された県の補助金制度を使うことを考えたが、危険地域に指定されていた場合、同じ場所には建てられない。小野さんの工房は、土砂災害の特別警戒区域に入っていたため補助金がおりず、断念せざるを得なかったのだ。

クラファンで工房の再建目指す

今、小野さんは、別の窯元の工房や道具を借りて何とか陶器を作り続けている。手を差し伸べたのは、同じ小石原焼の窯元・福嶋製陶の福嶋秀作さん。小野さんの1つ年下の幼なじみだ。

「いやぁ本当、ありがたいよね。全部、土砂に飲まれて何もない状態やからですね。工場がなくなるっちゅうことは、生活するためのお金を生み出すところがなくなるっちゅうことだから」と話す小野さん。福嶋さんは「まあ叱咤(しった)激励の意味も込めてですよね。なんか落ち込むばかりじゃないで、そこにちょっとした光でも見つけてくれたらと思って」と小野さんを支える。

小野さんは、福嶋さんの仕事を手伝いながら自らの作品も作り続けているが、生産量は被災前の1割ほどにとどまっているのが現状だ。

「まぁ自分の、小さくていいから工房は欲しいっちゅうのは、正直な気持ちですね。やっぱり」と土砂災害から1年、小野さんは工房再建へ動き始めた。

今の販売店舗を壊して、新しく工房を建てるというのだ。販売店舗がある場所は土砂災害警戒区域に入っていないため再建が可能となる。工房を建て直すために必要な資金は4000万円ほど。そこで小野さんは、2024年6月からクラウドファンディングを立ち上げた。不足分は、県の補助金や自己資金で賄う予定だ。

小野さんによると、寄付をしてくれた人には『資さんうどん』に納めていた丼や湯飲みを返礼品として贈ることにしているという。「“資”の字は入らないんですけども、資さんと同じ器を返礼品にしております」と話してくれた。

大雨被害から1年。ようやく再建へのスタートラインに立った小野さん。「応援していただいた方に応えるためには、やはり再建をして小石原焼を作り続ける。これが一番じゃないかなと思います」といま決意を新たにしている。

(テレビ西日本)

テレビ西日本
テレビ西日本

山口・福岡の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。