2024年4月にデビューしたJR西日本の特急列車・やくもの新型車両。デビューから約3カ月、約40年ぶりにフルリニューアルされた新型車両。スピードはそのままに、乗り心地の大幅改善につながった最新のメカニズムを取材した。
連続カーブを自然振り子方式で時間短縮
山陰と岡山を結ぶJR西日本の特急・やくも。

2024年6月14日、これまで約40年にわたって活躍してきた381系電車が定期列車として運行されるのはこの日が最後。ラストランを迎えた。伯備線や山陰線の沿線や駅のホームでは、鉄道ファンなどが最後の姿を見届けた。

「最後の国鉄型特急電車」とも呼ばれた381系が山陰に登場したのは1982年。日本で初めての『自然振り子方式』の車両で、カーブが連続する中国山地の難所を、車体を傾け速度を落とさず通過することができ、岡山―出雲市間の所要時間を20分短縮した。
運行初日、インタビューに答えた乗客は「喜んで乗りました。速いからね」、「快適でしたね。車内もなかなかいいようですよ」と話し、当時の“歓迎ムード”が伝わってくる。

381系・やくもは、その後も、山陰と山陽を結ぶ看板列車としてリニューアルを重ねながら、42年間走り続けてきた。

その381系からバトンを受けたのが、2024年4月にデビューした新型の273系電車。約40年ぶりのフルリニューアルだ。273系は、山陰に根付く伝統や文化を象徴する“やくもブロンズ”をまとい、緑豊かな山陰の風景にも映えるデザインに一新されたが、変わったのは見た目だけではない。
“酔いやすい”やくも 乗り心地向上
新型車両が目指したのは振り子式車両の最大のウイークポイント、“乗り心地”の改善だ。そのために、JRは車上型の制御付き自然振子方式と呼ばれるメカニズムを新たに開発、乗り物酔いの評価指数を最大23%軽減することができた。

これまでの『自然振り子方式』は、遠心力の働きで車体を傾けるため、カーブを通過するタイミングと車体が傾くタイミングにわずかな時間差が発生し、これが乗り物酔いの原因だとされている。乗り心地の改善を図るため、JRはこの方式を改良、線路内の設備を利用して列車の位置を把握し、さしかかるカーブの形に合わせて傾きを制御する新方式『制御付き自然振り子方式』が開発された。

さらに、新型やくも273系では、列車のデータベースに登録された線路の情報と、列車に搭載されたセンサーで得た傾きや速度などの情報を照合することで、走行地点を正確に割り出し、より適切なタイミングで車体を傾けることができる最新の制御方式『車上型の制御付自然振り子方式』を新たに開発した。

JR西日本 後藤総合車両所出雲支所・三宮大輝さん:
車両にセンサーがあって、今、自分(列車)がどこの曲線を走っているのかを、車両側で持っているマップと常に照合することによって、かなりこまめに地点検知ができるようになった。ベストなタイミングで車体を傾斜させることで、乗り心地がこれまでより向上する。
新たな歴史を刻む特急「やくも」
一方、“ぐったりやくも”とも揶揄(やゆ)された乗り心地が大きく改善された新型車両、車内も進化した。

「我が家のようにくつろげる、ぬくもりのある車内」をコンセプトに、普通席は緑を、またグリーン車はオレンジを基調に、LEDの間接照明で明るく、落ち着いた雰囲気を演出。座席間隔も新幹線並みで、西日本の在来線では最大級の広さになった。

床もフラットでバリアフリー化したほか、Wi-Fiや全席にコンセントを完備するなど快適性が大きく向上した。

車両整備を受け持つJR西日本後藤総合車両所出雲支所の加藤孝信さんは「4月6日のデビュー後、何か不具合があったとき、すぐ対応できるようにということで、実際に私も乗りました。車内を歩いてみたとき、お客様の笑顔がすごく素敵だなと思って、自分自身もうれしく思った」と話し、新型車両の順調な滑り出しに安心した表情を見せた。

見た目も中身も新しくなった特急「やくも」。
全ての列車が新型273系に置き換わり、山陰と山陽を結ぶ看板列車として、新たな歴史を刻み始めている。
(TSKさんいん中央テレビ)