食の雑誌「dancyu」の編集部長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。 

植野さんが紹介するのは「トマトソースパスタ」。

東京・神泉にあるイタリアン「オルランド」を訪れ、イタリア料理の基本中の基本、シンプルでありながら計算しつくした一品を紹介。

野菜の旨味をぎゅっと濃縮した究極のトマトソースも伝授する。

かつては泉が湧いた地、神泉

「オルランド」があるのは、東京目黒区、神泉駅。

「神泉というのは渋谷エリアですが、そもそも昔は泉が湧いたと言われていて、そこから神泉と名が付きましたそうです。路地が色々ありまして、この辺の通りには新しいカフェとかビストロとか素敵なお店が立ち並んでいます」と植野さん。

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神泉で33年続く、自家焙煎の珈琲豆専門店ニュークロップ。

約20種類の豆を取り揃え、コーヒー好きが足繁く通うお店だ。植野さんは「神泉も駅と違って、交差点の反対側は完全な住宅街です。この住宅街の中に、今日目指すお店があります」と歩を進める。

肩ひじ張らないイタリアン

神泉駅から徒歩10分、駅から少し離れた住宅街の立地ながら、肩ひじ張らないイタリアンを求め、日々客が訪れるのが「オルランド」。

一昨年改装した店内は、シェフを囲むように作られた変形カウンターのワンオペ仕様。

居心地のいい雰囲気と素材の味わいを最大限に引き出すシェフの技を目の前に、イタリア料理を堪能できる店だ。

オーナーシェフ・小串貴昌さんは、過去に植野食堂で放送した「おうちキャンプ飯」で、手軽にできるキャンプ飯を教えてくれたシェフのひとりでもある。

買い出し、調理など1人で切り盛り

20歳からイタリアンレストランのホールスタッフとして働いていた小串さん。

23歳の頃、サービスの修業のため、1年イタリアへ渡る。イタリア修業をきっかけに、料理人の道を歩み始め、帰国後も有名店で腕を磨き、2014年に「オルランド」を開店する。

現在は買い出しに調理、サービスと店の全てを1人で切り盛りしている。

植野さんの「前は市場とかに買い付けていましたけど、今は三浦とかに行っているじゃないですか。なぜですか?」という疑問に、小串さんは「不便な中から知恵を絞って物事を作り出すとすごく美味しいものを作れる気がする。そこを考えることが料理人として楽しい」と答えた。

今回、小串さんの買い出しへ同行させてもらうことに。

まず訪れたのは、横須賀市にある長井水産直売センター。三浦半島を中心に水揚げされたばかりの新鮮な魚介類を産地価格で販売している。

この日はあいにくのしけで魚の種類は少なめだった。

しかし、そんな中でもアジやサワラ、イカなどを購入。買い出しで大切にしていることを聞くと「鮮度が良ければ、旬を超えていようが気にしないです。加工の仕方によっては旬の時期より美味しかったりする」と小串さん。

特別な魚ではなく鮮度の良い魚を求め、いかにおいしい一皿に仕上げるかを小串さんは追求している。

続いて、向かったのは「平敏丸しらす直売所」。

鮮度の良さで、地元でも評判の平敏丸のしらすで、小串さんも船長・平野さんが作る出来立ての釜揚げしらすに衝撃を受けて、虜になったという。

小串さんは生産者と会話することで、素材が持つ特徴を知っていくのだそう。

そして、平野さんの釜揚げしらすは「フリッタータ」に仕上げた。

料理をはじめたきっかけは母親の死

移動中の車内で、小串さんの料理の原点となるこんな話も。

「母親が小学校から中学校へあがる時に亡くなって、本当に家でずっと1人で。だから料理を作るようになったんですよ」と小串さん。

中学生の頃からお腹が空けばフレンチトーストや卵焼きを作り、さらには、ケーキまで焼いていたという。

そのきっかけは、身近な人の料理を作る姿。

母親が亡くなった直後、親戚の人たちが毎日料理を作りに来てくれていたが、小串少年は「お母さんの味じゃなきゃ嫌だ!」と、父・和臣さんに直談判。

当時、40代の働き盛りだった和臣さんだが、「わかった。俺は、出世を諦めた!」と毎日夜6時に帰宅し、食事を欠かさず作ってくれるようになったという。

「ほとんどルールはなかったんですけど、8時には絶対家に居ろ!と言われて飯を作ってくれました。チャーハンが一番おいしかったです。死ぬ前に食べたいのはお父さんのチャーハン」と小串さん。

本日のお目当て、オルランドの「トマトソースパスタ」。

一口食べた植野さんは「これはスゴイですね、生のトマトかじってるくらいフレッシュ」と感動していた。 

オルランド「トマトソースパスタ」のレシピを紹介する。