食の雑誌「dancyu」の編集部長・植野広生さんが求め続ける、ずっと食べ続けたい“日本一ふつうで美味しい”レシピ。

植野さんが紹介するのは「ガパオライス」。

神泉のタイ料理店「タイ東北モーラム酒店」を訪れ、タイ人のベテランシェフから本場の味を学び、手軽に作ることができるタイの郷土料理を紹介する。

タイの小さな酒場にいる気分に

今回は、世界のふつうで美味しいを探求するため、番組初、本場のタイ料理を学んでいく。

店があるのは、渋谷駅の隣、神泉。人によっては“渋谷の奥座敷”とも呼ぶ街だ。

神泉町と隣の円山町は明治から昭和にかけ花街として発展。昔ながらの風情のある店がある一方、新しい店も増えてきた。

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その神泉にある「タイ東北モーラム酒店」の店内は、タイ東北部の伝統音楽「モーラム」が流れている。まるでタイの小さな酒場にいるかのような気分が味わえる。

あえて日本風にアレンジしない

料理はタイ東北部イサーン地方の田舎料理が中心。スパイスやハーブを使い、辛味が強いのが特徴だ。

シェフのナイさんは「自分の出身地、イサーン地方の田舎料理を食べてほしい」という思いから、あえて日本風にアレンジせずに提供しているという。

まずはイサーン料理の代表格、ソムタムをいただいてみることに。

作り置きはせず、注文を受けてから唐辛子を潰し、細く切った生の青パパイヤを叩き、合わせて完成したのが、青パパイヤのサラダ、ソムタム。

「たしかに辛い。辛いけどこの辛みに色んな旨味が混ざっている」と植野さん。

続いても、イサーン料理の定番、豚ラープ。

ひき肉を、煎った米粉と炒め、ハーブやレモンであえた家庭料理だ。

植野さんは「スパイスとかハーブとかいろいろな香りと重なって奥深い旨味になっている」と料理を味わった。

タイ料理に魅了された日本人との出会い

タイ東北モーラム酒店を作ったのは、オーナーの丸山勝己さんだ。

アジアの国々に魅了され、旅をしていた丸山さんはタイを訪れた際に、イサーン地方の素朴で力強い料理の美味しさに衝撃を受けた。

その味が忘れられず、日本に帰国後もいろいろなタイ料理店を食べ歩く。

しかしタイで食べたあの味に出会えず、「ないなら自分で店を作るか!」と思い至った丸山さんは、本場の味を提供し、田舎町の酒場のように気軽に立ち寄れるお店にしようと、2018年に「タイ東北モーラム酒店」を開店した。

タイのイサーン地方で生まれ育ったナイさんは、1990年、友人に誘われて留学生として来日。次第に日本文化に惹かれ日本が大好きになっていった。

タイへ帰国後、いつかもう一度日本へ行きたいと思いつつも、地元イサーン地方で結婚し、娘も誕生。それからは料理人として働いていた。

そんなとき、腕利き料理人を探していた丸山さんから、知り合いを通じて声がかかった。

ナイさんは「日本の人たちにイサーンの料理を食べてもらいたいんだ」と妻に相談。

すると、「離れて暮らすのは辛いけど、自分の好きなことをやって」と妻から背中を押されたという。

そして2018年、約20年ぶりに日本へ。あえてアレンジはせず、現地の美味しさをそのまま提供している。

植野さんが「日本に来てこの店で一番楽しいことは何ですか?」と尋ねると、「料理を作ることが一番楽しい」とはにかむナイさん。

日本語も上達し、日本での生活は楽しいというナイさんだが、一つだけ気掛かりがあるという。

それは、タイにいる家族のことだった。「タイにいますね、ここ数年タイに帰るのは年に1回だけ、でも今年の8月に娘が日本に来る予定だから楽しみ」とナイさんは話す。

娘の成長をそばで見守れないのがナイさん唯一の気掛かりだが、将来はタイに戻り家族と過ごしたいという。

そして本日のお目当て、タイ東北モーラム酒店の「ガパオライス」。

一口食べた植野さんは「シンプルだけど、肉のうまさと香りと辛みが一体化している」と絶賛。日本では、全部混ぜてから食べる人が多いが、タイでは、ご飯と具は混ぜずに食べるのが一般的だそう。 

モーラム酒店「ガパオライス」のレシピを紹介する。