先場所に続いて、またしても大相撲の歴史が大きく動いた。
尊富士が、実に110年ぶりとなる新入幕優勝という快挙を成し遂げてから2ヶ月。令和6年の大相撲夏場所でも、とてつもない大記録が生まれた。
所要わずか7場所での幕内最高優勝という大相撲史上最速の記録を打ち立てたのは、23歳の新鋭・大の里だ。
この記事の画像(6枚)今後、塗り替えることが不可能かと思える大偉業を成し遂げた大の里。その裏側には、場所中の苦しい時期にかけられた、師匠・二所ノ関親方からの「ある言葉」があった。
輝かしいアマチュアキャリア
大の里は、石川県出身の23歳(夏場所当時)。小学1年から相撲を始め、高校は強豪である新潟県立海洋高校の相撲部に所属。大学は日本体育大学に進むと、ここで才能が開花する。
大学1年の時に早くも全国学生相撲選手権で優勝を果たし学生横綱となると、3年の時には全日本相撲選手権を制してアマチュア横綱のタイトルも獲得。4年の時には国体2連覇、2年連続アマチュア横綱など、数々のタイトルを獲得してきた。
そんな輝かしいキャリアを築いた大の里が入門したのが、第72代横綱・稀勢の里が新設して1年半足らずの二所ノ関部屋だった。
アマチュアで圧倒的な実績を持つ大器と最後の日本人横綱のタッグに、相撲ファンの期待は大きく高まっていた。
令和5年の大阪場所で幕下十枚目格付出デビューを飾ると、順調に番付を駆け上がり、秋場所で新十両、九州場所では惜しくも優勝決定戦で敗れたものの12勝をあげ、初場所での新入幕を果たした。
幕内入りしてもその勢いは衰えず、初場所でいきなり11勝を挙げて敢闘賞を獲得。大阪場所では、尊富士に優勝は譲ったものの11勝を挙げて千秋楽まで優勝を争い、敢闘賞と技能賞をダブル受賞。夏場所では、早くも新三役である小結に昇進することが決まった。
初日の横綱撃破で勢いに乗る
新小結として迎えた夏場所。初日の相手はいきなりの横綱・照ノ富士だった。
大の里:
巡業の時から、「西の小結は横綱と当たる」という話を聞いていたので、「予想通りだな」というのもありましたし、初場所で1度対戦もしていますので、横綱の大きさ、強さもわかっていました。その中で挑んで勝てたことが、本当に大きかった。
大の里の話すとおり、横綱相手に立合いから果敢に攻めると、照ノ富士が無理に投げにでたところを見逃さず、すくい投げで勝利。初の横綱撃破を果たした。
勢いに乗る大の里は、5日目に霧島、6日目に琴櫻の2大関を撃破。10日目には勝ち越しを決めて、優勝争いもトップを走るなど、初優勝への期待は大きく高まっていた。
しかし、11日目の大関・豊昇龍戦。2場所連続投げで敗れている相手に、今場所も投げられて痛恨の3敗目。優勝争いも2敗の湘南乃海にトップを明け渡すこととなった。
星数もそうだが、同じ相手に3回連続同じ負け方をするなど、内容も良くない敗戦。一気に崩れてしまってもおかしくない厳しい状況。ここで大の里に声をかけたのが、二所ノ関親方だった。
二所ノ関親方「優勝なんてまさか考えてないだろうな」
二所ノ関親方:
同じ相手に同じ技で3回連続負けてしまったということで、流れを一気に持っていかれる、ガッと落ちてくるところなんですけど、そこで「優勝なんてまさか考えてないだろうな」と大の里に言いました。
「3敗した時点で優勝はないと思えよ」、「3敗の優勝は優勝じゃないぞ」と鼓舞する意味も込めて厳しい言葉を使いました。
その言葉を受けた大の里は。
大の里:
3敗目を喫してから厳しい言葉を言われて、自分自身も落ち込んでいた部分もあったんですけど、まだ本場所は終わっていないのでしっかり頑張ろうと思いました。
優勝したい気持ちがあったんですけど、3敗してから「優勝はないな」と自分自身に言い聞かせていましたし、目標を変えて来場所につなげるように1つでも多く勝ちたいと思って土俵に向かいました。
親方の叱咤激励を受け、優勝のプレッシャーから解放された大の里は、12日目以降は負けなし。千秋楽も優勝を争う阿炎との直接対決を制し、所要わずか7場所での幕内最高優勝という快挙を達成。親方の言葉が、大記録のキーポイントとなった。
見据えるのは初優勝のその先
史上最速優勝はもちろん、部屋から初めての優勝力士の誕生とあって、さぞかし親方も喜んでいると思いきや、愛弟子への厳しい注文が次々と出てきた。
二所ノ関親方:
個人的には3敗での優勝は優勝じゃないと思っています。次の優勝というのは13勝2敗以上の優勝、高いレベルでの優勝を目標にしていかなければいけない。そのためには、とにかく体づくり、怪我をしないこと。
まだ入門して1年ですから、まだ関取で1年戦っていない。しっかりと1年6場所を戦い抜ける体づくりが必要。大相撲は6場所戦い抜いて、常に上位の地位に居続けることが大事。1場所抜けてしまえば、これまでの活躍も白紙になってしまいますから。
それは僕も苦い経験をたくさんしているので。白紙になった瞬間、記者・カメラマンがみんないなくなりましたからね。ドライですから、この世界は。
現役時代、幾度となく優勝を逃し(準優勝12回)、その度に相撲界の無情を感じてきた二所ノ関親方。実に深い言葉である。
先場所の尊富士に続き、今場所の大の里も大銀杏の結えない「くわい頭」の優勝力士が連続で誕生するなど、若手の台頭により急速に世代交代の波が押し寄せてきた大相撲界。
新時代が近づくうねりの中で、果たして抜け出すのか誰なのか。その中心にいるのが、二所ノ関親方と大の里の「最強タッグ」であることは間違いないだろう。
『すぽると!』
6月15日(土) 24時35分
6月16日(日) 23時45分
フジテレビ系列で放送中