早春の“河津桜まつり”で有名な静岡県河津町。この桜の街で中学校の跡地の桜の木が伐採され、住民の怒りが噴出した。事業者が新たな出店のために伐採し、町も了承していたという。街のシンボルの伐採をなぜ役場が止められなかったのだろうか。
町のシンボル・河津桜を伐採

伊豆にいち早く春の訪れを告げる「河津桜まつり」。2024年も期間中に約62万人の花見客が訪れ、美しい河津桜を堪能した。

ところが、この町の学校跡地にある桜が突如として伐採された。伐採されたのは樹齢 約30年の河津桜9本。なぜ町のシンボルでもある河津桜が伐採されてしまったのか。
河津町の岸重宏 町長は「どうしても工事をやる上で支障があって(河津桜を)残すことは難しいということだったので」と、伐採することを担当部署から事前に伝えられていたという。

伐採された河津桜は閉校した中学校に植えられていた。
町は民間企業と契約し、この中学校の跡地ではドラッグストアの建設が進められている。
町は了解…住民は知らされず

伐採した理由は「桜の木が敷地外の歩道に倒れるおそれがあり、歩行者の安全を優先したため」とのことで、事業者は町に事前に伝え、町も了承していたそうだ。

しかし、こうした経緯を町から知らされていなかった住民からは「なぜ切ったのか」と怒りが噴出。中学校の跡地には樹齢が約70年のソメイヨシノもあり、住民は2024年4月、「これ以上伐採しないで欲しい」と1490人分の署名を集め町に提出した。

河津桜守人の会・森田光衛 会長は「先人たちが植えた時の気持ちをどこまで伝えていけるか。そういうことが桜の町で示す原点だと思う」とした上で、「やっぱり河津町は桜だよ。このことは全(町民)6200人の心に置かれることを願っている」と話した。
これに対して河津町・岸重宏 町長は「事業者が新たに(河津桜を)植栽するということだったので伐採を認めた。苗木は既に用意してあるという話を聞いている。その辺がうまく皆さんに伝わってなかったのは残念」と述べている。

残されたソメイヨシノは樹齢 約70年で傷みが出てきていることに加え、根が弱っている可能性もあり、倒木も懸念されている。
説明会では住民の桜への思いが…

こうした中、町と事業者による地元の住民への説明会が4月に開かれた。事業者が「皆様にどのようなお店になるのか、どのような整備がされるのかというところがお伝えできていないということを聞いたのでこの場を借りてお伝えできれば」と開催の主旨を伝え、説明会がスタートした。

一方、参加した住民からは「河津町は桜に育ててもらった町。桜のおかげで町が潤ってきた。それを役場の人が止めもしないで、簡単に河津桜を切るというのは河津町役場のおごりだと思う」「地元がどれだけ河津桜に思い入れがあるかわかってもらいたい。その上で設計を考えてもらいたいと思うが、そういうこと(説明)をしないので地元と離れてしまう」といった厳しい意見が出された。

これに対し、業者は新たな河津桜を敷地内に植栽することを約束し、それを前提に町の了承を得て伐採していたことを説明。
住民も経緯を知り納得

伐採が予定されているソメイヨシノは小学校の通学路にもなっている場所にある。
倒木が心配される中、2024年4月に京都市では樹齢100年を超える桜の木が倒れ、観光客がケガをする事故が起きた。こうしたこともあり、事業者からの説明を聞いた住民はソメイヨシノの伐採もやむをえないと納得した様子を見せる。

地元住民:
切ってしまったものはしょうがない。あとはどのように事業者が道路沿いに植栽していただけるか。(ソメイヨシノも)確かに古木で80年くらい経っており見事に見えるけれど、よく見るともろくなっている部分や枝が落ちている部分があって、もしその下に子供たちがいれば危ない。木をそのままに維持管理をするということは非常に大変なことになると思います

住民への不十分な説明で起きてしまった今回の騒動。
中学校で子供たちの成長を長年見守ってきた桜の木は、町のシンボルとして地域の人の心に深く根を張っていたようだ。
ソメイヨシノの伐採は2024年6月にも行われる見通しとなっている。
(テレビ静岡)