5月31日、「改正マイナンバー法」が参議院本会議で可決、成立した。これにより、スマートフォンでマイナンバーカードの機能すべてが担えるようになる。また2026年度から導入予定の新しいマイナンバーカードから、性別の表記が削除されることなどが決まった。
マイナンバーカード関連の様々な制度づくりは、急ピッチで進んでいるように感じられる。健康保険証の一本化もそうだし、図書館や避難所の入退場確認を暗証番号不要の「かざし利用」にするとか、我々の生活にぐいぐい入り込んできている。
このままだと、マイナンバーカードを持ち歩く機会が増えそうだ。しかしそもそも、マイナンバーカードの裏面に記載されている「12桁のマイナンバー」って、人に知られてはいけないものではなかったのか。これ、矛盾していないだろうか?
IDや個人情報に詳しい情報学の専門家で、マイナンバー制度やマイナンバーカードにも精通する佐藤一郎・国立情報学研究所教授に詳しく聞いた。
■「マイナンバー」と「マイナンバーカード」は別物
この記事の画像(5枚)佐藤一郎教授: 「マイナンバー(12桁の番号)」と「マイナンバーカード」は別物です。実際の利用において、唯一の関連性は「カードの裏面にマイナンバーが記載してあること」だけ。現状、「マイナンバーカード」を、写真付き身分証明書の利用や電子的な身分証明に使うときに、マイナンバーは関係ありません。
また、「マイナンバー」を利用する時に、マイナンバーカードを見せることがありますが、それはマイナンバーの記載ミスがないかの確認のためにすぎません。従って、「正しいマイナンバーが記載されたもの(後述する「通知カード」など)」であれば、それが「マイナンバーカード」である必要は本来はないのです。
「マイナンバー」とは、日本国内に住民票がある人、全員に付与される12桁の番号です。社会保障制度、税制、災害対策など、法令または条例で定められた事務手続きにおいてのみ、使用されるものです。制度が始まった当初、紙製の「通知カード」が送られてきたと思います。
それに対して「マイナンバーカード」は、顔写真付き身分証明証、かつ電子的な身分証明書です。マイナンバーカードはICチップと暗証番号によって本人確認を行いますが、その時に12桁のマイナンバーは、直接的な関係はありません。
■マイナンバーは財務省、マイナカードは総務省
佐藤一郎教授: マイナンバーカードは、「住民基本台帳カード(以下、住基カード)」の後継としてスタートしました。電子証明書としては、多額の税金を投じた「住基カード」をそのまま使っても良かったはずですが、普及が進まなかったので、マイナンバーカードに置き換えました。
しかし、利用率の低さといった住基カードの問題を総括しないまま、マイナンバーカードを始めてしまったので、こちらも普及が進みませんでした。
そもそも、住基カードをやめて、マイナンバーカードに切り替えた理由も説明されていません。「住基カードにこういう問題があったから、止めて、マイナンバーカードを作りました」ということを言わずに、いろんなものをうやむやにして始めてしまったといえます。
当初は、マイナンバーの制度づくりは税務的な理由で財務省が主導し、マイナンバーカードは、住基カードの後継として総務省が主導しました。このことからも、両者は方向性が違うことが分かります。
マイナンバーを日本に住民票がある人全員に割り当てて、それを使ってもらうために、カードの裏面に書いておけば、何かあった時に使ってもらえるでしょう、番号を覚えてもらえるでしょう…ということで記載をしたと推測されますが、結果的には、裏面にマイナンバーを書いてあるために、マイナンバーカードが非常に使いにくいものとなってしまいました。その使いにくくなったマイナンバーカードの普及のため、マイナポイントで多額の税金を使ったことを考えると、マイナンバーを記載したカードを別に作って対象者全員に配り、マイナンバーカードにはマイナンバーの記載をせずに利便性を高めた方がよかったといえます。
■マイナンバーは知られてはいけないものなのか?
佐藤一郎教授: 今のところ、マイナンバーの使用用途は、行政や保険組合、病院などに限定されていますので、他人に12桁の番号を見られても、すぐに被害に遭うわけではありません。それはマイナンバーが公的な範囲でしか使われてこなかったからです。
しかし今後、マイナンバーが民間の事業者にも利用が広がり、いくつもの事業者がそれぞれの利用者情報をマイナンバーを使って名寄せするようになってしまうと、何かしらの不利益が出る可能性はあります。というのは、マイナンバーは各個人がひとつだけ持つ正確な番号ですから、そのマイナンバーを使えば、異なる事業者がもつ個人に関する情報を容易かつ確実に名寄せができます。つまり同じ個人の情報として分かるのです。
異なる事業者がもつ個人に関する情報が連結されて、想定を超えるような詳細な情報が作られることも考えられます。例えば、銀行などの信用情報と薬局の購買履歴がマイナンバーによって同じ人物に関する情報と分かれば、銀行が本来知らないはずの病歴を理由に融資を断るかもしれません。
このため、マイナンバーの民間開放は慎重であるべきでしょう。 マイナンバー(12桁の番号)が記載されているマイナンバーカードの裏面のコピーは、法律で厳しく規制されています。そこまで慎重に扱うことが必要なのが、マイナンバーなのです。
■マイナンバーカードから12桁番号の記載を外して、名称も変えようという議論もある…
佐藤一郎教授: 政府は、マイナンバーカードの普及のために2兆円を超える税金を使いましたが、ポイントを配るよりも、マイナンバーのみを記載したカードを作って配るべきだったと思います。
というのは、多機能がよいとは限らないからです。「マイナンバーだけのカード」と「身分証としてのマイナンバーカード」に分けた方が、もう少しマイナンバーカードの使い勝手が良くなったと思います。
今のところ、2026年度からの新しいマイナンバーカードには、マイナンバーが記載されるそうですが、次世代マイナンバーカードでは「マイナンバー」という名称を取って、違う名前に変えようという議論も出ています マイナンバーもマイナンバーカードも(とりわけマイナンバーカードは)、かなり問題は多くありますが、それをいかに軌道修正して良くするか、国民の理解が得られる制度にするかということだと思います。 (佐藤一郎教授)
「マイナンバーカード」の機能によって、生活は便利になるだろう。しかし、多くの人が心配に思う点がいくつもあるのも事実だ。政府には、利用者や専門家の意見を丁寧に聞きながらシステムづくりを進めるよう求めたい。
(関西テレビ 2024年6月8日)