兵庫県政をめぐって、今なお続くSNSでの誹謗中傷。そのきっかけになっているのが、「犬笛(いぬぶえ)」と呼ばれる投稿です。

「犬笛」とは、“犬にしか聞こえない”音を出す笛のことで、SNS上では今、「特定の人や団体に抗議を呼びかける」投稿のことを言います。

抗議の標的にされたのは、「斎藤知事への批判」を発信していた元落語家。

なぜ、“犬笛”を吹くのか、newsランナーでは犬笛”を吹いた人物を取材。誹謗中傷が無くならないワケが見えてきました。

■SNSで「斎藤知事を批判する投稿」落語家の芸名を返上した男性

【観客】「おっさーん」
【元・月亭太遊さん】「誰がおっさんや、ええかげんにせえよ」

観客の前で落語を披露するのは芸人の「ひょうきんなおっさん」

かつては落語家「月亭太遊」として活動していましたが、ことし3月、“ある理由”で芸名を返上しました。

【元・月亭太遊さん】「本当に(他の落語家に)迷惑かけたくないっていう一心ですよね」

きっかけは自身のSNSで斎藤知事を批判する投稿をしたことでした。

それらの投稿が斎藤知事を支持する人たちの目にとまり、太遊さんを標的にし抗議を呼びかける投稿がSNS上で拡散されたのです。

【Xの投稿】「月亭太遊も連日、Xにて誹謗中傷に勤しんでおられます お問い合わせはこちら」

「問い合わせ先」として書かれていたのは太遊さんがエージェント契約をしていた吉本興業や所属する上方落語協会の電話番号でした。

【元・月亭太遊さん】「月亭っていう名前のつく人のところに批判がきだして。会ったこともない人間に嫌がらせとか誹謗中傷みたいなものをぶつけてくる。何日たってもそれが収まらへんどころか燃え広がっている」

■SNSで同じ考え持つ人を扇動し抗議呼びかける「犬笛」

SNSで同じ考えを持つ人を扇動し、特定の人や団体への抗議を呼びかける行為は「犬笛」と呼ばれています。

「犬笛」とは本来、特定の周波数の音を出し犬を呼び寄せる道具ですが、SNS上ではこうした行為を指す言葉として使われているのです。

「迷惑をかけたくない」と、上方落語協会を離れ、芸名も返上した太遊さん。

「犬笛」が原因でプロの落語家としての道が絶たれました。

【元・月亭太遊さん】「繁昌亭とか、喜楽館っていう落語専門の寄席には出れなくなったので。こういうゲストでよばれるイベントや自主的なイベントで食っていかないと仕方がない」

■「こいつ許せない。みんなで通報したらいいやん」なぜ“犬笛”を吹いた?

一体、誰が何のために“犬笛”を吹いたのか?

【ともさん(仮名)】「こいつ許せないみたいな。だからみんなで通報したらいいやんみたいな気持ち」

兵庫県出身で、現在は北海道に住んでいるともさん。

当時、斎藤知事を応援しようと、演説の切り抜き動画などを投稿していました。

【ともさん(仮名)】「世論もメディアも100対0で斎藤さん批判を展開されていたので、逆に100対0って怪しいな、何か裏があるんじゃないか。一番応援しようと思ったのは、(NHK党の)立花(党首)が登場した時ですね。立花の言っていることとか、ネットで出回っている情報を元に発信していた」

■「だってあいつ、悪いことしてるじゃん」立花党首の発言が誹謗中傷を呼応

NHK党の立花孝志党首をめぐっては、8日、元兵庫県議の竹内英明さんの妻に名誉棄損の疑いで刑事告訴されました。

【NHK党・立花孝志党首(本人のYouTubeの発言より・ことし3月)】「生前、竹内を中傷していましたよ。だってあいつ、悪いことしてるじゃん」

斎藤知事の疑惑を追及していた竹内さんは、誹謗中傷などを苦に自ら命を絶ちました。

立花党首は竹内さんを「ありもしないうわさをつくった人」と批判し、死後も、「逮捕される予定だった」と発言していましたが、兵庫県警のトップが完全否定。

告訴状では立花党首の発言について、「呼応する多くの支持者からの誹謗中傷が行われることを意識して行われた」と問題視されています。

■“正義感”がもたらした犬笛は「違法」と指摘され…

立花党首の影響で、斎藤知事を批判する人たちを標的にしていった、ともさん。こうした中で目についたのが、月亭太遊さんでした。

【ともさん(仮名)】「数字を伸ばしてやろうとか、お金稼ぎをしてやろうという気持ちではなく、自分の中の正義感で動いていたので。それが正義だと思って、やっていた」

“正義感”で吹いてしまったという犬笛。しかし、それを止めようとする人が現れました。

【「X」での弁護士・大前治さんの返信】「吉本興業と落語協会の電話番号を記載しており、抗議や苦情の電話を呼びかける意図は明らかです。威力業務妨害に該当する行為を招く違法行為です」

ともさんのXに“犬笛”が違法だと指摘する返信をしたのは、弁護士の大前治さん。「放置するわけにはいかない」という思いからでした。

【大阪京橋法律事務所・大前治弁護士】「『あなたの考え方はこういう理由で間違ってますよ、これが正しい考え方ですよ』という意見をぶつけ合うんじゃなくて、『黙れ』という圧力をかけてるだけですよね。その目的で2つの電話番号を書いている。これは恐ろしいなと」

この投稿を見て、ともさんは我に返りました。

【ともさん(仮名)】「すごく浅はかだったと思いますね。というのも、一次情報を見ずにネットに出ている情報だけで信用してしまったのが自分の過ちだった。その行いで人の命を落としてしまっていたかもしれないということに気付いて。間違った正義感だった」

■ともさんは丸尾県議に謝罪し、誹謗中傷した太遊さんとも和解

ともさんはいま、どうしているのか。先週その姿は、兵庫県にありました。

面会したのは、斎藤知事の疑惑を追及している丸尾牧県議。

ともさんはかつて、丸尾県議に対し、“うそのおねだり疑惑を流布した”として辞職を求めるサイトを立ち上げたこともありましたが、今回、直接謝罪。

【元・月亭太遊さん】「会うの何回目?」
【ともさん(仮名)】「2回目です」

さらに太遊さんとも和解し、“犬笛”に警鐘を鳴らす活動をするようになったのです。

【ともさん(仮名)】「同じ過ちは二度と繰り返さないということで、今はやっていますし、間違った情報を流している人は是正していくというのを心がけてやっています」

■“犬笛”に警鐘を鳴らす活動を始めるも、SNSで名前や顔をさらされることに

しかし、兵庫県政をめぐる“犬笛”は、今もやんでいません。

ともさんが今度は反対に、SNSで名前や顔をさらされているというのです。

【ともさん(仮名)】「僕が勤めていた会社情報とかも全部さらされている状況で、そこで捕まってたとか、犯罪もみけしたとか、妄想話まで展開されている状況です」

また、先月の斎藤知事の会見で、時事通信の記者が、知事の疑惑を告発した元県民局長の遺族に誹謗中傷が続いているとして、「嫌がらせをやめろと言うべきではないか」と質問。

これに対し、立花党首が記者の実名やメールのやりとりをXに投稿。

記者が誹謗中傷される事態となりました。

先週の斎藤知事の会見では、誹謗中傷に関する質問が相次ぎましたが…

【兵庫県・斎藤元彦知事】「SNSを利用される全ての方に誹謗中傷やよくない使い方をやめるべきだと伝えることが県としては大事」

(Q:自身のSNSでは投稿しない?)
【兵庫県・斎藤元彦知事】「県として対応していくものですので」

斎藤知事は、「誹謗中傷はやめるべき」との一般論を強調。

一方で、自らのXで発信することは否定しました。

終わりの見えない“犬笛”による誹謗中傷。私たちがSNSとどう向き合うかが、問われています。

■「言論の自由には言論の責任がある」共同通信・太田さん

SNSでの誹謗中傷に詳しい国際大学の山口真一准教授によると、「フェイク情報を見聞きした3700人に調査したところ、フェイクだと見抜けたのは14.5%のみ。『自分は大丈夫』と自己評価が高い人ほどフェイク情報にだまされやすい」ということです。

共同通信の編集委員の太田昌克さんは、「言論の自由には言論の責任がある」と指摘しました。

【共同通信太田昌克さん】「一時の感情や周囲の空気に流されて発するSNS上の言葉が暴力と同じ刃になる。その傷が深くて大きければ、その人の一生を狂わせるかもしれないし、家族をも翻弄してしまう。私はそんなことはあってはいけないと思うんですよ。我が身や家族に起きたらみなさんどうですか?言論の自由には言論の責任がある。立ち止まって自分の言動を見つめ直して発信してほしいです」

(関西テレビ「newsランナー」 2025年8月11日放送)

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