プロ野球、パ・リーグの首位を快調に走る福岡ソフトバンクホークスは、豪華な打撃陣が注目される一方で、投手陣の全員もハイレベルな結果を残している。投手陣を「魔改造」した倉野信次ピッチングコーチ(49)に話を聞いた。
劇的変貌のワケは分析・伝え方
現在の投手陣の成績は想定以上だという福岡ソフトバンクホークスの倉野信次ピッチングコーチ。「先発陣にしても中継ぎ陣にしても、僕が期待していた以上の働きをみんながしてくれているので、本当に選手にはみんな感謝しています」と選手への思いを語る。

ホークス投手陣は、チーム防御率2.03(5月31日現在)とリーグトップの成績を残している。昨シーズンの数字(3.27)と比べるとその差は歴然だ。今シーズン、戦力に変化がなかったにもかかわらず、劇的な変貌を遂げたのはなぜなのか?

就任してまず掲げたことは、“ストライクゾーンで勝負”することだという。倉野コーチは、「無駄なボール球は極力減らしていく。ただこれって12球団どこもやっているし、今までのピッチングコーチも言ってきたことだが変わらなかった」と語った。

取り組んできたことが、なぜ今シーズンで良い結果が現れたのか尋ねると、「なんでだろう?と分析したときに、1つ自分の中で答えがあった。選手に説得力のある数字を見せたり、そういう具体例を出したりして、『ゾーンで勝負するというのはどういうことなのか』を落とし込もうと思って始めたのが1番のスタート」だと語る。

アメリカでのコーチ留学で学んだ最先端のデータ活用術を駆使し、選手に分かりやすく説明していった倉野コーチは、伝え方にも気を配った。

“結果を責めない”ということが一番だと語る倉野コーチは、「例えば、その回を0点で帰ってきたけど、2アウトランナーなしから四球を出してしまったとき、『2アウトランナーなしから四球出したよね』って言われるのと、『2アウトランナーなしから四球出しても0点で抑えたらOKだよ』って言われるのって全然、(選手の)響き方、次へのモチベーションが変わるのではというのが僕の中にある。それを一つ一つ選手に応じてやっている」という。
実績と信頼の1軍メンバー
倉野コーチが「本当に変わった」と話すのは、杉山一樹投手(26)だ。「3年前まで一緒にやっていましたけど、取り組み方がまず変わっている。それって技術以上にメンタルの安定が取り組みに表れると思うので、メンタル面がすごく安定しているのが今、伸びてきている要因の1つかなと思う」と語る。

短期間で再生したといえば、“勝利の方程式”の一角、藤井皓哉投手(27)もだ。開幕から中継ぎの柱として投げていたが、なかなか調子が上がらなかった。倉野コーチは、藤井投手の4試合のピッチングを見て登録抹消を決断し、そこから最短の10日で1軍完全復帰へと導いた。
ただ、同じく開幕から状態が上がらなかった守護神のロベルト・オスナ投手(29)に対しては、藤井投手とは別のアプローチをしたという。

倉野コーチは、「オスナが本調子でないことは、本人も僕たちも分かっている。ただ、本調子でなくても抑えるのがチームのストッパーという役割だと思うし、その力が(オスナに)あると思っている」と語る。

「どうしても難しい」ということであれば2軍調整の話も出てきたと思うが、本調子でなくても“必ず仕事はしてくれる”という信頼感がオスナ投手にあったとした上で、毎日しっかりコミュニケーションをとり、オスナ投手自身が100%の状態に近づくためのアプローチを色々と日々やっているという。
「続かないことを想定」
倉野コーチは選手の状態を把握し、先のことを常に考えている。一瞬でも気を抜くことのないよう、試合中はどんな場面でも笑顔を封印しているが、練習日には表情が緩むこともある。

選手の表情を見て、何かモヤモヤしていると思ったらすぐに話に行ったりしているという倉野コーチは、「コミュニケーションをしっかり取るということはもちろん、“近づきすぎず、遠すぎず”みたいな距離感を自分の中ではある程度こうしようというのはある」と語る。

選手からのサインを見逃さず、修正して勝利へつなげることが自身の仕事だという倉野コーチは、「とにかく試合に勝つこと。防御率1位とかは関係ない。そこを意識し出すと絶対にうまくいかない。そういう数字があるのは励みにはなるが全く気にしないし、気にしないようにはしている。これからずっとこの調子が続けば一番いいが、続かないことを想定しながらやっているので、なんとかこの状態が続くように頑張りたいと思います」と意気込みを語った。
これから夏場を迎え、選手たちの疲労も顕著になってくる。疲れがたまった投手陣を、どうけん引していくのか。ペナントレースはまだまだこれから。「魔改造」コーチの手腕に注目だ。
(テレビ西日本)