ブレイキン。
パリ五輪で日本の金メダルが期待される新競技。DJが流す音楽に合わせ、1対1でダンスを踊り合い勝敗を決する。即興で音楽に合わせて繰り出されるダイナミックな技の数々が魅力だ。
その中でも、パリで金メダル獲得が期待される22歳の日本代表。ダンサーネームShigekixこと半井重幸(22)。
これまで数々の国際大会で優勝を収めてきたブレイキン界のヒーロー。彼がこの夏、パリの舞台で描きたい姿に迫った。
絵を描くこととブレイキンの共通点
ことし4月、アメリカ・シアトル。
パリ五輪が目前に迫る中、国際大会に招かれていたShigekix。

合間で訪れた街の中心地、思いもよらぬ場所で彼は足を止めた。そこはグラフィティアートと呼ばれる、壁にデザインされた絵や文字が描かれた一角だった。

「実は海外グラフィティアートというのもハマって、すごくやっていた時期がありました」
「もちろん公共の場に勝手に書いたりはしてないですけれど、グラフィティアート用のノートブックみたいな、ちょっと硬い紙が多いんですけれども、このノートブックに自分でペンとか使って書いてました」

「絵を描くこと」ーそれは彼が物心ついて一番最初に興味を持ったこと。言葉や写真におさまらないものに惹かれ、今でも作品を作り続けている。
「絵を描くことは、真っ白のキャンバスを色鮮やかにじゃないですけど、そこから何かを生み出す。ダンスも体一つで物を使わないところから何かを生み出す。そういう作業がやっぱりすごく好きなのかなと思います」
ブレイキンと同じように絵を描くことは0から1を生み出す作業。自分が追い求めるものを形にしたいそんな彼の表現者としての一面が垣間見えた。
姉が語る「内向的だった少年時代」
幼少期は常に姉の後ろをついていくお姉ちゃん子だった。今のShigekixがあるのは姉・AYANE(26)のおかげ。
ブレイキンを先に始めた彼女がいなかったら、金メダル候補にも日本代表にもなれなかった。

姉・AYANEも日本を代表するダンサー。10歳からブレイキンを始めると国内でも数々の優勝を経験した。現在は商社で働きながら、会社の理解も得てダンサーとしても活動している。
パリ五輪の代表はあと一歩で届かなかったがその思いを弟に託している。
そんなずっと近くでShigekixを見てきたAYANEは幼少期の事をこう語る。

「私がブレイキンを始めた当時(10歳)レッスンに通わせてもらっていて、その時も親が送り迎えしてくれたんで、必然的に弟も家じゃなくて私のところについてくるみたいな環境だったんですけれど、その時も私がレッスンを受けているのに(弟は)背を向けて絵を描いていたんですよ」
「絵の方が好きだったんだな、みたいな」
幼少期は絵を描くことばかり。今のShigekixからは想像できないが内向的な少年だったという。
ブレイキンと出会ってからの変化
「僕、今でこそこうやってカメラに向かってお話させていただいてますけど、実はあまり人前でしゃべったりとか、社交的に話しかけたりするのは実は得意じゃなかったんですよね、ちっちゃいときは」と振り返るShigekix。
「でもブレイキンに出会ってコミュニケーションを取るっていう機会も増えて、自分を解放するじゃないですけど自己表現の究極の形が僕はダンスだと思っているので」
「すごくブレイキンに出会う前と出会ってからの自分でキャラクターが違うというか。内向的だった部分はかなり変わったのかなと思います」

自身でも振り返ると社交的ではなかったという幼少期。シアトルでの大会ではその過去が嘘のように、人前が苦手だった少年の見違える姿があった。
今回、招待された『Red Bull Lords of the Floor』 は、ダンサー達が憧れるブレイキンの伝説的な大会。

そこで彼は世界中のダンサーたちを破りベスト4に。会場を盛り上げ、多くの歓声を浴びていた。
「めっちゃうまいやん」その言葉が嬉しくて練習した
ではなぜ、内向的な少年が世界中を魅了するダンサーにまで成長したのか?そこには過去の忘れぬ光景が姉・AYANEにはあったという。

「私がレッスン受けてて、先生がちょっと一回やってみたら?せっかく来てるしと言ってくれて」
「やり方を教えたらすぐポンてできて『めっちゃうまいやん』みたいな。『全然できるやん』て言われてからちょっとずつ興味を持ってくれて、周りの人も優しかったから色々教えてくれた」

「めっちゃうまいやん」というその言葉が嬉しくて、練習してまた練習した。ブレイキンにのめりこんでいくうちに、人に話しかけることも、年齢も、関係なくなっていた。
気が付けばShigekixは、人の輪の中でブレイキンに熱中していた。
故郷のストリートで磨いた技、ブレイキン界のスターに
大阪・難波駅に隣接するバスターミナルOCAT。そこはストリートダンサーの聖地であり、Shigekixが幼少期から仲間とともにダンスに明け暮れた練習場所。

ここで磨いてきた得意技、音楽に合わせて動きを止める『フリーズ』は誰にも真似できない唯一無二の武器。ブレイキンの文化にはなかった筋力トレーニングも自身の表現の幅を広げるためにいち早く取り入れた。

たゆまぬ努力は実を結び、2020年には『Red Bull BC One World Final』で歴代最年少優勝。ブレイキン界の新たなスターとして歴史に名を刻んだ。

パリでも変わらない自己表現の追及
-追い求めるものを形に-
それは彼にとって幼少期から変わることなく追及してきたこと。
絵を描くことに夢中になっていた時も、ブレイキンと出会ってからも。この夏、パリの舞台でもその想いは変わることはない。

「五輪ためにこういう風にするというよりかは、この五輪という舞台が本当に自分が今までやってきたこととか常に大事にしている事を最大限に発揮する最高のステージだと思っているので、その姿を五輪というステージで見せられたら、それが一番最高な形かなと思います」
キャンバスを飛び出した自己表現、その先に金メダルが待っている。
『すぽると!』
6月1日(土)24時35分
6月2日(日)23時45分
フジテレビ系列で放送中
『土曜日のキャンバス』 ~挑み続ける彼らを追って~
次回6月1日は東京オリンピック金メダリスト、柔道100キロ級ウルフ・アロン選手。
東京五輪後、勝てない日が続き、史上初の100キロ級2大会連覇がかかるパリ五輪出場へ黄色信号が灯る状況に。しかし、負けたら落選もあり得た国際大会で見事に逆転優勝し、パリ行きを決める。学生時代から常に劣勢な状況を跳ね返してきた、ウルフ選手の“土壇場力”に迫る。