日中韓首脳会談が4年半ぶりに行われた。「BSフジLIVEプライムニュース」では日中韓の政治家・識者を迎え共同宣言を読み解くとともに、台湾をめぐる情勢などを分析し議論した。

日韓は経済面で中国の“日米韓切り崩し”に乗らず

反町理キャスター:
今回の日中韓首脳会談の意義。中国の李強首相は本国に何を持ち帰るのか。習近平主席に報告して判断を仰ぐような関係性があるか。

佐藤正久 元外務副大臣:
大きな意味で今回、中国の歩み寄りで開けた部分はあり、この枠組みが継続していけば意味があるのだろうなという程度。あまり期待をしない方がいいが、李強首相に言わなければ、当然、習近平に繋がる可能性は全くなくなるので言うことは言う。習主席との首脳会談の前座としての意義はある。

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朱建榮 東洋学園大学客員教授:
米中対立が激化し、アメリカが特に東アジアで新冷戦構造を作ろうと日韓を巻き込む中、それを避ける上で意義があった。また3カ国の場で日中・中韓の会談が行われ、2者関係の改善において成果があった。

金玄基(キム・ヒョンキ) 中央日報論説委員:
韓国は議長国として共同声明を出すことに重きを置いてきた。残念な点もあるが、3カ国が共同声明を出したことには意義があったのでは。

竹俣紅キャスター:
首脳会談冒頭、尹大統領は「韓日中首脳会談を開催することになりとても嬉しく思う。2カ国の間では解決が難しい問題も3カ国協力で解決できるだろう」。岸田総理は「日中韓協力は新しい再スタートを切る。将来世代のため3カ国の協力に改めて光を当て輝かせていきたい」。中国の李首相は「相互の尊重と信頼を堅持し、絶えず協力を強化する。世界の多極化を推進し、集団化・陣営化には反対」とした。

佐藤正久 元外務副大臣:
岸田総理も尹大統領も未来志向的な三国間協力に言及したが、李首相は対中包囲網的なことはダメだと言わざるを得ない。尹大統領が「韓中日」でなく「韓日中」の順にしたのは次の議長国が日本だからだろう。韓国にとって一番大事なのは、今は日本よりも中国。

金玄基 中央日報論説委員:
韓国での捉え方は異なる。尹大統領は2023年の日米韓首脳会談の時期から「韓日中」と表現しており、最近の外交スタンスを象徴的に表していると見られている。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
最近の韓国は明らかに中国との関係修復に取り組んでいる。韓国の外相は訪中前に、韓中関係は韓米関係と同じぐらい重要だと述べた。

佐藤正久 元外務副大臣:
韓国の外交はしたたかなコウモリ外交。進歩系の政権ができると大陸側に引っ張られ、尹大統領のような保守系の政権ができると日米に寄る。

金玄基 中央日報論説委員:
共同宣言に4年半前と異なり「朝鮮半島の『完全な』非核化」という表現がない。この点は中国の勝ち。だが今回、中国が一番強く求めたのは、半導体など先端分野での協力関係の強化。つまり日米韓の切り崩しで、韓国と日本は応じなかった。この点は韓国と日本の勝ちと分析する。

竹俣紅キャスター:
共同宣言には「日中韓FTA(自由貿易協定)実現に向け交渉を加速していくための議論を継続」とある。安全保障では「法の支配と国際法に基づく国際秩序へのコミットメントを再確認、朝鮮半島の政治的解決に前向きに努力する」。

佐藤正久 元外務副大臣:
日中韓FTAについては「——ための議論を継続」の部分にやる気のなさが見て取れる。安全保障も「法の支配と国際法に基づく」は当たり前。中国も事実に反してこれを言い続けている。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
日中韓では経済についてほとんど進展がないが、中韓では中韓FTAの第2段階としてもっと高度な交渉を進めると合意している。

金玄基 中央日報論説委員:
それは既に出ている話。FTAに関する表現は4年半前と比べほとんど変わっていない。日米韓ではIPEF(インド太平洋経済枠組み)の交渉が進む中、中国は日中韓・アジアの経済枠組みを前面に出したかったが、それには乗らなかった。

反町理キャスター:
韓国は対中輸出よりも対米輸出の方が多くなった。脱中国を進めているか。

金玄基 中央日報論説委員:
投資先としての中国に対する疑問の声はかなりある。トランプ政権以来アメリカも韓国の大手企業に投資を要求している。米中対立の影響が及んでいるとは思う。

佐藤正久 元外務副大臣:
韓国の中国からの輸入額は年間約1500億ドル。対米の約2倍であり、まだまだ中国を無視できない。米中の間で日本以上にうまく立ち回らないといけない状況。

日韓の最新の懸案「LINEヤフー情報漏洩問題」の行方

竹俣紅キャスター:
日韓首脳会談での主な合意事項は、「2025年の日韓国交正常化60年へ向け緊密に意思疎通し、関係の更なる発展に向け、双方で準備を進める」「水素やアンモニアなどのサプライチェーン強化に向け、政府間協議を6月にも始める」など。

佐藤正久 元外務副大臣:
竹島、LINEヤフー問題などの懸案事項についても岸田首相から言うことは言った。また表に出せない部分だが、シャングリラ会合(アジア安全保障会議)を前に防衛交流についても話したのは間違いない。かなり関係がよく、突っ込んだ話ができている。

反町理キャスター:
LINEヤフーの情報漏えい問題では、日本の総務省が運営元のLINEヤフーに対し、実質的な親会社である韓国の大手IT企業NAVERとの資本関係見直しを要求。尹大統領は「不必要な懸案にならないようよく管理する必要」、岸田総理は「あくまでもセキュリティガバナンスの再検討を求めたもの」として政府が踏み込まないようにしたいとも見えるが。

金玄基 中央日報論説委員:
韓国内ですごく話題になっており、日本の総務省が資本の見直しまで要求することへの批判的な世論が高まっていた。だがそれ以降、会社同士が交渉する問題であり両国政府が話す必要はないのでは、という流れになっている。

佐藤正久 元外務副大臣:
5万人の個人情報が漏れている。簡単に蓋をして民間の話だけでよいとしてはいけない。再発防止については総務省のカウンターパート同士で話さないといけない。

日韓ともに中国の台湾封鎖への危機感が足りない

竹俣紅キャスター:
日中首脳会談のポイント。岸田総理は会談後「去年(2023年)11月に習近平国家主席と再確認した戦略的互恵関係の包括的な推進と建設的かつ安定的な関係の構築という方向性の進展を図ることを確認した」と述べた。福島第一原発の処理水に関しては、岸田総理が日本産水産物の輸入停止措置の「即時撤廃」を要求し、事務レベルでの協議加速で一致。前週に2日間にわたり行われた中国軍の台湾周辺での軍事演習については「台湾海峡の平和と安定は極めて重要だ」と伝達。

佐藤正久 元外務副大臣:
ALPS処理水に関わる水産物の輸入停止について相当程度話した。ただこれは「習近平案件」。李強さんに言っても簡単に動くわけがなく、特に変化はない。だが言い続けないといけない。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
中国側の発表の中では、既に進展があった上で引き続きさらに進めていくと。

佐藤正久 元外務副大臣:
全然ない。日本から中国に水産物を輸出するときは水産加工施設を登録して許可をもらわないといけないが、それも削除したほど。後退している。

反町理キャスター:
台湾周辺での軍事演習については。

佐藤正久 元外務副大臣:
これは台湾封鎖の演習。日本の原油輸入の9割がここのルートを通っている。食糧や海底ケーブル含め本当に重大。日韓はこの問題について強く申し入れるべき。

竹俣紅キャスター:
台湾の頼清徳総統の就任式には、日本から超党派の国会議員31人が出席。これに対し呉江浩駐日大使は「日本が中国分裂の企てに関与すれば、日本の民衆は火の中に連れ込まれるだろう」。

佐藤正久 元外務副大臣:
とんでもない発言。日本人を殺すぞという脅し。外務大臣が大使を呼びつけ、謝罪・撤回させないといけない。

反町理キャスター:
上川外務大臣は近々中国訪問を予定しており避けたか。

佐藤正久 元外務副大臣:
今、全体では日中関係のハイレベルの交流に軸足を置いているから弱いのだろう。

反町理キャスター:
朱さん、大使の発言はまずいでしょ。

朱建榮 東洋学園大学客員教授:
いや、アメリカに対しては「火を招いて身を焼く」ともっときつい表現を使っている。日本はそれに巻き込まれると。

佐藤正久 元外務副大臣:
どっちみち日本人を殺すということ。

反町理キャスター:
今回の中国軍の演習に対し韓国の態度は。

金玄基 中央日報論説委員:
北朝鮮がミサイルを撃つことにも最初は敏感に反応していたが、もうあまり反応しない。中国の軍事演習も同様。感度が低くなっている現象は否定できない。佐藤さんのおっしゃるように韓国政府も積極的に声を出すべき。だが肝心なのは在韓米軍の存在。台湾有事の際に在韓米軍が動き、そこで北朝鮮がどのような軍事的行動をとるかわからない懸念がいつもある。それで慎重にならざるを得ない。

反町理キャスター:
日韓が連携し中国に安全保障上の懸念を伝えることはやめた方がいいという姿勢か。

金玄基 中央日報論説委員:
韓国はそうした連携は考えていない。だがトランプがもう一度大統領になったときに北朝鮮に対してどう動くかわからず、中国や北朝鮮に対して日本との連携が必要になる可能性があるため、最近の韓国政府内には安保上の協力も深める必要があるという動きもある。

佐藤正久 元外務副大臣:
韓国国防部の視野が広がっていない。シーレーンが生命線だとわかってはいても見ないようにしている。だがいざとなれば韓国海軍も一定程度東シナ海に展開し物流を守らざるを得なくなる。

「BSフジLIVEプライムニュース」5月27日放送