道の駅や産地直売所で見かける、塩とシソで漬けられた昔ながらのすっぱい梅干し。そのまま食べてもおいしいが、暑い季節は刻んで料理のアクセントとして加えるのも、さっぱりとした味わいが格別だ。

しかし今、法改正で手作りの梅干しの製造が一部で苦境に立たされている。そこで和歌山県で梅干しを製造する「梅ボーイズ」が、すっぱい梅干しを次世代につなぐためのクラウドファンディングを立ち上げた。

法改正で“手作り梅干し”がピンチ?

実は改正食品衛生法の経過措置期間が終わるため、6月1日からは梅干しの製造販売に営業許可が必要となるのだ。

新設した製造所
新設した製造所
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梅ボーイズのリーダー・山本将志郎さんによると、営業許可を取得するためには、これまでは求められていなかった水道やシンク、天井、壁、床、作業台などの整備が必要で、最低限の設備投資でも100万円以上はかかるという。建物をイチから建てるとなると、その負担はさらに大きい。

旧製造所の様子
旧製造所の様子

山本さんは祖母の家の使われていない約10畳の部屋で梅干しを漬けていたが、実際、梅ボーイズの製造所の新設にあたり、約4000万円もかかったそうだ。

新たな設備投資が必要になると知った当時のことを山本さんは「衛生環境の確保は必要なことだが、それにしてもやはり費用負担は大きいと感じた」と話す。

そこで今回梅ボーイズが実施しているのは、全国の産地と連携し、資金とノウハウ共有を通じて製造所を整備するためのクラウドファンディング。まずは神奈川県と愛知県で、漬物製造業許可の取得に必要な要件を満たす製造所を整備し、無理なく小さい規模で梅干し製造を行えるサポートを行うという。

6月1日までの実施だが、目標金額の100万円に対し支援総額が840万円以上となる反響だ(5月23日現在)。この反響をどのように受け止めているのだろうか。梅干し製造のやりがいも含めて、山本さんに聞いた。

生きがいが失われることに?

――クラウドファンディングの反響をどう思う?

思った以上にたくさんのご支援をいただき、びっくりしています。本当にありがたいです。

「昔ながらの手作り梅干しが大好きだから、なくなってしまったら困る。何かできることはないかと思っていた。応援します!」という声をたくさんいただいています。

梅ボーイズリーダー・山本将志郎さん
梅ボーイズリーダー・山本将志郎さん

――梅干しの製造所を守るために、どのような取り組みをしているの?

許可要件を満たす必要最低限の設備についてのポイントや、梅を漬けるための道具(タンク、せいろ等)のおすすめや費用感などをお伝えしています。

――周囲ではやめてしまう漬物屋さんは多いの?

和歌山は梅農家も梅干し屋もみんな規模が大きいところが多いので、細々とやっていたようなところは少ないです。それでも一定数は、やめてしまう方もいます。全国的に見ると、うちに相談をしてきてくれる方は多いです。

生計を立てるとはいかないまでも、生きがいとして梅干し製造販売をされていた方は、100万円以上の設備投資をしてまで続けようという気持ちにはならないのではないでしょうか。

「おいしい!」その声にやりがい

――梅干しの製造を始めたきっかけを教えて。

梅農家を継いだ兄が「味にこだわって梅を栽培しても結局甘い調味液に漬けられて梅の味が分からなくなってしまう。やりがいがない」と言っているのを見て、梅農家が好きな「梅の味がちゃんとする梅干し」を作って広めたいと思ったためです。

新製造所の様子
新製造所の様子

――梅干しづくりのやりがいは?

うちの梅干しを食べてくれたお客さんから、「おいしい!」のお声を聞かせてもらえるのがやはり一番うれしいです。

昔ながらのすっぱい梅干しが今は少数派になっていますが、そういう梅干しを求めている方はたくさんいるので、「こういうのを求めてた!」と言っていただけるのもやりがいを感じます。

――“若者の梅離れ”も話題になるが、梅干しの魅力は何だと思う?

梅干しはおいしいだけでなく、身体にも良いです。疲れたときは梅干しを食べるとシャキっとします。昔は薬として食べられていたほどです。

また、昔ながらの梅干しは塩分濃度が高いため何年も保存できます。常備食として最適です。梅干しの良さをもっと多くの方に知っていただきたいです。

梅ボーイズのメンバー
梅ボーイズのメンバー

日本各地の手作り梅干しを守るためのクラウドファンディング。昔ながらの味が廃れないためにも、このような取り組みはもっと広がってほしい。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。