ご飯のお供のひとつとして欠かせない漬物。しかし「手作りの漬物」が、これから食卓から消えるかもしれないのだ。「ふるさとの味」が存続の危機にさらされている現状と、その背景とは?

大人気の「手作りの漬物」がピンチに

福岡・糸島市の農畜産物の直売所「伊都菜彩」は、福岡県外からも多くの人が訪れるほどの人気で、来場者は年間120万人以上。JAが運営する直売所として日本一の売り上げを誇る施設だ。

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「名物直売所」の人気コーナーの1つが漬物販売コーナー。

高菜や白菜、大根など地元で採れた新鮮な野菜を使って、それぞれの農家が昔ながらの味付けで作る自家製の漬物。

連日、多くの人が買い求めていて、日中でも品切れになった漬物を納品する生産者が後を絶たないほどだ。

「農家によって味が違うので、食べ比べしながら探すのが楽しみ」と来店客は話す。そんな伊都菜彩の名物ともいえる「手作りの漬物」がいま、大きなピンチを迎えているという。

改正食品衛生法の完全実施

従来、「手作りの漬物」は福岡県に届け出さえしていれば製造・販売が認められていた。しかし、2012年8月に北海道・札幌市などで「白菜の浅漬け」を食べた8人が死亡する集団食中毒事件が発生。

この事件がきっかけとなり、2021年に改正食品衛生法が施行され、漬物の製造・販売は「許可制」となった。

許可を受けるためには「手を使わずに肘でも動かせるレバー式の蛇口」の設置や、「野菜などを洗うシンクと手を洗う設備を分けること」などが条件とされていて、2024年5月末で施行後3年の猶予期間が終わるため、生産者がいま、対応に迫られているのだ。

漬物生産者:
そんな規制は、だいたいが「ないのががいいな」と思うばってん、許可は取ると思います。4トンタンクがいくつかあって、それに漬け込んで出荷しています。

厳格な衛生基準に「もう作らんめえ」

一方、厳格な衛生基準を満たす加工施設の整備は難しいとして、漬物づくりを諦める生産者も現れている。

生産中止予定の生産者:
もう作らんめえと。「伊都菜彩」が始まってからずっと出してきたばってん、年寄りだけん、もう保健所に手続きせないかんけん、もう出さんめえかと。食品衛生法上のきまりやけん、しょーなか(仕方ない)。

福岡県によると県管轄の地区では、2023年3月末時点で漬物製造の届け出は3,693件に上っているが、法改正に準じた許可を得ているのは、わずか175件となっている。

「JA糸島直販課」藤川秀則・課長:
当店の人気コーナーのひとつでもありますし、高齢の方、辞められる方がいらっしゃると思いますけど、非常に困っております。うちだけじゃなくて、どこの直売所でも困っているんじゃないかと思います。一番、困っているのは出荷されている方、購入されている方もそうですけど、悩ましいですね。

それぞれの地域で親しまれている「手作りの漬物」。
「ふるさとの味」が存続の危機にさらされている現状に、来店客からも「なかなか漬物は漬けないから困る」「年寄りの味を失うのは残念」「作った人の名前を覚えて帰ったりしていたので、これからどうしよう」などと戸惑いの声が上がっている。

「漬物」というと、その土地にずっと受け継がれていく食文化のひとつ。手作り漬物の製造・販売が「許可制」となる改正食品衛生法の完全実施は6月から。各地の生産者が対応に迫られることになる。

(テレビ西日本)

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