兵器の無人化が進む中、中国で世界初の「ドローン空母」が建造中と伝えられた。海軍関連の情報に詳しい作家HIサットン氏が、仏で発行されている海軍情報サイト「ネイバル・ニュース」上で5日伝えた。

通常の空母より小型「ドローン空母」とは

サットン氏は、上海の造船所を上空から5月6日に撮影した衛星画像に写っている、建造中の空母がそれと指摘する。

この空母は通常の空母より小型で、最近の大型空母に比べて飛行甲板の長さは3分の1、幅は2分の1と見られる。米海軍の最新鋭の空母「ジェラルド・R・フォード」と比較すれば、飛行甲板の全長約111m、幅約39mと推定される。第二次世界大戦中の米国の8000t級の護衛空母にも及ばない。カタパルト発射装置はなく固定翼機が発進するのは不可能ではないが、飛行甲板は平坦でスキージャンプ台はなく、離発着を同時に行うには適さない。

「A」で示されたのが建造中のドローン空母とされている(Naval Newsより)
「A」で示されたのが建造中のドローン空母とされている(Naval Newsより)
この記事の画像(4枚)

上空からの画像で目立つのは長さに比べて幅が広いことだ。このことからサットン氏は、この空母はカタマラン(双胴船)と想定した。

カタマランの空母はこれまでも各国で検討されたが、まだ実現はしていない。カタマランだと双胴の間に格納庫を設置するのが制限されるからだが、加えてこの空母は飛行甲板が低く、格納庫のスペースが極めて限られていて、有人の航空機の離発着を迅速に行うのが難しいと考えられた。

しかし、無人のドローンの離発着にはこの構造でも問題ないわけで、翼幅20mのドローンでも離陸させることができるとコットン氏は考え、この中国で4番目の空母を世界初の「ドローン空母」と断定した。

同種の艦艇としては、トルコで2023年就航した強襲揚陸艦「アナドル」(排水量2万7436t)があり、ドローンの発着が可能とされるが、本来の用途は後部から海兵隊員を乗せた上陸用舟艇を発進させるものだ。

イランもドローン空母を建造中と伝えられるが、コンテナ貨物船を改造するもので、当初から空母として計画されたものではないようだ。

さらに米国でもドローン空母が検討されたが、当面は既存の艦船を転用することとして新規に建造することは棚上げされたと伝えられるので、この中国で建造中のものが当初からドローン空母として計画、建造される世界初の例となる。

台湾侵攻でのドローン使用を想定か?

そこでその用途だが、「ネイバル・ニュース」の記事を転用した米国のニュースサイト「ビジネス・インサイダー」は16日、ワシントンのシンクタンク「ディフェンス・プライオリティ」のリル・ゴールドスタイン氏の談話を次のように伝えている。

「私は台湾問題に焦点を当てて分析しているが、中国は台湾侵攻にあたってドローンを主要兵器として大量に投入することを考えているのだと思う」

つまり、中国が台湾侵攻にあたって、このドローン空母から爆撃機に限らず、偵察機やおとり機など大小のドローンを雲霞のごとく発進させて、多面的に攻撃することを考えているのだろうというのだ。そうであれば、台湾侵攻に限らず中国の東シナ海の中核的な戦力として無視できない存在になるわけだが、心配なのは対岸の日本の対応だ。

中国の動画サイトに投稿された「いずも」
中国の動画サイトに投稿された「いずも」

折もおり、海上自衛隊の横須賀基地に停泊中の護衛艦「いずも」を上空からドローンで撮影した映像が中国の動画共有サイトに投稿された。自衛隊の基地やその周辺では許可なくドローンを飛行させることが禁止されていて、警察などが撮影者を捜査しているが、それ以前に自衛隊がドローンの飛来をなぜ探知して撃墜するなり排除できなかったかが問題視される。

自衛隊はレーダーや光学センサー、ドローン操縦用の電波を監視してドローンの接近を探知しているというが、現実にそれでは対応できないことが今回の事件で暴露されたことになる。

今回の護衛艦の撮影には市販のドローンが使われたと考えられるが、小型で低速のドローンはレーダーでは鳥と誤認することもあり、また高速で複雑に動くドローンも従来の航空機を対象に開発された探知装置では把握が難しいといわれる。自衛隊はドローンに対応する探知装置の導入を図る意向と言われるが、要するに「ドローン戦争」に立ち遅れたと言えるだろう。

護衛艦「いずも」
護衛艦「いずも」

今回ドローンにその存在を晒した「いずも」は、ヘリコプターを搭載する海上自衛隊でも最大級の護衛艦だが、今後甲板などを補強して有人の戦闘機F-35Bを搭載する空母に改修する予定だとされる。一方、世界では空母中心主義が時代遅れだと言われ始めており、中国でも排水量8万トンの本格空母「福建」が就航した後、同じ造船所で次の4番艦としてドローン空母が建造されているのは、中国の先見性を表しているようにも思える。

海上に限らず、ウクライナ戦争ではロシアがトルコ製のドローンでキーウなど都市部を攻撃すれば、ウクライナも自国製のドローンでロシアの巡洋艦を沈めたり、ロシアの地対空ミサイル基地を破壊したりロシア国境内を爆撃したりして主要戦力となっている。

また中東のガザ地区での紛争でも、パレスチナの戦闘集団ハマスが市販のドローンを使ってイスラエル軍の動向をさぐり2023年10月の奇襲を成功させたと言われている。
ドローン兵器の動向からは目が離せない。
【執筆:ジャーナリスト 木村太郎】
【表紙デザイン:さいとうひさし】

木村太郎
木村太郎

理屈は後から考える。それは、やはり民主主義とは思惟の多様性だと思うからです。考え方はいっぱいあった方がいい。違う見方を提示する役割、それが僕がやってきたことで、まだまだ世の中には必要なことなんじゃないかとは思っています。
アメリカ合衆国カリフォルニア州バークレー出身。慶応義塾大学法学部卒業。
NHK記者を経験した後、フリージャーナリストに転身。フジテレビ系ニュース番組「ニュースJAPAN」や「FNNスーパーニュース」のコメンテーターを経て、現在は、フジテレビ系「Mr.サンデー」のコメンテーターを務める。