「秋保」と書いて「あきう」と呼ぶ温泉地が仙台市太白区にある。四季折々の自然が楽しめ、仙台市中心部から車で1時間もかからず行くことができる利便性が魅力の一つだが、観光客の半分は県内客が占めており、県外客への知名度不足が課題となっている。
この秋保（あきう）温泉に、全国に宿泊施設を展開する星野リゾートが新たな温泉宿「界 秋保」をオープンした。全国的に高い知名度を誇る温泉旅館ブランドの進出。地元客から愛される温泉地に、県外からの観光客を呼ぶ起爆剤としての期待も寄せられている。
全国で23カ所目 星野リゾート「界」が宮城初進出
全国で高級ホテルや温泉旅館などを運営している星野リゾートが、秋保温泉で閉館した温泉旅館を改修してオープンした「界 秋保」。「界」は星野リゾートが展開する温泉旅館ブランドで、「界 秋保」は全国で23カ所目、東北地方では、青森県の大鰐温泉に続き2カ所目の施設である。
将来的に「界」を全国30カ所に展開したいとしている星野リゾート。同社の星野佳路代表は、秋保への進出の意義について「秋保は東北の中で有名な場所のひとつ。界が秋保に拠点を持つことは非常に重要」と、期待感をにじませた。
「界」の特徴の1つが、地域の文化に触れる客室「ご当地部屋」だ。近くを流れる名取川をイメージして、「紺碧（こんぺき）の間」と名づけられたその部屋からは、絵画のように豊かな自然が楽しめ、雄大な渓流も眺められる。開業した4月下旬は、桜と青葉が美しく、宿泊客の目を楽しませた。
客室の壁には渓流のきらめきや自然を表現した「仙台ガラス」のアート、寝室の白石和紙の障子にはこけし柄が描かれ、宮城の伝統文化が客室に溶け込んでいる。
「紺碧の間」をはじめ客室は全49室で、すべての部屋から渓流を眺めることができる。
自然と文化が融合した設計
このほか、渓流をより近くで楽しめる足湯のテラスも。温泉は露天風呂のほか、温度の違う自家源泉の内風呂が2つある。
食事は半個室の空間で、仙台牛など地元の食材を使い、大名の食事をイメージした料理を提供する。
「界 秋保」を設計した建築家の小嶋綾香さんは、「名取川の水脈に五感で浸る」というコンセプトをもとに、自然の美しさ以外にも歴史や風土を館内全体に散りばめるように設計したという。
伊達政宗の「おもてなし」を現代に
星野リゾートが全国に展開する「界」は、「ご当地楽」と称して地域の伝統文化や工芸を体験できる無料のサービスを提供しており、宿泊した人は手軽に歴史や文化に触れられるほか、地域ごとの特徴を楽しむことができる。
「界 秋保」のご当地楽のテーマは、仙台藩主・伊達政宗にちなんだ「伊達な宴」。
宴の前日は自らおもてなしをすべく寝る間を惜しんで準備をしていたというほど、“大のおもてなし好き”で宴を重視していたという伊達政宗。星野リゾートではその政宗のおもてなしの精神に共感し、一から文献などを調べながらご当地楽を作り上げたという。
「界 秋保」では伊達家の軍旗をモチーフにした部屋で、スタッフから歴史の説明を受けながら、宮城の地酒とともに当時の宴を体験できる。
「県外だと伊達政宗を知らない方も多いと思うが、県内の方も多くは知らないと思う。伊達政宗の戦国武将という面ではない、おもてなしの心などを知っていただく場になればいいと思う」（スタッフ 小野寺花さん）
「県外ではアキホ温泉って…」地域の観光施設から期待の声
宮城では初となる星野リゾートの進出。秋保ではどう受け止められているのだろうか。
震災後の2014年から秋保地区でワインの醸造を手がける秋保ワイナリーでは、ブドウ畑の横にワインの試飲ができるカフェとショップを併設。年間6万人が訪れる人気観光スポットだが、課題も感じていたという。
「東北だと秋保は知られていると思うが、東京や関西のワインのイベントに行くと、まずはアキホ温泉ってどこですか？と聞かれる。全国へ向けたＰＲは不足していると感じている。」（秋保ワイナリー 毛利親房さん）
訪れる観光客の半数近くが宮城・仙台からだという秋保。
カフェやブルワリーなど新たな出店が相次いでいるが、宮城県外に目を向けると知名度はまだまだ。星野リゾートのネームバリューと人気は、秋保を知ってもらう第一歩となり、地区全体にとって追い風になると、毛利さんは期待を寄せている。
星野リゾートの進出で観光地・秋保はどう変わるのか…地域との連携も注目される。
（仙台放送）
