4月1日から始まったトラックドライバーの“時間外労働の規制”。いわゆる物流の「2024年問題」。これまでなかった規制により、時間外労働が年間960時間に制限されることで、人手不足や輸送量の減少などが懸念されている。

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■配送業者 各社が一斉に運賃値上げ

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企業の間では不安や危機感がすでに高まっていた。

食品の卸会社:4月から一斉に、運送会社さんからの値上げ要請があって。分かりましたよとお受けするんですけど、ただそれを運賃にのせて(商品を)値上げしますよってなると、受けてもらえるお客さんと、そうでないお客さんが出るので、そこはちょっと大変なんです。

小売り大手:負担していただく運送費・送料を増やしていかないと成り立たなくなっていくのではないかと。

実際に多くの大手物流会社で対策が始まっている。4月1日から一部の宅配便の運賃について、佐川急便は約7%、ヤマト運輸は約2%値上げ。Amazonでは、送料が無料となる金額を2000円から3500円に引き上げた。

また野村総合研究所の試算によると、何も対策しなかった場合、2030年には全国で約35%の荷物が運べなくなるといわれている。

■トラック到着前にタブレットで情報確認 「効率化」しなければ「運びきれないリスク」高まっていた

そんな中、知恵と工夫で乗り越えようとしている企業の一つが飲料メーカーの「キリン」だ。 商品をトラックに積み込む時間を短縮するための秘策が“タブレット”。これまではトラックが到着してから配送する商品を準備していたが…

記者リポート:今、タブレットに積み荷の指示が来ました。トラックが来るまでに(積み荷の)お酒を用意しておくことができます。

トラックが到着する前に配送予定の商品情報がタブレットに届き、事前に準備ができるため、積み込むまでの待ち時間が短縮される。

積み込んだ商品の確認も、紙のリストの読み上げからバーコードの読み取りに変えたことで、さらに作業時間は短縮。

作業員:(効率化で)10分~15分は変わってくると思います。

この取り組みで2時間以上滞留するトラックの台数を約3割減らすことができたということだ。

 

-Q.もし効率化しなければどうなっていた?
キリングループロジスティクス神戸支店 梅山貴彰主任:お客さまがご発注いただいた商品を100%の形でお届けできないとか、運びきれないリスクが高まっていたのではないかと。
まだ走り始めたばかりですので、随時、世間の情勢も変わっていくと思っていますので、臨機応変に対応していきたいと考えております。

■荷を船に積んだら「帰ります」

輸送手段を変える“改革”に乗り出した企業もある。

香川県にある運送会社で長距離ドライバーを務める大西康弘さん。20年以上のベテランですが、これまでの労働環境は厳しいものだったと振り返る。

有限会社 好川商運 大西康弘さん:(目的地に)夜中に着いて、朝まで休憩して、朝から荷下ろし開始みたいな。(そんな)運行は10何年ずっとやってきた。今だから言えるけど、休みがいつになるか分からない。トラック業界は走っていくら、走って給料を稼ぐのが主だと思うんですが、ドライバーの体力的にも勤続は厳しい。

時間外労働を減らすため、この会社では3年前から船を使った輸送を始めたが、取材したこの日から、さらに新たな取り組みも。

関東方面へ冷凍食品を運ぶため、港へと向かった大西さん。船に荷物を載せ、約15分後、トレーラーのヘッド部分だけで出てきた。

-Q.船には乗らないのか?
有限会社 好川商運 大西康弘さん:自分は乗らないです。荷物を積んでいるトレーラーの後ろだけを船に乗せて、積んできた荷物は東京に向かって船に乗っていきました。今日は帰ります。仕事終わりです。

これまではドライバーも船に乗り、関東方面に到着した後も目的地まで自分で荷物を運んでいたが、この日からは荷物は船で輸送し、協力会社の別のドライバーが目的地まで運ぶことになった。この取り組みで、拘束時間を50時間以上削減できるという。

有限会社 好川商運 大西康弘さん:休息時間を取れるというのは、僕も歳を取っていくので、だいぶ楽になりましたね。

■配送先を近県に限定する業者も 給料は「思ったよりも変わっていないですね」

長距離輸送について、ある決断をした会社もある。

オーティーロジサービス 大塚満専務取締役:(輸送先は)近畿2府4県が多いですね。泊まりがけで行く仕事はほとんどしていないので、その日のうちに帰ってこられる。

大阪府大東市にある運送会社では「2024年問題」に備え、自社での長距離輸送を徐々に減らし、メインの配送を近場の近畿2府4県に切り替えた。

オーティーロジサービス 大塚満専務取締役:お客さまからいただける運賃が上がればそれが一番いいんですけれども、すぐに交渉して上げていただくというのにつながるわけではないので。
長距離輸送を1回走るより、地場の輸送を3回、4回と積み重ねていった方が、コストがやっぱり抑えられる。安全性も確保されるメリットがあります。

ドライバーの拘束時間を減らせるだけでなく、燃料費の削減や事故のリスクも少なくすることができた。

効果が早速出ていて、およそ40人のドライバーのうち、多くが夕方には輸送を終え、会社に戻っていた。

-Q.働く時間が短くなると給料も変わるのでは?
従業員:僕もそう思ったんですが、思ったよりも変わっていないですね。早く帰ったらその分、家族の時間が増えるし、リフレッシュもできて今のほうが働きやすいです。

■「いつも同じように商品が並んでいるのが当たり前ではない」

一方、輸送費の高騰や人手不足などにより2023年、運送業で倒産した会社は328社と、2022年よりも約3割増加。 専門家は、欲しいものがすぐ手に入る今の生活が変わるのではないかと指摘する。

近畿大学 経営学部 高橋愛典教授:ネットでクリックすれば商品が手に入る。店頭に行けば、いつもと同じように商品が並んでいる、というのが当たり前ではない。
商品の後ろにどういう人たちがいて、今、何が起こっているのかというところに目を向けるのが重要ではないかと思います。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年4月16日放送)

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