トラック運転手の男性が突然死したのは、違法な長時間労働などが原因だとして、11日、男性の遺族が会社に対しておよそ5400万円の損害賠償を求める裁判を起こした。こうした物流業界の働き方の問題を受けて政府は、2024年からトラック運転手の残業時間を厳しく制限することにしており、物流業界の2024年問題と言われている。 
運送業界の労働問題などを中心に執筆されているフリーライター・橋本愛喜さんに、この問題が物流業界や私たちの生活にどんな影響を与えるのか、話を伺った。

この記事の画像(16枚)

「2024年問題」で“35%の荷物”が運べなくなる日が来る?

トラックドライバーの長時間労働の改善を目指し、2024年4月1日以降、時間外労働の上限時間は960時間になる。この規制により発生する諸問題が2024年問題と呼ばれている。

人手が減って運べる荷物の量が少なくなり、私たちの生活にも大きな影響がありそうだ。トラック運転手の労働問題などを中心に執筆されている大阪生まれのフリーライター・橋本愛喜さんにお話を伺う。橋本さんは、過去にトラック運転手をしていた経験もある。

フリーライター・橋本愛喜さん:
実家の工場で扱っていた金型を10年ほど運んでいました

そんな橋本さんに、2024年問題は私たちの生活にどんな影響を及ぼすのか?荷物が届かなくなるとも言われるが、どうすれば解決できるのか、聞いてみた。

2024年問題で最近よく取り上げられる衝撃的な数字がある。このまま対策を打たないと、2030年には35%の荷物が運べなくなるという試算を、1月に野村総研が発表した。

Q.「35%の荷物が運べなくなる」というインパクトある数字をどう受け止めていますか?

フリーライター・橋本愛喜さん:
35%も荷物が運べなくなる…という言葉だけを聞くと不安になる方もいらっしゃるかもしれませんが、これはあくまで対策を取らなかった時の試算。これが現実にならないようにいま業界は色々と対策をしているところです

個別の宅配よりも「企業間輸送」が最大の問題

私たちの自宅に荷物が届かないのではないか…と心配になってくるが、橋本さんによると、2024年問題は実は「宅配」の問題ではないそうだ。

フリーライター・橋本愛喜さん:
これまで2024年問題は“宅配”と絡めて報じられることが多かったですが、個別の配達は物流全体のたった7%。2024年問題で一番影響を受けるのは、企業間輸送を担っているトラックドライバーです

こう聞くと、「なんだ…消費者の自分には関係ないじゃないか」という声が聞こえてきそうだが、実は宅配以上に深刻な影響が生活に出てくることになる。

Q.宅配以上に深刻な影響というのは、どんな影響ですか?

フリーライター・橋本愛喜さん:
たとえば、ネットでレトルトカレーを注文したとすると、そもそも工場に材料を運ぶトラックがなくなる、牛に与えるエサなどを運ぶドライバーさんたちの問題なんです。つまり2024年問題は、注文した商品が届かないのではなく、注文した商品そのものが作れないという問題になりかねません

物価高で“送料”は上がれど…「ドライバーの私の給料は上がりません」 

ここまでは消費者目線だったが、トラック運転手側に立っても大きな問題だ。 トラック運転手の時間外労働は、このように2024年4月から年間960時間が上限となる。

今回取材したドライバー歴31年の石本さんは「正直もっと働きたい。働き始めた頃の労働時間は青天井。今の手取りは23歳の頃に届かない」と話す。

Q.橋本さん、昔は働けば働くほど稼げた業界だったんですね?

フリーライター・橋本愛喜さん:
今は長時間労働でありながら他の産業よりも給与水準が低い。トラックドライバーの多くは歩合制で働いているので、長時間働かないと生活水準を保てない状況なんです。一方で、かつてトラック運転手はブルーカラーの花形でした。3年走ったら家が建つ、5年走ったら墓が建つとまで言われたことも…。そのくらい過酷ではあったのですが、走った分は稼げていたんですね

フリーライター・橋本愛喜さん:
それがある時から業界への新規参入がしやすくなり、過当競争が激化して、長時間労働の賃金が下がりました。さらに無料の付帯サービス、例えば運んだ商品の検品とか仕分けとかスーパーの陳列までを押し付けられる状況になってしまって…。そんな状況なのに賃金保証の話がない。労働時間を短くしようとすると、ますますドライバー離れが加速してしまうことも考えられるのではないかなと

トラックドライバーの労働時間より「労働環境」の改善が課題

Q.労働時間以外にどういうところを変えていかないといけないと思いますか?

フリーライター・橋本愛喜さん:
長時間労働の是正は大切だが、過労死に影響するところは過酷な労働環境なんです。 例えば、長時間待機を強いられるドライバーは、そこから離れられないのでトイレに行けないですよね。だから水を飲まないようにしてトイレに行く回数を減らすとか…。労働時間を短くするのも大切だが、労働環境の質を改善する必要があります

Q.運送料が上がる懸念があると言われていますが、これは避けられない事なので「懸念」と捉えないで欲しいわけですね?

フリーライター・橋本愛喜さん:
メディアなどで2024年問題を、“運賃が上がる懸念”と呼んでいるが、労働時間を短くしても、ドライバーたちの今の収入を維持する必要がある。そうすると2024年以降は運送料が上がるのは避けられない、だから懸念と捉えないでほしいんです

Q.神崎デスクは、2024年問題の行方をどのように見ていますか?

関西テレビ 神崎博デスク:
2024年問題と並行して見逃せないのがトラックドライバーの高齢化です。若手のなり手が減っていて慢性的な人出不足があります。それを解決するために、トラックの自動運転の研究も進められています。 東京~大阪間などの大都市間を結ぶ高速道路で、例えば先頭のトラックは運転手が乗っていますが、2台目、3台目は自動運転というカタチです。ドライバーを減らして物流を支えていこうという実証実験・社会実験が行われているんです

ここで視聴者からこんな質問が届いた。

Q:物価高で運送料は上がっているが、給料は上がっていない、今後は上がりますか?

フリーライター・橋本愛喜さん:
メーカーが価格の値上げをすると、その理由として必ず聞こえてくのですが物流コストの上昇。でも実はこれは輸出入に関するところの物流に発生するものなので、ドライバーの給料にはまったく関係のない話。宅配の送料が上がっても、企業間輸送のドライバーの給与は上がらない。スーパーで売られている商品への価格転嫁がなされるようになれば、企業間輸送を行うドライバーの給料も上がるのではないかと思います

物流は生活の根幹、それを支えてくれるドライバーの問題は、わたしたち消費者の問題にも直結している。どういう対策を講じていくべきか、2024問題を物流業界だけの問題と捉えるのではなく、社会全体の課題と認識する必要がありそうだ。

(関西テレビ「newsランナー」5月11日放送)

関西テレビ
関西テレビ

滋賀・京都・大阪・兵庫・奈良・和歌山・徳島の最新ニュース、身近な話題、災害や事故の速報などを発信します。