動物虐待で検挙された事件は、2023年、過去最多の181件に上り、虐待された動物の9割近くが犬や猫だった。「動物環境・福祉協会Eva」の理事長・杉本彩さんに、摘発件数が増加した背景や今後の課題などについて聞いた。
猫に吹き矢を刺した疑いなど
警察庁によると、2023年の1年間に動物愛護法違反で摘発されたのは181件、206人でいずれも過去最多だった。このうち、犬が65件、猫が97件で、あわせて9割近くを占めた。
具体的には、河川敷で猫に吹き矢を刺した疑いや、勤務する農場の牛を蹴るなどの暴行を加えた疑いで、男らが摘発された。牛に暴行する動画がSNSに掲載されたのを見た人が通報したのがきっかけだった。
この記事の画像(7枚)こうした一般市民など第三者による通報によって発覚した事件は、118件で全体の半数以上だった。
警察庁は、動物保護に関する社会の関心の高まりが増加の背景にあると分析している。
杉本彩さん「密室で行われた虐待も」
公益財団法人「動物環境・福祉協会Eva」の理事長・杉本彩さんに、摘発件数が増加した背景や今後の課題などについて聞いた。
ーー過去最多の検挙数181件
検挙数が181件で過去最多ということですが、被疑者不明で検挙できなかった虐待、そもそも密室で人知れず行われた虐待があることを考えると、動物虐待の数はこれよりはるかに多いと想像できます。前年よりも増え過去最多になったのは、動物虐待の数そのものが増えてきたと考えるより、動物虐待に対する社会の目が厳しく光るようになり、管轄機関や警察への通報、また動物愛護団体への相談と通報が増えたことによるものと考えられます。
しつけと称して暴力も
ーー最近の傾向について
当協会Evaにも相変わらず相談が絶えません。最近の傾向としては、一般飼い主やペット事業者が虐待の行為者となるだけでなく、本来は動物を守るべき動物保護団体による虐待も多く見られます。しつけと称して暴力をふるう虐待もあれば、世話や医療的ケアなど、すべきことを怠るネグレクトもあります。
さらに、ペットとしての動物だけではなく、畜産における家畜への虐待なども検挙されるようになったことは大きな前進です。動物を使った伝統行事や畜産業、動物園やふれあいカフェの展示など、人間の管理下にあるすべての動物に対して、その扱いが問題視されるようになり、虐待を許さないという市民の意識がいっそう高まったように思います。
行政は権限の下、責務を果たして
ーー検挙数が増加している背景
法改正を重ね、動物虐待が厳罰化したこと、ペットの繁殖・販売業への規制が強化されたことによる影響も考えられ、警察の動物虐待に対する認識が変わってきたのではないでしょうか。
ーー今後の課題は
とは言え、まだまだ法的整備がなされてないところも多く、虐待行為者は検挙されても、心身共に傷ついた動物を適切に保護できる法的強制力もなく、動物たちのその後が確認不可能というケースもあるため、本当の意味での解決には至っていません。また、事件化した後の被虐待動物の保管について、行政は警察に対して非協力的なため、警察が動きづらくなることも多々あります。
行政にはその権限の下、改正された法律を適正に運用し、その責務を果たしていただきたいので、今後も当協会Evaは、適宜地方自治体にも働きかけていきます。
そもそも事業者においては、行政がきちんと指導→勧告→命令と、必要に応じて業の取消しを行っていれば、事件化することもなかった事例も多いはずです。
(長野放送)