自民党の裏金問題の処分が発表されたが、その余波が続いている。「BSフジLIVEプライムニュース」では3人の政治ジャーナリストを迎え、処分の舞台裏、岸田総理の政治責任から解散戦略までを掘り下げ、今後の政局を分析した。

“再審査請求”…責任感じていない塩谷氏は言語道断

長野美郷キャスター:
派閥の政治資金を巡る問題で、自民党執行部は4月4日の党紀委員会で処分を決定した。安倍派で派閥の座長を務めた塩谷元文科相と参議院側のトップだった世耕前参院幹事長には離党勧告、下村元文科相と西村前経産相は1年間の党員資格停止など。世耕氏は「政治的責任を取って離党する」と離党届を提出。一方、塩谷氏は再審査請求を検討すると述べた。

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政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
選挙に自信がある人は素直に受け入れた。世耕さんは5年前の参院選で得票率が70%超、全国トップだった。一方塩谷さんは比例復活で、政治生命に関わる。もう一つは塩谷さんの政治感覚がずれている。組織のトップとして責任を取るのは当然だが、そもそも自分に座長としての責任があると思っていない。知らなかったのになぜ処分されるのかという論理。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐:
世論が全く見えていない。今回の処分は要するに「処分政局」。塩谷さんは、自分は政局に負けたことの犠牲者だと思っており、その憤りが思わず出てしまったと思う。選挙に強くないがゆえの焦りも出ている。

ジャーナリスト 岩田明子氏:
言語道断。次の選挙で勝ちたいなら、処分の前に自ら身を引くべきだった。それをせず、政倫審で真相解明に繋がることに言及もせず、2022年4月に安倍元総理がキックバックをやめろと言った会議にも、(安倍氏の死後の)8月の会議にも出席している。知らなかったという言い訳は通用しない。再審査を請求するなら2つの会議で何があったのかを具体的に語るべき。

反町理キャスター:
世耕さんについては情報が錯綜。関西テレビの報道では、3月25日に二階さんが次期総選挙に出ないという会見をした数日後、地元和歌山県の首長に無所属で衆議院選挙に出るという話をした。離党勧告の処分決定後、地元の首長にまた電話をして今度は謝罪し、これまでの支援に感謝するというやり取りがあったと。これに対し世耕事務所は、全く事実無根で厳重に抗議するとした。

ジャーナリスト 岩田明子氏:
ライバルの二階さんがいなくなり、かつ自分に厳しい処分が下り、公認も得られないなら無所属で衆議院に鞍替えという選択肢をとるのはおかしくないと私は思ったが。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
2〜3週前に世耕さんと話したときは参院選に無所属で出ても勝てるという趣旨の話をされたので、参院選だろうと思っていた。衆院に鞍替えした場合、反党行為とされる可能性がある。勝ったとしても果たして自民党に戻れるか。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐:
離党勧告の話が本格化する前に世耕さんは覚悟をしていた。このタイミングで、無所属で衆院に出ると明示的に伝えたということにはやや無理がある。

反町理キャスター:
岸田総理は会見の中で「私の判断で森元総理に直接電話し事情を聞いた」と。森氏の具体的な関与を確認できてないという話があった。

ジャーナリスト 岩田明子氏:
野党から追及が強まる可能性があり、先手を打ったのだと思う。だが岸田さんと森さんとの関係で、岸田さんが答えろと追及することは難しい。一応、外形上聞くことは聞いたとするためにこの話を出したのでは。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
岸田さんは一貫して、誰から話を聞いたなどは一切言わないと言ってきた。なぜ森さんについてだけ言うのか。追及されているためこの部分だけ言ってしまったのでは。それほど追い詰められていたということ。

仲間を失い自分で動かざるを得なかった岸田総理

長野美郷キャスター:
岸田総理は処分決定を受けた会見で、自身の責任に言及した。「最終的には国民への皆さん、党員の皆さんにご判断をいただく立場にある」「具体的にいつ選挙等を考えているという話ではない」など。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐:
守勢に回る中、自分が政倫審に出て安倍派の幹部たちを引きずり出し、今回処分をした。この後は、政治資金規正法などの改正をして解散の環境を整えるのがたぶん基本的な戦略。処分自体が不発に終わりつつある中、政局について牽制球を投げた発言と理解するのがよい。「党員」だけでなく「国民の皆さん」と言ったのは、計算してのことだと思う。

ジャーナリスト 岩田明子氏:
2023年6月に記者会見で解散を示唆したが、結局、伝家の宝刀を抜き損なった。こうなると大変な政局、困難が待ち受けているというのが経験上のセオリー。なぜ学習していないのか。2023年より状況が悪い中で解散権を振り回してしまうと先が心配。

反町理キャスター:
岸田総理の発言後、新聞各紙はどこも「総理解散の可能性を示唆」と書かなかった。各社スルーしているか。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐:
「チラ見せ」を真に受けてそう書くほど各紙もアホじゃないと。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
岸田さんには、今この危機を乗り切れるのは自分だけだ、自分にしかできないことをやっているという意識がある。また岸田さんは周辺に対し、これは権力闘争だと言っている。そういう心理状況にあることに注意して見る必要がある。

長野美郷キャスター:
岸田総理は自ら一連の問題に積極的に関わり収束に向かわせようとしている。だが、今回の処分について党内の不満も多く、自民党が一つになっているとは見えない。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐:
総理がどんどん仲間を失っており、自分で動かなければいけなくなってしまったというのが正しい読み解きだと思う。派閥解消の表明で麻生さん・茂木さんとの間に決定的な溝ができた。政倫審に自ら出席し、汗をかいていた森山総務会長のはしごを外した。処分の決定と基準の曖昧さで、安倍派の多くをはじめ党内に敵を作った。自ら解決することで9月の総裁選での再選を確かにしようとしたが、逆効果になっている。

ジャーナリスト 岩田明子氏:
「一強」という言葉をはき違えている。安倍内閣は一強と言われたが、公明党にも二階幹事長にも徹底した根回しをして官邸が強くなった。岸田さんは根回しが全くないことが重なり、自分で孤独な環境を作ってしまった。また、議論の様子があまり見られない。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
再結集したところもある。岸田さんと麻生さん・茂木さんの関係は派閥解消の段階でバラバラになったが、処分の原案を作ったのはこの3人。麻生さんは岸田さんの再選でよいと話し始めている。当面はこの三頭政治が主体だろう。ただ、岸田さんは他の人に相談しないで進めることが多く、仲間がどんどん減ってしまう。それがこの政権の弱さ。

補選の見通しと解散のタイミングは

長野美郷キャスター:
東京、島根、長崎の3選挙区で衆議院補欠選挙が行われる。自民党は東京15区で独自候補の擁立を断念し、小池都知事が特別顧問を務める「ファーストの会」が擁立する人物を推薦する方向。また長崎3区でも独自候補の擁立を断念。一方、島根1区では自民党が元財務官僚を擁立。野党は候補者を一本化しており厳しい戦いが予想される。見通しは。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐:
どれも厳しいが、やはり焦点は島根1区。島根は保守王国で、小選挙区になってから自民党は一度も負けたことない。国民がどういう目を向けているか、一番綺麗に数字で見ることができる。負けられないのだが、自民党は一丸になっている感じがしない。島根ではまだ自民党陣営はお通夜のようだと聞く。

ジャーナリスト 岩田明子氏:
野党にとっても、こんな千載一遇のチャンスで島根1区を落としてしまうと、代表を変えろという口実を作ることにもなる。まさに天王山。細田前衆院議長が亡くなっての補選だが、細田さんについてはキックバックの話を他の陣営から言われかねない状況で、自民党は表立った動きをやりにくい。組織を使った典型的な選挙戦ができなければ候補者の知名度が重要だが、候補者は霞が関出身で知名度もこれから。かなり厳しい戦いになると思う。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
補選に負ければ岸田政権が終わるわけではないと思う。命運がかかるほど重要な選挙であり、岸田さんでは総選挙を戦えないという声は出てくると思う。だが「岸田降ろし」に繋がるか。それが自民党のマイナスになるという心理が働きズルズル続いてしまう可能性があると思う。

長野美郷キャスター:
今後の政治日程の中で、岸田総理が衆院を解散するならどのタイミングか。

林尚行 朝日新聞ゼネラルエディター補佐:
実際にできるかどうかと別に考えれば、やはり通常国会の会期末近く、または会期を延長してその終わりに近いところ。いずれにせよ政治資金規正法の改正がどうなるか次第。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
世論調査で立憲民主党の数字がかなり好調になっている。自民党としては、立憲がチャンスのときに解散するわけがないと思う。

反町理キャスター:
野党は岸田さんに解散をやめろと言いながら求めており、自民党は不信任案が出れば否決するが、岸田さんに辞めてもらって新総裁のご祝儀相場の中で選挙をやりたい。言うことと本音が逆転している政局。解散総選挙なしで9月の総裁選を迎えた場合、岸田さんが立候補すれば勝ち目はあるか。

政治ジャーナリスト 田﨑史郎氏:
麻生さんは再選支持だが、岸田さんで選挙を戦いたくない人が多い。立候補するかもしれないが、勝てない。
(「BSフジLIVEプライムニュース」4月5日放送)