劇団四季は2024年5月6日から11月11日にかけて、オリジナルミュージカル「ゴースト&レディ」を上演する。人気漫画家・藤田和日郎氏の作品を原作として、実在の人物フローレンス・ナイチンゲール(以下フロー)を主人公に、ゴーストとの不思議な絆を描いた物語となっている。開幕まで約1ヵ月、役者たちが練習に励む中、メディア向けに稽古の様子がお披露目された。
剣での戦いも!3シーンを公開
劇団四季が脚本や音楽含め創作のすべてを行う“オリジナルミュージカル”は、チケット販売を伴う一般公演としては、2022年の「バケモノの子」以来となる。

演出は、ミュージカル「ノートルダムの鐘」(2016年劇団四季初演)も手がけたスコット・シュワルツ氏。ブロードウェイ作品としては「Golda’s Balcony」や「ジェーン・エア」(共同演出)などを作り上げた功績を持つ人物だ。
今回お披露目されたのは、フローが看護師達と共にスクタリ陸軍野戦病院へ向かうシーン、ゴーストのグレイが生前の人生を回顧するシーン、フローとグレイがお互いの声が聞こえないところで想いを重ねるシーンの3つの稽古となった。

フローが野戦病院へ向かうシーンでは、小道具の新聞を巧みに使用しながら、クリミア戦争の惨状を人々が知り混乱する様子も演じられた。

一方、野戦病院へ向かうことを決意したフローは、力強く曲を歌い上げる。本番の舞台なのかと思うほどの声の響きようで、上演前にもかかわらずハイレベルな仕上がりとなっていた。
このシーンでは、終了後に、看護師たちが歌いながらそれぞれ他の看護師たちの肩に手をおくタイミングや目線の位置などの確認が行われていた。
そして、ゴースト・グレイの回顧シーン。生前のグレイが命を落とすに至った理由などもわかるのだが、決闘のシーンが展開される。

迫力ある剣での戦いの様子に、息を飲むばかりだった。
シュワルツ氏は、役者たちに声をかけ丁寧にアドバイスしていく。終始和やかに稽古は進んだ。

シュワルツ氏は今回の作品の演出について、劇団四季側から話を持ちかけられた際、原作の漫画「黒博物館 ゴーストアンドレディ」に引き込まれ、すぐに了解したという。
有名演出家を虜にした原作漫画
スコット・シュワルツ氏:
新しい企画についての打ち合わせの時、2冊上下巻の英語に翻訳された漫画が提示されました。私は帰りのフライトの中で開けて、気づいたら2冊最後まで読み切っていた。このストーリーに瞬く間に夢中になった。画の力ということももちろんあるが、アイディアが素晴らしいと思いました。
ナイチンゲールの物語をゴーストを通して語る。視覚的にも、ものすごいことが舞台上で出来ると思いました。僕は着陸した直後くらいに、「やりましょう!」とメールしたんです。
こうして、再びシュワルツ氏と劇団四季がタッグを組んで舞台が作り上げられることとなったのだ。

漫画に引き込まれたのはシュワルツ氏だけではない。
グレイ役・金本泰潤さん:
今、SNSなどで人目が気になってしまう社会になっていると思う。でも「自分の信じたもの、信じた道を生きる」というのは1つ教訓にもなりうる素敵な漫画だと思った
「信じた道を生きる」という漫画から受け取られるメッセージは、他の役者も演技中にも感じる気持ちだという。
フロー役・真瀬はるかさん:
信じたいものを信じて人生を歩いて行くということでいいんだと思える。生きていて迷うことはあるけど、この物語からそういう肯定感をメッセージとしてもらっている。選んじゃいけない人生ってないなと。勇気を作品からもらっています

初めて漫画を原作としたオリジナルミュージカルを上演する劇団四季だが、オリジナルミュージカルにかける思いもひとしおだ。
輸入に頼らない!オリジナル作品の重要性
劇団四季・吉田智誉樹代表取締役:
残念ながら、まだ、日本のミュージカルを中心とした舞台芸術界は客観的に申し上げて輸入超過だとおもう。
これからはコンテンツで勝負していくことが大事になるので、そのためにもオリジナル作品づくりはしっかり進めていきたい。特にコロナの体験を通して、色々なフレキシビリティ、可能性を持っているオリジナル作品の重要性を改めて感じた。これからもオリジナル作品の製作を続けていきたいと思う
オリジナルミュージカルを創作する重要性を説いている。また、原作の漫画は男性の読者も多いということで、新たな顧客の拡大も図りたい考えだ。
劇団四季・吉田智誉樹代表取締役:
この後の日本の将来を考えると、少子高齢化は避けられない。日本のマーケットの縮小は、そのまま我々のマーケットの縮小になる。それはなんとしても避けなければならない。方法の1つとして、若年層の観劇体験を早くしてもらうということをしている。もう1つはなかなか劇場にお越しにならない男性層の開拓かと思っている。
今の我々のお客様の構成は、約70%女性、30%男性。2割から3割の男性層を、彼らが興味を持ちそうなコンテンツで開拓していくということは、大きな課題だとおもっている。今回のゴーストアンドレディの藤田先生の作品は男性の愛好者が多いと伺っているので、こういったことが1つの突破口になるかと思っている

劇団四季は1月には新作ミュージカル「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の製作についても発表しているが、その際も吉田代表取締役は男性層へのアプローチについて言及している。劇団四季の舞台で客層にどのような変化が出るのかは、今後大きな注目点になりそうだ。
日本の舞台芸術界の躍進に期待が膨らむ。