ある外交筋によると「中国人は管理しなければならない」と中国側から言われたそうだ。別の外交筋は、「中国人は管理されることに慣れている」とも言った。

全人代=全国人民代表大会(2024年)
全人代=全国人民代表大会(2024年)
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ここで管理する側の中国人とは、共産党指導部であり、権力や金を「持つ側」を指す。管理される側の中国人は一般市民で、いわば「持たない側」だという。持つ側が持たない側を管理するのが中国であり、およそ自治という概念は根付かないということのようだ。

「1億総中流」などと呼ばれてきた日本から見れば、中国国内にある格差や立場の違いは想像もつかないだろう。現地にいても理解するのは困難だ。メディアが権力をチェックし、選挙で定期的に審判を受ける日本とでは、政府と国民の関係も全く違う。そんな中国社会の統治について掘り下げてみたい。

過去に見られる“治める”と“治められる”

自国民の管理がなぜ必要かといえば、奔放かつ自分優先の中国人に自制を求めることは難しいからだ、というのが理由だろう。

天安門事件では「法制、民主」の声が凶弾に倒れた
天安門事件では「法制、民主」の声が凶弾に倒れた

かつての文化大革命(1966年)では知識人らが迫害の対象とされ、天安門事件(1989年)では民主化を求める学生らに対し、時の政権が軍を使って鎮圧した。いずれも手加減などなく、同じ中国人でも「治める側」と「治められる側」の2つに分けられた。

「中国人はいったん火が付くと、際限なくやり尽くす」(外交筋)人たちで、「そこそこ」「ある程度」という感覚が少ないという見方も多い。

2010年の中国漁船衝突事件。海上保安庁の巡視船「みずき」に接近、衝突する「ミンシンリョウ5179」
2010年の中国漁船衝突事件。海上保安庁の巡視船「みずき」に接近、衝突する「ミンシンリョウ5179」

2010年の中国漁船衝突事件で日中間に緊張が走った際には、レアアースの輸出停止や反日デモ、現地の日本人が拘束される事案も発生した。当時、私は北京にいたが、反日感情の急激な高まりを肌で感じた。その緊張感は、福島第一原発の処理水放出時の比ではない。

徹底した管理と性悪説

人々を徹底管理した最近の例でいえば、コロナ禍での隔離政策である。

海外から中国に入る人たちは、中国人であっても有無を言わせず3~4週間の隔離生活を義務づけられた。私自身も部屋から一歩も出られず、全員防護服の係に監視され、およそ人としての扱いは受けなかった。まさに「人が人を管理する世界」だった。

隔離施設には「汚染区」との貼り紙があった
隔離施設には「汚染区」との貼り紙があった

「中国と中国人は典型的な性悪説に立っている」(外交筋)というように、中国人は家族や親しい友人以外は基本的に他人を信用しないとよく言われる。当然ながら、管理される側に対する「情」はなく、管理する側には居丈高な態度を取る人も多い。

また、責任回避が優先されることも管理する側の硬直的な対応に繋がっているのだろう。詐欺などの事件が起きた時も「加害者が悪いというより、騙された被害者が悪い」(中国筋)との声があがる。自分を守り、メンツを維持することが大事な中国人にとっては、管理を厳しくすることはあっても、緩めるのは難しいようだ。

我慢強い一方のストレス

そんな日常に慣れている中国人は「そうとう我慢強い人たち」(外交筋)だと言われている。政治の話にはタブーがあり、突如変わる政策に対応し、当局の管理にも黙って従うからだ。政府に抗議しても仕方ないという、あきらめの心境も混ざっているかもしれない。

ゼロコロナ政策終了後、街には人があふれた
ゼロコロナ政策終了後、街には人があふれた

ただ、そのストレスは「マグマのように溜まっている」(外交筋)との指摘もあり、いつ爆発するかわからないのも事実である。ゼロコロナ政策に反対する「白紙革命」はその証左でもあり、ゼロコロナ政策撤廃後、街に多くの人が溢れたのは、コロナ禍でいかに自由が制限されていたかを物語っている。

さらに情報化によって欧米の文化や習慣も入り、「中国式統治」への疑問も膨らんでいる。生活水準が向上したことで、権利意識が芽生えるのも自然だ。

その一方で、職に就けない若者が真面目に働くのをあきらめる「ねそべり族」も増加している。こうした動きは社会の活力を失わせているほか、今の政治体制に見切りをつけた人たちは海外に拠点を移している。海外からの投資よりも国家の安全が優先される社会に、不安を指摘する声は増すばかりだ。

“暗い社会”と管理の“適否”

「中国人は管理しなければならない」と発言した中国人は当然「管理する側」で、マグマが爆発したときの中国人の怖さや実態をよく知っているということだろう。政府は国民の不満が高まればさらなる力で押さえつけ、その矛先を海外にそらし、自らの正当性を主張し続ける。役所などの組織が「全員が上司の顔色を見るヒラメ状態」(日中外交筋)であれば、柔軟に対応する余地はさらになくなる。

中国外務省は記者会見で、用意した文面を読み上げることが多い
中国外務省は記者会見で、用意した文面を読み上げることが多い

経済成長によって日々の暮らしがより良く、便利になっている時期はまだしも、成長が鈍化し、コロナ禍から先行き不安が広がってしまった今となっては「お金を使いたくない、暗い社会になった」(中国筋)と言われるのもうなずける。

週末夜の北京市内。人は戻りつつあるが、社会には先行き不安が広がっているという。
週末夜の北京市内。人は戻りつつあるが、社会には先行き不安が広がっているという。

貧富の格差や地域による格差、教育レベルや民度の差などにより、一律の政策では対応できないところに中国の複雑さや難しさがあるように思える。その格差が14億人にのぼるとなれば、国をひとつにまとめる手法など簡単に見つかるものではないだろう。そうであれば上から押さえつけて管理してしまう、というのは中国ならではの統治の仕方なのかもしれない。
(FNN北京支局長 山崎文博)

山崎文博
山崎文博

FNN北京支局長 1993年フジテレビジョン入社。95年から報道局社会部司法クラブ・運輸省クラブ、97年から政治部官邸クラブ・平河クラブを経て、2008年から北京支局。2013年帰国して政治部外務省クラブ、政治部デスクを担当。2021年1月より二度目の北京支局。入社から28年、記者一筋。小学3年時からラグビーを始め、今もラグビーをこよなく愛し、ラグビー談義になるとしばしば我を忘れることも。