神奈川県小田原市にあるコンビニで、品出しをしていた男性店員の首などを刃物で切り付けた29歳の女が殺人未遂の現行犯で逮捕された。
コンビニでの切りつけ事件は、札幌市や広島市など、今年に入り全国各地で相次いでいる。
なぜコンビニは狙われるのか。また、どういった人物が事件を起こすのか。
犯罪心理に詳しい、明星大学心理学部の藤井靖教授に聞いた。
店内構造が似ていてわかりやすい
ーーコンビニが狙われる理由は?
コンビニは自分が望んだ犯行を成し遂げやすい環境なのだと思います。
店員の数は少なく、客との距離も近くて接触しやすいです。
また、コンビニは犯罪心理の観点から言うと、「場所的画一性」と言って、ほぼ、どの店も同じような広さと作りで、構造がわかりやすくなっています。
そして犯罪者が敬遠するのは「不確実要素」の多さです。
コンビニは予測がつきやすいので、自分の目的を果たしやすい、不測の事態が起こりにくい場所として犯行現場に選ばれやすい傾向にあります。

ーーなぜスーパーよりもコンビニ?
コンビニは犯罪者の生活圏の中に必ずあると言って良いほど身近な場所で、多くが24時間営業をしています。
一方、スーパーは客も店員も多く、何が起こるか分からないという点で不確実要素が多いため、犯罪者は敬遠します。
誰でも気軽に入れて、徒歩圏内にあるコンビニは、犯罪者にとってハードルが低いと捉えられがちです。
“孤独”から視野狭窄的な思考に
逮捕された女は、「さまざまなことに追い詰められていたのでやりました」と話しているという。
この犯行動機について藤井教授は、「孤独感も加わって柔軟に物事が考えられなくなった可能性がある」と指摘する。

ーーどういう人が犯行に及ぶ?
人を傷つける犯罪は、自分のネガティブな気持ちを発散して、自分の人生も終わらせるといった、ある種、自暴自棄的な共通した心理があります。
その背景にあるのは、主観的な「孤立感」や「孤独感」です。
例えば、仕事がうまくいかないとか、病気だとか、なりたい自分になかなかなれなくてモヤモヤしているなど、何らかの恨みや怒りといったネガティブな感情を抱えた結果、行動として、誰かを傷つけて自分なりに発散して、自分の人生も終わらせるといった心理です。

ーー逮捕された女も「様々なことに追い詰められていた」と話していたが?
世の中には追い詰められている人はたくさんいますが、そこに「孤独」がプラスされると、人間の思考は視野狭窄的になっていって、柔軟に物事が考えられなくなってしまいます。
自分が追い詰められた時に、周りが気付いて声をかけてくれたり、コミュニケーションを取れたら、自分の偏った考えは和らいだり、別の考え方に気付くなど思考が広がります。
しかし孤立してしまうと、自分の考えの硬さを和らげる機会がないので、思考がどんどん尖っていってしまい、結果として犯罪に至るのが典型的なパターンです。
人との関わりで思考の“偏り”に気付く
多くを語らなくても日々人と接しているだけで、ネガティブな感情を一時的に忘れられる効果があると藤井教授は話す。

ーー「無職」であることも影響する?
人と日々接していること自体が、自分の偏った考えを薄める経験になるので、無職だと人と関わる機会が絶対的に少なく、自分の考えだけが積み重なっていってしまいます。
自分のことを何でもかんでも話して相談しなくてはいけないということではなく、日々職場で人と接して多少のコミュニケーションをとっていれば、ネガティブな感情を一時的に忘れられたり、意見交換することで自分の考えの偏りに気付いていくプロセスがあります。